―02― 世界一かわいい転校生
おこがましい。
オレが寧々に告白したとき、彼女に言われた言葉だ。
確かに、彼女とつきあおうだなんておこがましかった。
オレはなんの取り柄もない陰キャでコミュ障でクラスのはぐれモノ。対して、寧々は明るく社交性もあって、いつもクラスの中心人物。
そんな寧々とオレが初めから釣り合うはずがなかったんだ。
「よぉ、
教室へと行くと、前の席の
「よぉ」
軽く返事をしながら席につく。
机には、今朝寧々に貸したノートが置いてあった。
離れたところで寧々を含む陽キャグループが談笑をしている。どうやら宿題とやらはすでに写し終えたらしい。
「七皆さん、今日もかわいいよなー」
ふと、澄川が突然そんなことを口にする。
オレが寧々のいる辺りを眺めていたせいだろうか。
「お前、あんなのが趣味なのか?」
「おい、なんだその聞き方。七皆さん、クラスでも一番、いや、学校で一番かわいいだろ! この前もサッカー部の先輩に告られたみたいだしよー。ほら、サッカー部のイケメンで有名な先輩いただろ。えっと、名前なんだったかな……」
「あいつモテるんだな」
まぁ、そんな噂は何度か耳にしたことはあるが、まさかサッカー部のイケメンの先輩から告白されるとは。つきあっているんだろうか? 特に寧々からそんな話を聞いてはいないが。
「おいおい、なんだよ、その言い方。お前は七皆さんに興味ないのか?」
「いや、そういうわけでは」
「まぁ、卑屈になる気持ちはわかる。俺たち陰キャ同盟にとって、七皆さんは高嶺の花だからな」
「おい、オレはそんな同盟にはいった覚えはねーぞ」
ともかく、澄川がここまで七皆寧々のことを高く評価する気持ちはわからんでもない。
寧々が美少女なのはオレも昔から知っている。
でも、性格が最悪だからな。正直、あんなやつオレはごめんだ。
「おーい、お前ら席に座れー」
担任が教室に入ってくると、教壇にあがる。
雑談していた生徒たちは一斉に会話をやめ、自分の席へと戻っていく。
「今日はお前らに転校生を紹介する」
途端、教室がざわつき出す。
突然、転校生なんて言われたら無理もない。
「おい、この時期に転校生って珍しいな」
前の席の澄川も話しかけてきた。
確かに、今は高校二年の五月の半ば。転校する時期としては中途半端。
「おい、静かにしろ。うるさいと、いつまでたっても転校生を紹介できないだろ」
三星先生の言葉もあり、生徒たちは静かになった。
「それじゃ、入ってきていいぞ」
教室が静かになったのを確認すると、そう手招きした。
そして、扉が開いて、一人の女子生徒が教室に入ってきた。
「「――――ッ」」
誰もが息を飲んだのが容易に想像がつく。
煌びやかに輝く髪の毛。日本人離れした顔立ち。くっきりとした大きな目元。歩き方からして、いいとこのご令嬢なんじゃないかと思わせる。
まさに、絶世の美女という言葉がお似合いだ。
「それじゃあ、自己紹介を頼んだ」
「
彼女の挨拶はどこか淡々としていて愛想がなく、顔つきもずっと無表情だった。
けど、そんなことおかまいなしに教室中から歓声が沸き起こる。
「かわいい」だの「お人形さんみたい」だのそんな歓声だ。「こんな美少女と同じクラスメイトになれるなんて。オレを生んでくれてありがとうー! おかあぁあさん!」と親に感謝しているやつまでいる。キモいな、と思ったら、澄川お前かよ。
「それじゃあ、風不死の席はあそこだな」
三星先生が指差したのはオレの隣だった。そういえば、隣の席は空席のままだったな。
おかげで「おい、羨ましいぞっ!」とか「席ゆずれ!」とか「死ね」とか罵倒が聞こえてくる。
「よろしく、風不死さん」
ひとまず隣の席ということで挨拶を。
すると、彼女は「よろしく」と端的に返事をして席に座った。
◆
休み時間になるとそれはそれは大騒ぎだった。
誰もが謎の転校生風不死椎名に話しかけたいと思い、彼女の席へと殺到する。
「ねぇ、風不死さんって、前までどこに住んでいたの?」
「海外です。国名は有名じゃないので、言ってもわからないと思います」
「なんでこの時期に転校してきたの?」
「諸事情です」
「今はどの辺りに住んでいるの?」
「内緒です。あまり個人情報は関係ない人に教えたくありません」
隣の席だから会話の内容が嫌でも聞こえてくるが、どうにも風不死さんは、よく言えばクールな性格、悪く言えば愛想がないらしく、会話がいまいち盛り上がっていない。
「今日の放課後、一緒にカラオケにいかね?」
「嫌です。今日は用事があるので」
「そ、そうなんだ。だったら、明日はどう?」
「嫌です。あなたにあまり興味がないので」
「そ、そっか……」
風不死さんに無碍に扱われたせいで落ち込んだ生徒がまた一人彼女の席から離れていく。
とはいえ、彼女の美貌のせいで、次から次へと生徒ちが集まっていく。美少女ってのも大変なんだな。
「あなた、
授業が始まる直前、風不死椎名が話しかけてきた。
「えっと、そうだけど……」
「やはり、そうでしたか」
あまりに突然話しかけられたので驚いた。まだ心臓がはねている。
あれ? なんでオレの名前知っているんだ? 自己紹介をした覚えはないぞ。
そんなことに気づいた頃には、彼女はオレから視線を外して前を見ていた。聞くタイミングを完全に失ってしまった。
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