別の女と婚約したら、オレを散々こき使っていた幼なじみが『絶望』した
北川ニキタ
―01― 幼なじみにフラれた
「寧々ちゃんのことが好きです! 僕とつきあってください!」
あの頃のオレはまだ純粋だった。
幼なじみの彼女にそう言って告白するぐらいに。
あのときのオレにとって、彼女は憧れの存在だった。勉強もスポーツもできて、教室ではいつもリーダー的立ち位置で、たくさんの友達に囲まれていた。
そんな彼女がオレの幼なじみであることがとても誇らしかった。
いつも彼女はオレを連れて歩いたし、クラスの中心だった彼女と一緒にいれたおかげで、オレ自身もクラスの中心人物であるような錯覚を覚えてしまった。
だから、オレがそんな彼女のことを好きになるのはとても自然なようで。
「は? なにそれ。ウケるんだけど」
それが彼女の答えだった。
いつも笑顔を浮かべている彼女はそこにはおらず、嘲笑をこもった瞳でオレのことを見つめていた。
「
「寧々……?」
彼女が初めて顕にする本性に戸惑いを隠しきれない。
「でも、そうね。つきあってあげることはできないけど、ワタシの下僕だったらいいよ?」
「下僕って……?」
当時のオレにはその言葉の真意がわからなかった。
「ワタシに一生服従しなさいってことよ」
「わかった、オレ寧々ちゃんの下僕になるよ」
「いい返事ね」
当時のオレは寧々の隣にいることができるなら、下僕でもかまわないと思っていたのだ。
◆
「――あ」
目を覚ます。
時計を見る。どうやらセットしたアラームが鳴るより早く目を覚ましてしまったようだ。
久しぶりに小学生のときの夢を見てしまったな。
オレが寧々に告白する夢。
あまりいい気分ではない。
「おはよう、お兄ちゃん。あ、朝ご飯の準備してくれていたんだ」
「あぁ、おはよう。もう少しだけ待ってくれ」
台所で朝食の準備をしていると、妹のアキが眠たげななまこを擦りながらやってきた。
この家にはオレと父さんと妹の三人暮らしのため、オレが家事全般を請け負っていた。
「父さんは?」
「まだ寝ていると思うよ」
「そうか」
昨日、父さんは夜遅くまで帰ってこなかったし、疲れているんだろうな。
「なぁ、アキ。ほとんど終わったし、あとは任せてもいいか?」
「うん、いいよ。今日も、寧々ちゃんのとこに行くの?」
「あぁ、そうだな」
「お兄ちゃんも健気だねぇ。毎日、幼なじみの家に通うなんて。将来、結婚しちゃえば」
「馬鹿なこと言うな」
おもしろくない冗談を言った妹の額をデコピンしてやる。「うへっ」と妹は変な声を出した。
寧々と結婚だなんて、冗談だとしてもおもしろくない。
「そんなわけで寧々のとこに行ってくる」
「はいよー」
俺は学校の準備を済ませた上、朝ご飯をタッパにつめて、さらにお昼に食べるお弁当を二つ分用意する。
そして、寧々の家に向かった。
彼女はオレと同じ高層マンションの下の階に住んでいる。だから、昔から両親を含めたつきあいをしていた。
そんな彼女は現在、分け合って一人暮らしをしている。
ピンポンを鳴らしても出てこないな。
寧々の家のインターホンを鳴らすも反応がなかった。まぁ、いつものことなので、なんとも思わないが。
ポケットの中から合鍵を取りだしては、玄関の扉をあける。
「おい、勝手に入るぞ」
そう言うも、反応はない。
どうせいつものような寝ているんだろう。
にしても、部屋の中、この前掃除してやったのに、また一段と汚くなっているな。今度、また掃除をしに行く必要がありそうだ。
「朝ごはん持ってきたぞー」
そう言って、テーブルに家から持ってきた朝ご飯を並べる。
なぜ、俺がこんなことをしているのか?
七峰寧々は一人暮らしをしているのに、残念なことに彼女には自活能力が壊滅的なまでになかった。1人でご飯を用意することも掃除することもままならない。
そして、学校へ行くことすらままならなくなった彼女の様子を見に行ったところ、そのことが発覚したのだ。
結果、オレがこうして寧々の面倒を見ることになっている。
俺としては、いつも自分の家の家事を担当していたため、特に苦に思うことはなかった。
「やっぱり、まだ寝てるな」
彼女の寝室に行くと、ベッドでぐーたらと寝ている寧々がいた。寝相が悪いのか、シーツを布団の外に放り投げている。
ちなみに彼女はスケスケのパジャマを着ていた。
胸元や腕やあちこちが透けている。いつも思うが、なんでこうも直視しづらい服を着ているんだろう。
「おい、起きろ」
そう言いながら、彼女の肩を強く揺さぶる。ただ、大声をだすだけでは起きないのは長年の経験から学んでいる。
だから、仕方なく頬を思いっきし叩いた。
ビンタともいう。
乾いた音が鳴り響くと共に、彼女が飛び起きる。
「ギャーッ」
叫びながらグルングルンとベッドの上を転がってはズテンと床へ落ちる。
「いたっ、もっと優しく起こしなさいよね」
頬をさすりながら彼女は起き上がる。
「すぐ起きないからな。仕方なくだ」
朝は時間がないんだよ。起こすの時間をかけていられるか。
「……下僕のくせに生意気」
寧々はオレのことを睨み付ける。
下僕ね。未だに、こいつに下僕と言われるんだから、あんな約束しなければよかったな。
「おい、なにをしているんだ?」
彼女はオレに対して両腕を伸ばした状態で立ち止まっていた。そのポーズにどんな意図があるのか、オレには理解しがたい。
「着替えを手伝わせてあげる」
「……は?」
ウザいので彼女の額を軽くデコピンする。「かわいい顔に傷がついたらどうすんのよッ!」とか言って喚いた。大げさなやつめ。
「てか、異性に裸を見られても平気なのかよ」
「別に。だって、奏生はワタシの下僕よ。下僕に裸の一つや二つ見られてもなんとも思わないわ」
よくドヤ顔でそんな戯言が言えるな。どうやらこいつの中では、オレは男として見られていないらしい。
「それに、この前着替えを手伝ってくれたでしょ」
「あれは仕方なくだな」
確か、あのときは遅刻しそうで時間がギリギリだったんだ。それで寝ぼけて着替えすらおぼつかない寧々の服を無理矢理ひっぺはがす必要があった。ちなみに、大事なところは極力見ないようにがんばった。
とか言っている間に、寧々はパジャマを脱ごうとする。
なんで、俺がまだ部屋の中にいるのに着替えようとしているんだよ。俺は慌てて部屋から出た。
「奏生、今日のご飯もおいしいわね。褒めてあげるわ」
「そうか、それはよかったよお姫様」
テーブルにて、寧々は朝ご飯を食べていた。ちなみに、俺は寧々の後ろに立って、彼女の髪を梳かしていた。
彼女の髪はモフモフとしていて、飛び跳ねるため、時間をかけてブラシで梳かす必要がある。
ちなみに、オレは寧々が着替えている間に、朝ご飯を食べ終わっていた。
「ねぇ、奏生」
「なんだよ」
「今日の宿題やった?」
「また忘れたのか」
「だって昨日、疲れて寝ちゃったんだもん。仕方がないわ」
「そうか。あとで俺のを貸してやるよ」
ため息交じりにオレはそう口にする。
「最初からそう言えばいいのよ。あなたはワタシの下僕なんだから」
うざっ。
目の前にあるこいつの髪の毛をひっぱってやろうかと思うが、思いとどまる。ホント世話のかかるやつだよ。
「そんなことより、早くご飯を食べろ。遅刻すんぞ」
「わかったわよ」
準備を済ませると、俺たちは一緒に玄関を出た。
「ねぇ、下僕。わかっているわよね?」
そして、念を押すのように彼女はそう口にした。
彼女がなにに対して言っているのか俺には考えずともわかる。
「俺がお前のお世話をしていることをみんなには内緒だろ」
「そう、わかっているならいいわ。あなたみたな陰キャにお世話されているなんてバレたら憤死ものだからね」
寧々は自分の朝のだらしなさが傍から見たら恥ずかしいことだと自覚しているのか、隠したがっている。まぁ、俺も同じ立場なら、彼女と同じことを思うだろう。
だから、俺たちの関係は学校では内緒だ。
「それじゃあ、ワタシは先に行くから」
そして、そのことを徹底的に隠すためにも俺たちは朝こうして会うにも関わらず、別々の時間帯に登校するのが決まりだ。
「いってらっしゃい」
そう言って、寧々が通学路へと消えていくのを待っていた。
この一連の流れは毎朝のルーティンで、これからも続くんだろうと、このときの俺は思っていた。
なんせ、オレは彼女に絶対服従を誓ってしまったのだから。
「ん?」
ふと、ポケットに入れていたスマートフォンが震えていた。
『奏生、悪いな突然電話をかけて』
電話に出ると、父さんの声が聞こえてくる。
「珍しいね、電話をかけてくるなんて」
『いやな、お前に大事なことを伝え忘れていたことを思い出してな』
「大事なこと?」
そんな改まって一体なんだろう。
『今日、奏生に紹介したい人がいるんだ。だから寄り道せずに早くに帰ってきてくれ』
「まぁ、わかったが……」
紹介したい人って一体誰だろうか? まったく見当もつかない。
だから、それを尋ねようとして口を開いた途端、通話が切れてしまった。ホント、誰も彼も勝手なやつばかりだ。
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【あとがき】
初めてラブコメに挑戦しました!
モチベに繋がるので、応援いただける方は作品フォローのほうをよろしくお願いします!
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