第3章 処女と生贄の儀式(伏字)

(※ 15歳以下閲覧禁止 2023年1月20日)


おそらく問題箇所を伏字にしてみました。

(*は一文字に対応します。そして、その一文字を別の字に置き換えたものを入れた場所もあります。その場合は( )内に新しい文字を入れています。)


むしろ15歳だと、何のことかわからないという視線で読んでください。

経験者が脳内変換して読むから、猥褻だと感じる。特に*を入れたので、たとえ一文字でも、かなり変わっているはず。



性の未経験者が読むのと、経験者が読むのとでは、全く違った印象になるように最初から書かれています。(ちなみに主人公は仏留学している大学生、大人です。)


〜〜〜〜


第3章 処女と生贄の儀式


緩やかな階段をヒールで踏みしめて登る。真紅の絨毯に吸い込まれ、音はしない。


咲花は文字通りずっとお人形だった。もはや耐えきれなくなりつつあった。咲花のこの陰鬱な気分の原因は、ままならない人生に対する不満と、養父母へ芽生えた猜疑心と反発心かもしれない。自由に生きたい。でも、9月には日本に帰国が決まっている。


「ここだよ……」


ふと、我に返って、咲花はムッシューとの距離が微妙に近づいたことに気づいた。心なしか、親しみのこもった目で咲花を見ている気がする。


重厚な木のドアに大理石の床。このドアの先は……



「一時間後、君も生まれ変わったみたいに『自由』になる……何をするのも、どこでどう生きるのもまるっきり、『自由』だ。そのことに気づいて驚くだろう」


ムッシューが大げさな言い方をする、と咲花は上目づかいにムッシューを見つめた。


自由? 生まれ変わったみたいに?


さっきのボンボンのせいで、胸の鼓動が早鐘のように感じられた。チョコレートの中身は柔らかい真っ白の大きなマシュマロで、中央にコニャックの効いたラズベリーのソースがどろりと、たくさん仕込んであった。


自分を見る冷たい、冷徹そうなムッシューの瞳が何か、ねっとりと意味ありげに見えるのは気のせい?冷たいものと、熱いもの、相反するものを感じて、咲花は、言い知れないような胸騒ぎを感じた。盗み見たムッシューの端正な横顔は、何を考えているのか咲花には全くつかめなかった。


平日の昼下がり。それにしては、この扉の向こうには、大勢の人がいる気配がする。

低い静かなピアノの音が聞こえてきた。ムッシューがドアを開けた。押し殺されたような不気味な熱気。さっと、ムッシューは咲花に薄いフルート型のシャンパングラスを手渡した。ムッシューの指先が偶然触れ、その温かさに咲花は驚いた。


部屋は薄暗く目が慣れるまで時間がかかる。奥の部屋に咲花を連れて行く。咲花の動悸がまた激しくなった。


ジュースのように無防備に飲んでしまったシャンパンのせい?



その時、カメラのフラッシュのような突然の閃光に、咲花は思わず目をつぶった。一瞬焼きつくように見えたもの以外は、すべてが赤いままだ。ショックで立ち尽くしていると、ムッシューがすぐ耳元で言った。


「……心配は要らない」


ムッシューはそっと咲花を引き寄せ、上手にリードして、全く目が見えなくなった咲花を奥へ奥へ連れて行く。


突然の閃光の中で見えたもの……


咲花はショックというよりは、まだまったく状況を理解していないゆえに、むしろ、初めて親に連れられてお祭りに来た子供のようだった。


大広間サロンは広く、そしていくつも独立したちゃんとした部屋もあるために、一体何人ぐらいの人がここにいるのかは全く見当もつかない。とにかく……だった。うごめく生身の人間の気配、たとえ見えなくとも、異様な雰囲気は察知しつつ、何が、どこが、おかしいのか、深く考えないように、見ないように、とにかく足早に通り過ぎた。何より、咲花自身がおかしくなり始めていた。体の芯が疼くように熱い。ここでは……まるでおかしな人たちが、そちらが正しいかのように思えてくる。


「ここで今から、言われた通りに、朗読するように」


咲花は持っていた重い本を開いた。この本をまるで読んでいる風に、朗読する……。これが今日、自分がすべきこと。


「では、はじめ給え」


ムッシューの声がすぐ耳元で聞こえた。熱い。咲花は背中がぞくぞくした。その感覚に抗うように、咲花は、澄んだよく通る声で、自作の詩を暗唱し始めた。


 この暗い夜空を今見上げているのは 


 わたくしだけではないはず

 

 こんなに離れてはいても あなたの眼差しを 今この瞬間にも感じているわ

 

 どこにいようとまるで あなたが夜空で一番にわたくしの道標となるの

 

 あなたのその瞳 まるで星を映す鏡のよう

 

 遠くにいて初めて きっとあなたはわたくしを見つけてくださるでしょう


 行く先々を照らす光となって


 もしも愛してくださるのな……




……らぁッ……!




朗々と謳いあげていた咲花の声が思わず途切れた。


? ……ッ、………?


重い本で両腕がブルブル震える。咲花にだけは、場違いな強い照明が当てられるせいで、目がおかしい。咲花からは何も見えないけれど、周りからは、咲花だけが、まるで舞台のようにくっきり浮き上がっているはずだ。


誰かが。。。咲花をずっと**(見)回している。……そんな気がする。


咲花は言われた通り、平然と朗読を続ける。本を読んでいるような振りで。


頭の中が真っ白になり始めた。*(見)られているようで、*(見)られていない……何?



勝手に体が、敏感に反応し始めた。どういうことなのか、咲花にはわからなかった。何かが……。滑らかに自分の体を……。ゆっくりとわからないくらいゆっくりと、*(見)回してる。きっと、そう。そんな気がする。


咲花は詩の暗唱を続けながら、思わず、身をよじった。生暖かい気配が、自分のすぐ側にある。気がついた。耳にぞっとするような、腰が一瞬で建物のように砕けてしまいそうな甘い何かを感じたかと思うと、まるで、マスカットの収穫のように、敏感なはちきれそうな白いブラウスのレースの上を……ああ、身動きが取れない。


咲花は必死で、暗唱を続ける。身をよじっても逃げられない。重い本を支える手がブルブルと震えた。何を朗読しているのか、空で何千間も暗唱した、そのセリフに似た自分の詩の朗読を……自動的に……なんとか続けるしかない。あの人に捧げる……愛の詩……


その間も、繊細な白くて長い熱い指先が、触れるか触れないかの場所をゆっくりと愛おしむ。まるで自分のすべてを知り尽くしているよう……


頭の中が真っ白になってきて、壁にもたれるように、思わず後ろによろめいた。その時、初めて、自分のすぐ背後に何かいることに気づいた咲花。



身をよじり逃げ出そうにも、逃げれば逃げるほど、執拗に付きまとい、咲花に狂おしくまとわりついてきて、輝くような感じやすい部分を何箇所も同時に*でまわし、時に軽く弾き、つまみ、咲花が思わず声を上げる前に、ピアニストのように繊細な指先が、さっと咲花の唇と鼻を大きく*いだ。


右脚に、すぅぅぅ……と耐えきれない邪な何かがビロードのように滑らかに一直線に這い上がってきた気配がした。ああ!咲花はもう自分が何をしているのか、わからない。スカートの中、レースのペチコートの下……陶器のように白い咲花の隙間にそろそろと遠慮がちに……咲花はできる限りに思わず背伸びして逃げようとしてむしろ、結果的に誘うこととなった。


……ぁんっ!


その時、何かが、咲花の中心をまるで捉えたみたいに、咲花はびくん、と、思わず声にならない短い声をあげ、のけぞった。何かが、咲花を甘い崖に突き落とす。



咲花は必死に暗唱しようとした。本を持つ手がブルブル震え、何とか耐える。突き刺さる視線。誰からも見えないことを祈るしかないけれど、咲花の中にうごめく咲花でないものは、寄生パラサイトするように、咲花を感じさせながら、奥へ奥へ食い込もうとした。その間も、何度も何度も、リズミカルな刺激を咲花は桃色の淡水真珠のような美しい胸の先に受け、海老のように我慢できずに全身をらせながらも、それでも、必死で平静を装うよう努力し、その直後、あっさり無駄な努力を放棄したように、意識が混濁したかのように、咲花は錯乱し始めた。もはや、誰が見ても、明らかに咲花に異常が起こっていることは確かだった。


.......全て剥ぎ取られるみたいにどうなってもいい。全て毟り取られるように。ああ!何もかもが邪魔に感じる。立っていられない。ああ……ああ……


「続けなさい。しっかり立って」


その間も、全く言葉とは真逆の……刺激は途切れずに続けられた。その矛盾に抗う咲花はもはや、自分がどこで何をしているのかさえ、わからなくなりつつあった。


……なぜ?


理由も何もわからないままに、とにかく言葉など出てこない。


言葉などに何の意味があるの?


そうよ、そう言いたかったのよ、あなたは私のこと、何も知りはしないわ。あなたは私のことなど愛していない、見てもいない。私はあなたに、あなたに、見て欲しかったのに……


咲花は涙ぐみ、このまま自分が地獄の淵に落ちてもいいような誘惑と戦った。


続けるには、理性を……耳元の命令と真逆に足を引っ張り続ける背後の存在。


咲花は何とか続けようと、そのうちに、自分の甘い息遣いが頭の中に響くばかりになり、意識が飛びかけた。何か言葉を紡ごうとすればするほど、その言葉は意味を成さない”ただの甘い吐息”となった。木霊こだまするようなその自分の悩ましい声を咲花は初めて聞いて、あっさりこのまま悪魔の手に落ちてもいいと思い始める自分がいた。ああ……!


初めての甘美な感覚は、咲花を虜にした。


頭がおかしくなりそう……



ああ…………


真珠のような咲花の朝露を誰かが愛おしげに優しくゆっくりと中指と薬指の二本で掬って取った。そんな気配がした。甘い滴を誘って、何かが、咲花に出来るだけ無理をさせながらに、そのまま優しく奥へ奥へ後戻りを繰り返し、何かが柔らかく食い込む。太った蛇に貫かれるような気配がする。いつまでも行って終わりがなく、それは逡巡などでなく、とにかく永遠にまっすぐに蛇は一方的に咲花に食い込んだ。何も知らない処女おとめをそうやって誘っているように。咲花は気が狂いそうになり、自然に震えて、自ら穢れのない魂を価値のないもののように扱って、辺りに思わず身を投げだして、捨ててしまうかのように、狂い悶えた。


ああ、ああ、ああ……

もっと もっと


まるで吐息のような微かなため息が、真っ暗な部屋のあちこちから聞こえる気がした。咲花の言葉は、もう全く意味を成そうともしていなかった。別の音が、頭の中に聞こえる。大きく。人形にはあるまじき生きた音。淫らな音がする。自分から淫らな音が聞こえる。聞いたことのないような音。


とにかく、もうどうなってもいい、何かが、何かがおかしいことは確か。咲花は思わず、逃げるように身をくねらせた。最後の抵抗のように。そうすればするほど、執拗に、さらに逃げ場のないような場所に追い詰められていった。甘い何かが、自分を狂わせ、憑かれたように自然に咲花は大きく上下に激しく思わぬして、揺れ始める。


自分の意思の存在しない場所で、咲花はまるで爪弾かれる楽器のようだった。分厚い本はとっくの昔にばっさりと大きな音を立てて、床に落ちていた。落ちた本を拾い上げることもままならず、自分の言葉をコントロールすることなど到底出来ず、途切れ途切れに喘ぎ、咲花はもはや成されるがままの自由な音を奏でた。


「続けるんだ……しっかりしろ」


耳元に途切れ途切れに飛び込んでくる低い声に我に返っても、分厚い本を手渡されても、咲花はどこまで暗唱したのかわからなくなり、同じ箇所を何度も何度も繰り返した。それは悲痛な叫びなどではなく、むしろ歓喜で、古い音楽や絵画に表現されてきた『歓喜そのもの』がそこに体現されていた。そうであっても、現実には咲花は助けを求めるように、藁をも掴もうと、もがいていた。体が全く自分の意思とは別のところにあり、どこに触れられても叫びだしたくなるくらいの激しい*感の中で、咲花はそのうちに、すべてを破壊して欲しい、そう思い始めた。自然に胸元を思わず搔きむしりそうになる。弾けるように、すべて……奪い取って……でもそれができない、そうしてはもらえない、ああ、なぜ?


人形のように……ああ!


ああ、ああ、我慢できない!!


咲花は初めて、自分は人形でなく、「人」だったのだと意識した。


理性の城というものは、いとも簡単に……気がつけば、まるで膝をつくように、咲花は懇願の言葉を口にしていた。もっと…もっと もっと もっと…… もっと……ああ、お願い……もっと!


ああ……!お願い……お願い……!もっと もっと もっと……



*感にとろける炎のように咲花は狂ったように燃え上がり、身をくねらせ、咲花の意思とは何ら関係ないところで、炎は揺らめき、飛び散って増えた。次々と目の前で感応するように蓮乗はすの花の蕾が機械的な音を伴って、あちこちで開き始めた。要らないものを全て破り捨てようとしたのは、咲花だった。後ろ手に強い力でムッシューに制止されても、叫び出すような突き抜けるようなその激しい衝動は、数人に手足を押さえつけられても、獰猛であまりに激しく、咲花は自分でブラウスを引きちぎろうとした。



「ほら、しっかり目を開けて」


それでも、あまりに感じ過ぎて正気を保つことができないために、すべてがどうでも良いことでしかなく、咲花は図々しく、貪欲に、「お願い……お願い……」と懇願し続けた。


静寂を破るあらゆる複雑な水音が辺りに響き渡った。重なる音。一瞬、正気に戻っても、それはまるで気のせいかのようで、水面下にまた潜るように意識が混濁する。咲花は意味ある言葉はもう発せずに、ただただ、獣のように途切れることなく大声で、声が枯れるほどに激しく叫び始めた。それもそのうち、叩き落されるような快楽に耐えきれなくなり、自我を失い、痙攣し、白い泡を吹いて辺り一面を濡らしながら、四肢を突っ張らせてのけぞり、咲花は遂に完全に意識を失った。


……永遠のような長い時間だった。


そして結局、大学にも、日本にも、咲花が戻ってくることはなかった。


咲花は「自由」を得たのかもしれない。そうでないのかもしれない。



ひっそりと教授は退官の日を迎え、あの分厚い読めない本は、咲花が消えた翌日、元々その本があった教会、元あった場所へ、人知れず返された。


ムッシューが祓ったのは、自由という名の悪魔なのか、それとも、自由になりたがっただったのか。



読めない本に書かれていた内容も、咲花の安否も、今となっては誰にもわからない。一瞬輝き、長い尾を引いて消えていった流星のように、秘密の庭に迷い込んだ仔猫のように、その後の咲花の行方は、誰も知り得ないままとなった。




===

その文字だけを伏字にすれば良い文字もあったのですが、残しました。

例えば、文字だけで劣情を喚起させるものを以下に列挙します。



全て外しても良かったのですが、実のところ、運営の考える「猥褻表現」について検証したかったので残しました。


文字を入れ替えたのは、そもそも設定が問題という部分をクリアするためです。

見られるだけで問題になる時代か。


その先は「想像するだけで罪になる」時代かもしれません。聖書だな。




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検証「秘密の庭」〜vol.1 @0078

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