第6話 新しい演劇部、始動!

 あっという間に3日が過ぎた。

 コンコン、というノックする音と共にドアが開く。

「失礼します。」

 とても落ち着いた冷静な神川さんが入って来た。

「約束の3日がたったので見に来させて頂きました。」

「うん、ありがとう。」

 羽賀さんが緊張しながら返事をする。

「私はいつでも大丈夫なので先輩が良ければいつでも始めて貰って結構です。」

「うん・・・分かった。」

 羽賀さんの体がカチコチなのが分かった。

「ちょっと、羽賀さん。」

「何?」

「ちょっといいですか?」

 そう言って教室の隅に羽賀さんを連れて行く。

「何?どうしたの?」

「いや、羽賀さん緊張してるなって思って。」

「そりゃするだろ。経験者の前だぞ。しかも芸能事務所にいる奴なんだぞ。」

「・・・僕の前では緊張してなかったでしょ。」

「それは、何て言うか、同級生っていうか、勢いっていうか、とにかく演劇がやりたいって気持ちの方がデカかったんだよ。」

「・・・じゃあ今回もそれでいいじゃないですか。」

「は?」

「だって神川さんを意識した所で何も上手く行きませんよ。だったら“演劇が好き”っていう情熱を前面に出した方がいいですよ。」

「そう、かな。」

「僕、羽賀さんのお芝居好きですよ。」

「は?な、なに言ってんだよ・・・。ハズいじゃん。」

「でも本当の事だから。」

「あ、ありがとう。」

「いえ。」

 顔を赤らめる羽賀さんは申し訳ないが可愛らしく見えてしまった。

「あ、あと言い忘れてしまいましたが、僕、前はちょっと大きめの芸能事務所にいたんですよ。」

 この言葉に羽賀さんが目を丸くする。

「マジで?」

「もうやめちゃいましたけど。だから彼女と僕はあんまり変わらないんです。だからそんなに緊張する必要ないんですよ。」

「・・・。」

「彼女を僕だと思ってください。」

「・・・よく分かんないけど、とにかくやってみる。」

「頑張って下さい。」

 そういって羽賀さんは神川さんの所に向かう。

「じゃあ始めるから・・・よく見といて。」

「はい。宜しくお願いします。」

 羽賀さん目をつむり、スゥっと息を吸ってからお芝居をスタートさせた。

 ジュリエットが愛のセリフを一人で語るシーン。

 寂しげで、しかし情熱的で、ロミオの事を恋しがるシーン。

「・・・。」

 羽賀さんが演技している所を“頑張れ、頑張れ”とジッと見る。

 神川さんもジッと演技を見ている。何を感じているのかその表情からは読み取る事は出来なかった――――――。


 短くも長い時間が過ぎた気がした。

「どうだった・・・。」

 やり終えた羽賀さんは真剣な顔で神川さんに質問する。

「・・・。」

 しかし神川さんは黙っている。

「何か言えよ。こっちは必死だったんだぞ。」

「あ、すいません。何て言えばいいか分からなかったから。」

「は?どういう意味?」

「私、良いものを見るとついつい分析してしまう癖があるんです。」

「それって、つまりどういう事?」

「ありがとうございます。とても良かったし、勉強になりました。」

「!!!」

 羽賀さんはこちらを向き目を見開きながらガッツポーズを取る。つられてこっちもガッツポーズをとる。

「この前とは全然違いました。まだまだ拙い所がありますけど、何て言うか言葉に魂がこもってました。そのせいでしょうか?途中から見入ってしまいました。」

「そ、そうかな。必死だったからよく分かんないけど。」

「それが良かったのかもしれませんね。」

 羽賀さんが照れている。

「あ!それじゃあさ、私が上手くいったって事は演劇部に入ってくれるのか?」

「・・・そうですね。宜しくお願いします。」

 神川さんは僕と羽賀さんに向かって深々と一礼する。

「やった・・・やったよ創一!!部員一人確保!!」

「凄いですよ、羽賀さん!!」

 羽賀さんがこちらに飛びついてきた。

「ちょ、ちょっと羽賀さん、はしゃぎ過ぎですよ。」

「なんで!?いいじゃん。嬉しい事は全身で喜んだ方が得じゃん。」

「・・・神川さんも見てますから。」

「あ、そうだね。ごめんね、神川さん。」

「いえ。」

「じゃあさ、もう一回名前教えて貰っていい?神川、なんだっけ?」

「美都です。」

「おお、じゃあみとっちね。私は羽賀りおん。こっちは部長の久原創一。宜しくね。」

「よろしくお願いします。」

 もう一度神川さんは深く一礼する。

「いえ、こちらこそよろしくお願いします。」

 慌ててこちらも一礼する。

「じゃあ三人になったしさ、どうしようか?何のお芝居する?」

「部長は?」

 と神川さんが尋ねる。

「えっと、僕が部長なの?」

「だってそうでしょ。一番の古株なんだから。」

「はい。私もそれで異論はありません。」

「僕が部長・・・。」

 部長、という聞きなれない言葉に体がかゆくなる。

「じゃ、じゃあ、三人用の短いお芝居があるからそれをやってみようか?」

「お~、いいじゃんいいじゃん。部活っぽくなってきた。」

「でもあと2人いれないと部活としてはダメなんですよね。」

「まぁ、そうだね。それもこれから考えていかなくちゃなんだけどね。」

「細かい事は良いじゃん。とりあえずその3人の演劇やろうよ。面白そう。」

 羽賀さんの目が輝いている。

「私もとりあえずはお芝居をしたいです。」

 神川さんも冷静ながらも情熱をもった目をしている。

「・・・。」

 ほんの少し前までは一人で稽古していたのが信じられない。しかも想像もつかなかった人達と。

「なに黙ってんだよ創一。はやく台本。」

 羽賀さんが手を前に出して急かしてくる。神川さんもそれに合わせて頷いている。

「ごめん、今用意するね。まずは読み合わせしよう。」

「よっしゃ~、また燃えて来た!」

 資料がたまっている棚から台本を探す。二人は机を出して本読みの状態を作ってくれている。

「・・・。」

 その光景を見て、きっとこの部活は上手く行く。きっと楽しい部活になる。

 そう僕は心の中で確信した。

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ギャルに恋する陰キャの演劇部員 ポンタ @yaginuma0126

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