第8話 魔物駆除隊の仕事終わりの会話

「『魔物駆除隊隊長独占取材! その非道で人間とは思えない所業に迫る!』……おいおい。なんだこりゃ」


 町外れの酒場。人の少ない酒場で、二人の男女が向かい合って座っていた。


 雑誌の記事を見て、大柄な男は呆れ顔でそう言う。


 彼は魔物駆除隊の突撃隊長……元々は熟練冒険者パーティの一員であった。


 駆除隊の隊長のスカウトで、現在は突撃隊長を努めている彼は、信じられないという顔をしていた。


「まったく……。だから、俺は言ったんだよ。どうせろくでもない取材だからやめたほうがいいですよ、って……。それなのに隊長、全然話を聞かないから……」



「……隊長としても考えがあったのだろう。あまり隊長を馬鹿にするな」


 そう言って突撃隊長の正面の女性……駆除隊副隊長は神妙な表情でそう言った。


 彼女も元々はとある国の近衛隊長であった。彼女も隊長のスカウトによって、現在副隊長を務めているわけである。


「考えねぇ……。アンタはいいのかよ? 駆除隊がこれじゃ残虐集団みたいじゃねぇか」


「それで十分だろう。実際、我々は魔物にとっては非道で残虐だからな」


「まぁ、そりゃあ、そうだろうが……。でも、見ろよ。『隊長は必要があれば、隊員である副隊長(女性)にも暴行する』……ん? これもしかして、この前のサキュバス駆除の時の話じゃないか?」


「なっ……! た、隊長はあの時のことを喋ってしまったのか!?」


 急に彼女の表情が恥ずかしそうに紅潮する。突撃隊長はニヤニヤしながら副隊長を見ている。


「あ~……。たしかにあの時、アンタ隊長に担がれてサキュバスの巣から出てきたもんなぁ……。あれ、中で何があったんだ?」


「う、うるさい! 何もなかったんだ!」


 副隊長としては、サキュバスのせいとは、自分が隊長に「告白」してしまったなど、この上なく恥ずかしいことなのである。


「……しかし、隊長。結局取材中も鎧は脱がないのか」


 少し驚いたように突撃隊長はそう言った。


「それは……当然だろう。隊長はいつ何時も魔物駆除に対応できるようにしているのだ鎧を脱ぐ時もないのだろう」


「……アンタ。鎧を脱いだ隊長を見たことあるか? 俺は……ないぞ」


 そう言われて副隊長は言葉に詰まった。


 しばらくの間、二人の間に沈黙が流れる。


「……隊長って、人間……だよな?」


「何を言っているんだ、貴様は……」


 突撃隊長は雑誌を閉じ、傍らに置くと、副隊長の方を見る。


「魔物を絶滅させるために現れた勇者、とある国の腕の立つ王子、魔物を倒すために作られた人工生命体……隊長の正体は色々言われてるけど、結局、誰も知らないんだよな」


「馬鹿め。隊長がそんなもののわけないだろう。隊長は……」


 副隊長はそこまで言ってまた言葉に詰まってしまった。


 時折、副隊長は思ってしまう。自分は隊長のことを尊敬し、憧れている。


 だが、その鎧の中には人間ではなく……もしかすると「魔物を駆除したい」という執念だけが入っているのではないか、と。


 それくらい、駆除隊隊長の魔物駆除に対する思いはすごいのだが……。


「私が、どうかしましたか?」


 いきなり声が聞こえてきて、二人は飛び上がってしまった。二人の席のすぐそばに鎧を来た駆除隊隊長が立っていた。


「た、隊長……。いつからそこに……」


 突撃隊長が顔を引きつらせながらそう訊ねる。


「先程、私の正体に対してお二人が話していた時ですね」


 気まずそうな顔で二人は顔を見合わせる。


「あ、あの……隊長! 私は隊長のことを――」


「あぁ、いえ。別に気にしていませんよ。それらは噂で、実際の私はそのどれにも当てはまりませんし」


 そう言って隊長は突撃隊長が置いた雑誌を見る。


「駆除隊に対する評判もそうです。別にどうでもいいことですよ。駆除隊が世間からどう思われていようと」


「え……。いいんですか? こんな残虐非道集団みたいなこと書かれて……」


「えぇ。構いません。私達はただ魔物を駆除するだけ。何を言われようと。それだけですよ」


 隊長のその言葉に、突撃隊長はただ驚き、副隊長はその憧憬をより一層強くする。


 しかし、隊長自身はありのままの言葉を話しただけであった。だが、その鎧の隙間からでは彼の心情がわかるはずもない。


「あぁ。お二人を呼びに来たのは、仕事が来たからです」


「え、えぇ……さっき、仕事、終わったばかりじゃないですか」


 突撃隊長がげんなりとした顔をする。


「仕方ありませんよ。魔物の駆除は待ってくれません。駆除を待つ人達がいる限り、私達は魔物を駆除せねば」


「……あの、隊長、一つ聞いても良いですか?」


 と、副隊長が遠慮がちに訊ねる。


「はい。なんでしょうか?」


「隊長は……なぜ、魔物の駆除にそこまで拘るのですか?」


 すると、隊長は少し考え込むように沈黙したあとで、今一度、二人の方に顔を向ける。


「それはもちろん、この世界に魔物が存在するからですよ。魔物は駆除すべき存在。それで十分でしょう?」


 そう言って、隊長は酒場の出口に歩いていく。その後を慌てて二人は追いかけていった。


 こうして、今日も魔物駆除のプロフェッショナルの仕事は続いていくのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔物駆除隊長への取材記録 味噌わさび @NNMM

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ