第48話 おまけ


「ねー成瀬さんって家だとどんな感じ??」


 今泉さんが目をキラキラ輝かせてみてくる。私はお箸を握りなおした。社食で頼んだチキン南蛮をとりあえず頬張る。


 こういう質問、よく来るんだよなあ。でも、まさか本当のことなんて言えない。沙織はともかく、同じ部署の仲間に言っても信じてもらえないと思うからだ。今日だって、彼は難しいと言われていた契約をサラリと取ってきて、みんなから羨望の眼差しで見られていたところだし。


「まあ、普通、ですよ……」


「成瀬さんなら起きてもすぐシャキッとしてそうー」


「ははは」


「家事とかもそつなくこなしてそうー料理とか上手そうー」


「は、ははは……」


「暇な時間はコーヒー片手に座って、涼しい顔で読書とかしてそうー!!」


「はは、は……」


 誰が想像できるだろう。朝は起こしても全然起きないし、寝ぐせつけたまま眠そうに風呂掃除をして、空いた時間は大概ソファに寝そべってる彼を。


「誰の話?」


「うわあっ」


 背後から声がしたので飛び上がる。トレイを手にした成瀬さんが立って笑っていた。


「もしかして俺?」


 今泉さんがなんだか恥ずかしそうに言う。


「あは、成瀬さんはお家でもスマートなんだろうなーって話ですよ!」


「ぜーんぜん。俺だらしないから」


「えー絶対そんなことなーい!」


「あれ、てか佐伯さんもチキン南蛮? 一緒だった」


 彼は私を覗き込んで言う。確かに、同じメニューを選んだらしかった。


 今泉さんがにやにやして言う。


「息がぴったりですねえー」


「まあ、志乃が作ったやつの方が美味しいんだけどね」


 そうサラリと言った彼は、言い終えてすぐ『あ、志乃って呼んじゃった』と笑った。今泉さんは今にも叫びだしそうな顔で悶えている。私はなんて答えていいか分からず、ああ、また彼の株が上がったなあなんて考える。


 過ぎ去っていった成瀬さんの背中をうっとり眺めながら、今泉さんは言った。


「完璧だわ……絶対離しちゃだめな男だよ。あんな完璧な男他にいない」


「ははは」


 今日何度目か分からない愛想笑いを浮かべた。




 おわり。


ありがとうございました!!

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完璧からはほど遠い 橘しづき @shizuki-h

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