カスミソウ
人1人
カスミソウ
1
退屈な45分を切り裂くようにチャイムは鳴り、クラスの皆は待ち望んでいたかのように活気に溢れる。
担任のつまらない話を聞きながら僕は少しでも早くこの教室から出たくて仕方がなかった。
やっと学校を出た頃には君はもう居なかった。
少し焦りながら周りを見渡と同時にスマホが鳴る。
『 今駅にいるよ 』
僕はすぐ行く、とだけ返して足早に駅へ向かった。
駅へ向かっている僕の視界を鮮やかな光景が横切った。
そこは花屋だった、思わず足を止め見入る。
君に似合うだろうな、なんて考えながら柄もなくカスミソウを1輪手に取り会計をする。
花屋を出る頃、僕に残された時間は案外少なく、急いで駅へ走り改札をぬけ階段を駆け上がる。
くしゃりと包み紙が音を立てたが気付かないフリをした。
やっと登り終わって息を整えてから顔を上げると君はいつの間にか僕の目の前にいて、
「そんなに急がなくても時間はまだあるよ。」
と、電光掲示板を指しながら言う。
マスクで隠れている君の顔は、どんな表情をしているのか、僕には分からない。
目元が少し赤いのは昨夜泣いたからだろうか、そんなことを聞けるはずもなくただ口をつむぐ。
それ、と君が指を指した先にはカスミソウが咲いていて、僕は慌てて君に差し出す。
君は少し照れくさそうにしながら優しく花を抱きしめて
「ありがとう」
と僕に笑いかけた。
「本当に行くの?」
なんて、君が困るようなことを言ってしまった。
君は困ったように笑い、短く うん。とだけ返した。
行かないで。そう言いたかった、だけどそんな君を前にしてもっと困らせるような事を言う勇気は無かった。
アナウンスが鳴った。
「もう行かなきゃ」
ぽつりとつぶやく君は電光掲示板を見つめていてどんな表情をしているのか分からない。
ゆっくり振り向いて じゃあね、と言い僕の手を取る。
「そんな顔しないで、離れててもずっと一緒だよ。」
よっぽどな顔をしていたのだろうか、君は心配そうに僕を見つめる。
僕は今にも行かないで、と言いそうになるのを堪えて、うん。とだけ返した。
仕方の無いことだって分かっているから。
背後からうっすらと電車の来る音がした。
「またね、大好きだよ。」
そう言って君はいってしまった。
カスミソウの花が雪のように舞い落ちる。
その日電車は2時間近く運転を見合わせた。
カスミソウ 人1人 @Ron__xX
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます