第4話 #個人勢
「あ、えっと、ごめんなさい! 囲えと言っても困っちゃいますよね。すみません」
反応に困っていると画面の向こうからぴんくさんの謝罪の声が聞こえてきた。
そもそも囲えと言われたところで物理的には無理だし反応に困る以外に害はないわけだし。
まっつん:お気になさらずに。完全初見てそんなに珍しいんですか?
「そうですねー。……まっつんさんは普段どんなVtuverさんの配信を見に行ってらっしゃいますか? 流石にVtuberの配信を初めて観たなんて言うことはないと思うんですが」
まっつん:ライブワークスの
「神咲サクラさん私もよく観ますよ! 素敵ですよね、憧れちゃいます」
――君の未来舞い踊る桜のように無限に広がってゆく 君のココロにも サクラ サケ――
囁くように歌いだしたのは神咲サクラのオリジナル曲、『サクラサケ!』だった。
:おお! 上手い!
:いい歌いい声なんじゃー
:流石声優志望
まっつん:想像以上、と言ったら失礼ですね。プロと遜色ないレベルじゃないですか?
「プロと遜色ない? 流石にそれは言い過ぎだと思いますけど、えへへ。ありがとうございます」
照れたように体を揺らしながら笑うぴんくさんに徐々に惹かれていく感覚を覚えた。
「では仕切りなおしていきましょう。突然ですがまっつんさんに問題です。現在、Vtuverと呼ばれる人たちは何人くらいいるでしょうか?」
Vtuverが何人いるか、か……。
ライブワークスだけでたしか40人くらいいるんだったよな?
その他にレインボーにも50人を超えるVtuverが在籍しているはず。
さらに小規模な箱がいくつかあったとして、この娘のような個人Vtuverというのがいるとして……。
まっつん:2000か3000人くらいじゃないですかね?
「2000か3000。なるほどなるほどー。考え直すなら今ですが大丈夫ですか?」
:一般人の認識ってこんなもんなんよな
:正解聞いたらびびるで
「あ、ちょっと皆さん、ヒントになっちゃうのでそれ以上はだめですよー!」
:あい、ごめんさいw
:さーせん
自分以外のリスナーたちがピンクさんに
答えを聞いたらもっと驚くって言うことはだいぶ多いんだろうな。
まっつん:じゃあ、せっかくヒントをいただいたので、1万人くらいと変更させてもらいますね
「1万人くらいに変更します? ほら、もぅ! ヒントになっちゃってるじゃないですかぁ!」
:いや、面目ない
:まあ、でも正解まではしてないからセーフセーフ
「気を付けてくださいね、配信中のネタバレ禁止は基本中の基本ですからねっ!」
:ごめんなさい、気を付けます
:すんませんした!
ヒントをこぼしてしまったリスナーにぴんくさんの注意の声が飛ぶ。
しかし、別に怒っているという風でもなさそうだ。
ちょっとした戯れ、と言った所だろう。
「まあ、確かに正解にはまだ遠いんですよね。答えはなんと! 『5万人以上』! でしたー!」
は?
え、そんなにいるの?
「正確には5万人くらい居ると言われている、と言った所でしょうか。毎日のように誰かがデビューしては誰かが去っていく。そんな世界なので正確な数字は誰にもわからないんですけどね」
まっつん:そんなにいたんですね。全く知りませんでした
「一年後には6万人規模に増えているだろうとも言われていますね。最近はVtuverの専門雑誌なんかも出ていて、大手さんだけじゃなくて個人Vtuberも日の目を見ることが多くなってきているんですけどねー。これが現実というわけですよ」
ぴんくさんの目が閉じて、目元にギャグのような大きな涙がぶら下がっていた。
Vtuverの専門雑誌か。本屋のアニメとかゲームの雑誌売り場あたりで見かけたことはあるけど、実際手に取ったことはなかったっけ。
「私も一か月くらいSyabetterで準備をしてきました。チャンネル登録をしてくださった方は50人くらいいます。ですが実際に来てくださったのは今ここにいるみなさん、という状況です。そんな中でほとんど見ず知らずのまっつんさんが観に来てくださったのがどれほどありがたいか、お分かりいただけますか?」
涙のモーションを消して目を開いたぴんくさんは声のトーンを少し下げて真面目な口調で喋り始めた。
「押しつけがましいことを言いたい訳では無いのですけど、せっかくこうして見つけて下さったのですから、私たちのような個人Vtuverを、出来たらこの私『美縞屋ぴんく』を応援してくださると嬉しいです」
まっつん:はい。折角ですのでこれから応援させてもらうことにします。
こうして、個人Vtuber『美縞屋ぴんく』への推し活がスタートしたのだった。
病んだ個人Vtuberをそれでも応援し続けていたら同棲することになった 久越充悟 @kugosijuugo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。病んだ個人Vtuberをそれでも応援し続けていたら同棲することになったの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます