第4話 スト街
「嫌じゃー、行きとうない」
「あのー、こか様食料とか必要な物がありますから」
「みのるよ、お主は知らぬのじゃ!あの街だけは行ってはいけぬ」
「なぜです!?悪い人達がいるのですか?」
「いや、そうではない!皆良い人達ばかりじゃ」
「でしたら行くべきです」
手を引っ張りながら腰を落として抵抗していた。
こか様の姿はまさしく、動物病院の前で嫌がる犬の様である。
「・・・コロ」
こか様の姿に僕は昔飼っていた柴犬の『コロ』を思い出し涙を流した。
「みのる、その涙はなんじゃ。それに今私のことを『コロ』と呼ばなかったか?」
「はい、こか様に『コロ』との思い出が重なりまして」
少しムスッとした表情になったがため息をして
「みのるよ、お主今まで疲れなかったか?」
怒られると思ったが、いつの間にか跪いて泣いていた僕の頭をこか様が撫でていた。
「お主は優しい奴じゃの!・・ただのぉ、優しすぎるのとその優しさは何かを隠しているようにも思える。人に幸せになって貰いたいなら、先ずは自分が幸せにならなきゃいかん」
僕は今までで一番泣いたであろう・・百合に会いたい、その気持ちが強く出ていた。
こか様の胸の中で、優しい気持ちに包まれていくみたいだ。
──「ん?」僕はいつの間にか眠っていた。横には一緒になって、こか様が眠っていた。こか様のフカフカでモフモフの尻尾が僕のお腹に乗っていて温かく気持ち良かった。
「こか様、起きて下さい」
「ご飯かのー?」目を擦り、尻尾をビクビクと動かしている。
「尻尾が出てますよ」
僕の言葉に驚き立ち上がり、小さな体で大きくなった尻尾をてんやわんやと隠した。
「見たかの?」涙目でこちらを見ている。
「ええ、バッチリと」
「まあ、見てしまったものは仕方ないの」
人の姿の時には他人に決して尻尾を見られてはいけない、もし見られてしまったらその者と血の繋がりを持たなければならない。
「それって夫婦ってことですか?」
「良くは知らぬが昔からの狐の風習での、嫁入り前の娘は尻尾を見られてはいけないと言われてきたのじゃ」
「あ、でも僕には百合が」顔を赤く染めて焦ってる僕を見て、こか様は笑っていた。
「分かっておる、気にするでない」嬉しそうに尻尾を手で整えていた。
もう既に隠そうとはしていない、むしろお洒落を気にしている様にも思えた。
「みのるよ、腹が減ったぞ」
「そうですね、では街へと行きましょう」
「うむ、仕方がないの」
街へと向かった。道中何故か、僕にべったりのこか様に街のことを聞いた。街の名前は『スト街』という。その街は、とてつもなく匂いが臭いということ、そして日本でいう田舎みたいな所だという。
できれば米が食べたい、田舎だったらあるだろうそんな期待を胸に街へと急いだ。
「なんじゃここは?」こか様は驚き、僕も聞いていた話と違うので困惑していた。
街は近代化が進んでいるようで、ハンバーガー屋、クレープ屋等ジャンクフードや洋菓子の店がたくさんあった。
「凄いぞ、みのる」こか様は初めてみるクレープにワクワクしていた。
「あの、すみませんここは『スト街』で良いのでしょうか?」僕は街の人に声をかけた。
「◎△$♪×¥●&%#?!」
ん、何語だ?
「こか様、言葉が通じないのですが」
「いや、そんなことはない日本語が共通なはずなのじゃが」
もう一度違う人に声をかけてみた
「◎△$♪×¥●&%#?!」
「駄目です、全然通じないです」
少し歩くと『マック街』という看板があった。
「こか様、ここは『スト街』ではないみたいですね」
「うむ、そうみたいじゃな」こか様の手にはクレープにハンバーガーをいつの間にか持って食べていた。
「うむ、美味いの・・・◎△$♪×¥●&%#?!」
「こか様?」急に街の人と同じことを喋りだして倒れた。
「こか様、大丈夫ですか?」僕は体を揺さぶり横向きに寝かせた。
「かほ、ごほ」咳き込みながら、こか様の口から食べたであろうクレープとハンバーガーが出てきた。
「良かった」
それにしてもこの街はおかしい、倒れている人がいるのに誰一人として駆け寄る人もいなければ目を合わせようとする人もいない。
僕は、こか様を抱えるようにして背中を擦りながら街を歩き続けた。
「あの・・・、この街の方ではありませんよね?」ビルの影から声をかけられた。
「はい、そうですが!あなたは?」
「あ、すみません私は『スト街』の住人の者です」
「良かったら、『スト街』に案内致します」
「良かった、はいお願いします」
ビルの間の細い道を歩きフェンスに穴が開いた所を抜けると先程の『マック街』とは真逆の田舎の街が現れた。
「ようこそ、『スト街』へ」
「そちらのお方は『狐様』ですよね?お待ちしておりました」
こか様は、眠っているが鼻をムズムズさせていた。
「く・・くさい」こか様は涙を流しながら起きた。
確かに少し臭う、酸っぱくて何か腐ったような匂いだ。
「鼻が、もげそうじゃ」鼻をつまみ苦しそうにしている。
「そうだ、少しお待ち下さい」僕は葉っぱを取り出して願った。
「こか様、こちらを被ってください」葉っぱを変化させたガスマスクをこか様に被せてあげた。
「おお、臭くない」
ガスマスクが気に入ったのであろう、決めポーズをとったりヒーローの真似事をしたりして遊びだした。
「みのるー、見るのじゃ!どうじゃ、格好良いであろう」
ガスマスクって、どちらかというと悪役っぽい見た目だが・・・。
「あの・・・、そろそろよろしいでしょうか?」
「あ、すみません!こか様行きましょう」
草道を歩き一軒一軒人家を過ぎてゆく、横に見える田畑は枯れ果て街にも生気を感じられなかった。
街の最奥の家に案内され、その中で街の長が待ち受けていた。
「お久しぶりです、狐様良くお越し頂きました」
「うむ、久しゅうのう!元気にしとうたか?」
「はい、ただ狐様そちらのお姿は?」
ガスマスクを外さず「コォーコォー」を音を立て話をしているのは確かに違和感があるが。
「気にするでない、マイブームじゃ」
「こか様、家の中はあまり臭いはありませんので外した方が良いかと」
「そうか?ただのぉ、外すと葉っぱに戻ってしまうぞ」
外で料理した時も、使い終わった調理器具は葉っぱに戻ってしまい葉っぱも枯れ二度と使えないようになってしまったのだ。
「また作りますから・・」
「あと5枚じゃ」
大きく開いた手を僕の前に差し出した。
葉っぱは、こちらの世界では手に入れられないようで『はざまのせかい』の神社に戻れば補充できるとか。
「長老よ、私には『こか』という名があるのじゃ今後は『こか様』と呼ぶと良い」
こか様はガスマスクを取り外し、枯れた葉をクシャリと握りしめポーズをとった。
「そうでしたか、『こか様』良い名ですな」
照れているのかドヤ顔しているのか、とても嬉しそうな顔をしている。
「では、こか様ご馳走を用意致しますので少しお待ち頂けますか?」
こか様の顔が徐々に青ざめてきた。
「ちょ、長老よ・・そのことなのじゃが、こちらの『みのる』に作らせては貰えぬかの?」
「いえ、お客人に作らせる訳にはいきません」
「いや・・・、そうじゃ、みのるはプロの料理人じゃ街の特産品になるような物を作ってくれるかもしれぬぞ」
いや、プロの料理人って・・・稲荷寿司もやっとこ作ったのに。こか様の必死さが伝わってきた。
暗闇のなかで うさ野壬壬 @usaginoonikuchan
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