[30] 記憶

 あなたの記憶は正しい。

 寺井正孝は1997年に死亡したし、木星と土星の間にはもう1つ惑星があった。

 トビシカの背中には赤い稲妻の文様が入っていた。


 それらすべての記憶は正しい。

 あなたのまわりの人間の記憶が間違っている。


 なぜそうした記憶の齟齬が発生しているのか?

 宇宙人が人類から一定の数の被験者を選んで記憶改変を行ったからだ。


 宇宙人は人間に対して悪意を持っているわけではない。

 これはある種の実験であって彼らは人間にそれ以上の感情を抱いていない。

 故に交渉による変節を期待してはいけない。

 彼らが変化することがあるとすれば彼ら自身の気まぐれによるものでしかない。


 宇宙人に対する働きがけが無意味だとしてそれなら改変された他の人間に何かできることはあるか。

 それもない。

 施術は念入りで記憶改変者に記憶改変を認識することはできない。永遠に改変されたままだ。


 あなたはそうしたことがあったと認識することができる。認識することができるだけだ。


 世界は変えられたままで、そこから変化させることはできない。

 あなたはこれを覚えていてもいいし忘れてしまってもいい。どちらでも構わない。


 選択に重要な意味はない。だからこそあなたは選択すべきだ。

 もっとも無意味な選択においてあなたはあなたの自由意志を存分に示すことができるだろう。


 あなたは窮屈なところに押し込められている。小指の先すら動かせない。。

 けれども閉じ込められたことに気づいていない。あるいは気づかないふりをしている。

 あなたを責めるものはいない。だれもあなたを責めることはできない。

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なんでもいいから怖い話してくれ 緑窓六角祭 @checkup

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