ランダム顔認証の3兄弟

ちびまるフォイ

最強の防犯対策

3人の兄弟はいつも一緒。

学校へいくときも帰るときも常に3人。


お母さんは3兄弟をいつも大事に思っていました。


「いいかい。外には危険な人がたくさんいる。

 顔を覚えられたり、声を出してはいけない。

 変につきまとわれるのが一番怖いのよ」


そう教え込んで、兄弟たちは言葉を失いました。


顔はというと、ランダムに変化する皮膚を移植して

常に顔がランダムで切り替わるようにしました。


顔を合わせるたびに顔は変わっていましたが兄弟の絆は変わりません。

素敵ですね。



そんなある日のこと。

3兄弟は家に向かいました。


家の玄関は今ではもう当たり前になった顔認証です。

鍵を鍵穴に突っ込んでいたのはもうずいぶん昔です。


顔認証のモニターには正解の顔を表示しました。


その顔を見て、長男は三男が正解の顔と同じ顔であることに気づきます。


けれど言葉はつかえません。

指を指したりするのも相手に失礼だからと言われています。


必死に身振り手振りで「お前の顔を認証させろ」とやってみますが、

なぜか次男や三男も同じように長男に対して身振り手振りをしています。


結局、顔認証の識別時間を過ぎてしまい、家には入れませんでした。



3回失敗すると警察が飛んでくることを兄弟は知っていました。

貴重な1回をお互いのボディランゲージ合戦で使ってしまったことを後悔します。


モニターには次の顔認証の顔が表示されました。

今度は次男の顔と一致しています。



もうなりふりかまっていられないと、

長男は次男の頭をおさえつけて強引に顔認証させました。



『ブブー』




アラームが鳴って、顔認証には失敗します。


どうやら犯罪防止のため、顔を取ったり、強引に押さえつけたりと

顔以外の部分が含まれた認証は無効になってしまうようです。


これで2回も顔認証に失敗してしまいました。

もうあとがありません。



三男は考えました。


仮に、次に新しい顔が表示されたとしてもどうなるか。

1回目の顔認証のように、お互いにお見合いして終わるんじゃないかと。


ではどうしてお見合いになったのかを三男はさらに深く考えました。


答えがわかったとき、顔認証は次の顔を提示します。

今度は長男と同じ顔が提示されました。



例によって、長男と次男は1回目と同じくボディランゲージをはじめます。


長男は三男に。次男は長男に。

もうめちゃくちゃです。


そんな中、三男だけは顔認証に向かって自分の顔を突き出しました。



『ピンポーン』



なんと顔認証が突破され、ドアの鍵が開きました。


三男は気づいていたのです。


もし、3人の中でたった1人だけが顔認証の顔であれば

2人はその人に対して徹底的に「顔を突き出せ」とアピールするはず。


でも、1回目の認証ではなぜかお互いにボディランゲージをしあっていた。


それは「3人のうち2人が同じ顔をしていたから」ということに。



3兄弟のうち2人が同じ顔をしていたら。

もう1人は、2人に対して顔を出せをアピールする。

同じ顔になった2人はお互いに「お前の顔を出せ」とアピールするだろう。


そんなカオスな状況なので1回目の認証は失敗してしまった。



けれど3回目での認証では違います。


3人のうち、ただ一人だけが顔認証の顔であったなら

異論挟む余地なく、2人が同じ人にボディランゲージしたはずです。


けれど、そうではなかった。

顔認証の顔は2人であったことがわかります。


長男と次男のペアであったなら、

三男など目もくれずお互いにアピールしていたでしょう。


けれど、こっちでもなかった。


顔認証の顔であるはずの長男が三男へアピールしていたのです。

となれば、長男と三男は同じ顔をしていたと予想できます。


こうして賢い三男の機転によって、3人は家に入ることができました。



3人は金になりそうなものを持てるだけ持つと、

お母さんの待つ家へと楽しそうに戻っていきました。



めでたしめでたし。

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