一世一代の晴れ舞台
——世界が壊れ始めている。
それが分かったのは、つい最近のことだ。
最初に異変に気が付いたのは
外をよく散策しているボクと
幅広い情報網を持っているリリィだった。
生態系への違和感
いつも見ていた生き物が居なかったり
動物たちの生息範囲が変わっていたり。
常に変化を続ける今の世界においては
ある意味では、正常な出来事と呼べなくもないが
ボクの勘が告げていた、これは異常事態であると。
ボクらは直ちに
フレデリックとジーンに調査依頼を出した
結果は直ぐに出た、思い違いでは無かった。
そしてボクは、吸血種統括として
仲間たちに臨時招集をかけた。
「生き物が死んでいる」
重苦しい雰囲気の中、静寂を破って発言する
部屋に居るのはフレデリック、ジーン、師匠
リンドやリリィ、更にはダイナまでもが。
面々を見渡して話を続ける。
「あらゆる種族が、次々と絶滅している」
フレデリックとジーンはボクから目を離さない
リリィはぬいぐるみを抱いて撫でている
一方ダイナと師匠は無関心な様子だった
それぞれ、寝転がって目を瞑っていたり
ソファに座って紅茶と共に読書をしていたり
力ある者ほど、余裕を保てるのだろうか。
手元の書類を見ながら、話を続ける。
「異変が起こり始めたのは正確に3週間前
各地域の様々な生き物達が、突然死している」
「ウイルスか?」
リンドが発言した
それに対してリリィが反応する。
「感染した形跡は見られねーっす」
ボクはリリィの言葉を
補足するように付け加える。
「調査の結果、原因が分かった
まるで、ある一定のプログラムに従う用に
全てまったく同じ事がきっかけで死んでる
細胞だ
生き物の細胞が崩れている」
本に目を落としていたダイナが顔をあげた
ボクの言葉に興味を惹かれたらしい。
ジーンが手を挙げ、発言する。
「……皆なの、皆同じ死に方をしているの
どの個体も寸分違わず、完璧にね」
ダイナが本を閉じた、そして
背表紙をなぞりながら質問をした。
「発生地域は何処です?
纏まって?それともバラバラに?」
ジーンが答える
「まるでマシンガンを適当に乱射したみたい
ただ分かったことがあるの、発生時期についてよ
私は始め、法則性は無いと考えたんだけど
ジェイミーさんからの指摘で
あることに気が付いたの」
ジーンと目が合う。
「同じだったんだ」
「同じだァ?」
むくり、と起き上がった師匠が
頭を掻きながら疑問を口にした。
「それぞれの発生時期は確かに違っていた
でも、近すぎて逆に見落としていた事がある
発症してから死ぬまでには個体差がある
ただ、発症の瞬間については
`種族単位`で同じだったんだよ」
しばし沈黙があった
それを打ち破ったのは師匠だった。
「……そいつはまるで
間引きのようじゃねぇか」
「その通りだ」
ボクは彼女の言葉を肯定した
そして、この話の根幹部分に触れる
すなわちそれは結論であり、事実である。
確定した情報は
共有してこそ命を持つのだ。
ボクは言った。
「ボクらは、この現象を
`自然界が行う淘汰`であると考えた
ある一定の判断基準において
規定に満たない生き物を排除する為の
進化過程、あるいは最初の成り立ちから
`相応しくない`者たちを消し去る為の自然現象」
もう、全員がボクの話に耳を傾けている
こういう事には無関心なはずのリンドも
この世界に対する愛着など
微塵も持ち合わせてないだろうダイナも。
皆がこちらを見上げている
ボクは、ゆっくりと語り始めた。
「かつて世界は、人間同士の争いにより壊れた
そして生まれ変わった、混沌とした大自然の世の中
ボクはこれが再誕であると考えていた
灰の中から芽吹く花のように
血に塗られたおぞましい過去を糧にし
そこから生まれる新たな始まりであると
だが、違ったんだ
世界はまだ始まっていなかった!
何を未来に残すのか?
それを選んでいる最中だったんだ
そして今、選択が成された
選ばれなかった生き物たちは、死ぬ
恐らく止めることは出来ないだろう
つまり——」
結論を口にしようとしたその時
師匠が、続く言葉を奪い取った。
「俺たち吸血種も危ねェ、だろ?」
「ああ、その通りだ師匠
見せ場の奪取、心より感謝するよ」
ボクが言おうと思ったのに!
という憤りを感じていると
不意に、リンドがこう発言した。
「そいつはちと、正確性に欠けるな」
彼女は、ボクらを見回して言った。
「正しくは
旧人類である、あたしら
リリィ、リンド、フレデリック、ジーンと
遥か太古からの存在
原初の生命である吸血種ジェイミーと
その祖であるウェルバニア=リィド
両者には決定的な違いがある
そうだジェイミー、あんたは生き残った
そしてウェルバニアも蘇った
だったら」
1度呼吸を置いて
「だったらあたしらは?」
リリィもジーンもフレデリックも
全員黙っている、ただ前を見て黙っている
ボクの言葉を聞いた瞬間から理解したのだ。
あるいは、そのもっと前からか
予感にも似た何かを、感じていたのかもしれない。
リンドはゆっくり、穏やかに続けた。
「心の赴くままに動いたジェイミーは
他の吸血種を、ある意味自ら`間引く`事により
数億年が経過した今の世界においても生きている」
——やめろ、リンド
ウェルバニア=リィドも
1度殺された上で、それでもまだ生きている」
——それ以上言わないでくれ
「だが、あたしらは違う
あの時、あんたがあたしらを
吸血種にしてくれなかったら
爆撃か、食料不足による飢えか
または脱水症状によって死んでいた
その時点で人間という種族は
この惑星での生存競走に負けたんだ」
1番ボクが予感していたことだった。
「どんな強い生命にも終わりは来る
それは、今回の件を調査したあたしらが
1番よく分かっていることだろ?」
ああ、そうだねリンド
分かってる、分かってるさ。
「だから、あたしらは多分死ぬ」
ボクは、その場に腰を下ろし
すとん……と座り込んだ。
「死なない者なんて居ない、頑丈なだけだ
どんな傷も治せるはずの吸血種だって
同じ吸血種に心臓を破壊されたら死ぬんだ
この世に、不滅なる者は居ないんだよ」
ボクは、ふと顔を上げて、ジーンを見た
怯えたような、覚悟したような、そういう顔
リリィは呑気にぬいぐるみを弄って遊んでいる。
リンドは、相変わらず元気そうだ
力強く、決して消えることのない太陽。
フレデリックはレポートを書くのに夢中で
あまり話を聞いているようには見えない。
ボクは
これまで言わなかったことを
怖くて出来なかったことを、言った。
「……ジーン」
たったひと言だけ
「……分かった」
彼女は、覚悟を固めたように頷き
そして立ち上がって、こう言った。
「今から私たちの細胞を調べます
リンド、リリィ、フレデリック、私
滅んだ生き物達から採取したデータにより
発症の前兆を判別できる様になりました
フレデリックは生物学のスペシャリストよ
私たちに兆候はあるのか
そして、本当に死んでしまうのか
それが分かります、これから調べます
では、まず私から——」
ボクは
「いや、いい」
声を上げた。
「……ジェイミーさん?」
ボクは土壇場で計画を破棄した
コレはわがままだ、勝手な思い付きだ
今まで幾度も繰り返してきた利己的な願いの話
己の欲求、自分の意志、自分の価値観
発症も、細胞も、世界の間引きもどうでもいい
ボクはただそうしたいと思っただけだ。
それは嫌だと思っただけなんだ
嫌だ、嫌だ、それだけは嫌だ!
だから——
「諸君らは大変長く生きた
ボクと共にあらゆる局面を乗り切ってきた
指導もした、争いもした、協力も沢山した
さぞ成長した事だろう
ならば、吸血種諸君よ
`力試し`をしようじゃないか」
彼女らの表情が、驚愕の色に染っていく
はは!そうだ!その反応を楽しみにしていた!
驚いただろう?ワクワクしてきただろう!
思いもよらないはずだ
吸血種ジェイミーを図り間違えていたろう
元が人間であるキミらでは、出ない発想だ
ボクはキミらを
世界などというクソッタレの意思が原因で
失ってしまうなんて耐えられない。
死ぬかどうかなんてどうでもいい!
そんなモノを理由に行動を起こしたくない
ボクは吸血種ジェイミー
利己的で、己の欲にのみ従って生きる存在
「諸君!」
さあ、お立ち会い
一世一代の……!
「命をかけて勝負をしよう!
本気でやりあって1番を決めよう!
ボクが、キミ達を殺してあげよう」
晴れ舞台だ——ッ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます