同族殺しのジェイミー
パッと見数えただけでも200発以上!
満天の星空のようなミサイルの大群が迫る
その全ては一点に収束する
狙いはボクだ、正確に追跡されているッ!
ギリ、と奥歯を噛む
気付くのが遅れた事に対する悔しさからだ
最も近い1発が、ボク目掛けて飛来する
前屈みになって、走り出す!
ビュンビュンと風を切りながら駆け抜けて
着弾点からいち早く離脱する
ドンッ!背後で爆発が起きた
小さな金属片が無数に炸裂し
ボクの背中へ襲い掛かる。
「ぐっ……!」
距離はとった!
しかし避け切れなかった!
爆風に押し出され飛んでくるソレは
いかに吸血種の脚力と言えど
振り切れる物では無い
穴だらけになった服、そして背中の肉
破片が体内に残っているのを感じる
血を封じられている今では
体の中の異物を除去する事が出来ない。
拭えぬ違和感を抱えながら
第2、第3と迫るミサイルへ対処する
走りながら、生えている木を叩き折り
持ち上げて、槍投げのようにぶっ飛ばす
直撃、爆散!
撃針に衝撃を加えられたミサイルは
周囲をも巻き込んで派手に爆発した
今度は、金属片を防ぐ事に成功する
2度目ということもあって目も慣れており
1回目と比べて距離もある、この位はやる。
しかし気になるのは——
「まるで獲物を追い込むかのようだなっ!」
拾い上げた石ころを投げて
進行方向を塞ぐ様に落ちてくるミサイルに対処する
休む暇がない、息着く間もない、非常に絶え間ない
何処から飛んできているかは分かっている!
だが、弾幕が濃すぎてそっちに近付けない!
先程破片を食らった箇所の、傷の治りが遅い
再生能力を阻害されている、もう喰らえない
突如、建物の影に隠れて
真正面から驚異が迫ってくる!
狡猾ッ!
まるで兵器が意志を持っているかのようだ
野生動物を追い込むハンターのように
あるいは、群れで行われる肉食動物の狩りの様に
合理的な方程式の存在を感じさせる動きだ
大量の爆撃に気を逸らされ
この距離に近付くまで存在を知覚出来なかった
今からじゃ回避行動も間に合わない、迎撃も不可
——ならば!
ボクは、迫り来るミサイルを
下から思い切り蹴り上げた!
鉄のひしゃげる不快な音
飛来物は進行方向を無理やり曲げられ
まるで花火のように、上空に打ち上がって爆発!
複数の被害を巻き起こしながら
眩い閃光と共に死の雨を降らせる
ボクは前方に飛び込みながら
地面と平行になるよう体勢を変え
地上に背を向け、迫り来る金属片を
全て正確に撃ち落とした。
被弾はゼロ!
体勢を戻し、地に足を付けて
複雑なステップを踏み出す
ジグザグに、少しでも的を絞らせないように
`やらないよりはマシなはず`という
希望的観測に基づく回避行動ではあったけど
実際、やる価値はあった
ミサイルはボクを追尾してきている
それも、かなりの精度で
しかし、所詮は燃料噴射によるもの
筋肉の収縮により自由自在に動き回れる
ボクのような生物の、複雑なステップを
100%確実に捉えることは出来ず
結果、狙いを外したミサイルが
全く関係のない所を爆撃する事となった
その都度破片に対処する
ドカンッ!爆発
ビュンッ!破片
撃ち落とす、切り落とす、避ける防ぐ
若干被弾、再生能力がやや落ちる
爆発爆発、破片襲来、全て切り落とす
何度それを繰り返した頃だろうか
「あった、見つけた——!」
ボクは発射台を見付けた
地面に規則正しく設置された円形の穴
そこから次々と射出されるミサイル
あそこだ、あそこから撃ってきているッ!
まずアレを無力化しなければ始まらない!
ダンッ!
強烈な踏み込みで地面が砕ける
加速は凄まじく、視界がグワンと歪んだ
ボクは爪を構えて全身全霊を込めた
限界ギリギリまで引き絞る
あとはタイミングを完璧に合わせて
——空中に飛び出す
そして急降下、斜め下の地面に向かって
吸血種ジェイミー正真正銘のフルパワーを
憎き発射台に向かって、叩き込んだッ!!
ヒョウッ——
異様に物静かな音が鳴る
まるでそこに異物などなかったかのように
そう、何も切らなかったのだと錯覚する程
ミサイルの射出は止まった
そして訪れる、一瞬の静寂
次の瞬間、ボクの耳が聞いたのは
ズッ……という何かがズレる音だった。
状況は見る見る間に変化した!
大地が!ボクの立っている空中庭園の大地が
豪快な音を立て、斜めにズレて崩壊していく
ボクはぶった切っていた!
発射台どころか、その下の地面までも
すなわち、この空中庭園そのものを!
「……しまった」
大崩壊を始めた空中庭園を見ながら
ボクは、己が犯した失態に直面していた
「もっと頑丈だと思っていた
何か、障壁が貼られているものとばかり
まさか剥き出しだったとは、大誤算だよ」
やり過ぎた
呆然と眺める事しか出来ない。
空中庭園が落ちていく——
✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱
「……どうして!?突然高度が落ち……うわぁ!」
空中庭園の中枢を担う操縦室で
振り切れる計器のメーターを見て
1人の少女が悲鳴をあげていた。
「レーダーが反応しない!、回路がダメになってる
一体どうして!?どうして突然、こんな事に……」
焦り、周りのことが見えていない
だからボクは安全に行動を起こせた。
「——動くな」
少女を後ろから押さえ付けると同時に
背中から腕を差し込み、心臓を掴んだ
少しでも妙な動きを見せれば殺す。
「なんてことしてくれたのよ」
「壊すのでは無かったのかい?ジーン」
この混乱を引き起こしたのがボクである事
そして、空中庭園が墜落しつつあること
彼女は既にソレを把握している様子だった。
「……」
そうか、答えるのを渋るか
ボクは心臓を握る手に力を込めた
「っ……」
苦悶の表情が浮かぶ
危機感、命に迫る明確な死の危険
それに対し体が反応しているのだ。
「3」
カウントダウンを始める
「2」
ゼロになった瞬間何が起きるのか
それは彼女自身の想像力に任せる
「1」
実行に移そうとした、その時……
「——ここは、箱庭なのよ」
観念したように、ジーンが言った
「……箱庭?」
意味がわからず聞き返すと
彼女は丁寧に説明してくれた。
「空中庭園は、確かに要塞よ
地上を支配する為に作られた神の座
でもね、それはあくまで守る為なの」
間を置いて
「……ここには、とある生命が眠ってる
人工的に作り出された怪物と言って良いわ
モデルは吸血種、その始祖を元としている」
突拍子の無い話に眉を潜めつつ
浮かび上がった疑問点に言及する
「では、庭というのは」
「ええ、ここは何も人間の為の場所じゃあ無いの
上位の生命体である彼女に、捧げる為の場所なの
火の海と化した地上も
ここだけの美しい花の楽園もね
乗り込むはずだった支配者なんて居ないの
彼女は最初から、この庭園の奥深くで
いつか来る目覚めの時を待っていたの」
なるほど、これでスッキリしたぞ
「……そうか、だからボクに隠したんだな
キミは、そいつを守ろうとしていたんだ
存在を明かさなかったのは、いずれ
ボクの事を裏切るつもりでいたからだ!」
「当然でしょう?だってアナタに教えたら」
「ああ、ボクは殺せと言う」
「……だから、隠したのよ
まさか先に裏切られるとは思わなかったわ」
そのような危険な存在
敵か味方かも分からないような生命体を
むざむざ解き放つ様な真似は、許せない。
いくら安全だからと説明を繰り返されても
ボクは、ボクの知らないものに対して
絶対の安心を置けるほど、愚か者では無い
人に作られたからと言って
それが制御に足るものだという保証は無い
そもそも、人間はそれで滅んだのだ
自らが生み出した破壊兵器によって
1人残らず消し炭になって死んだのだ
生み出したものを扱いきれず、持て余し
挙句に周りを巻き込んで盛大に破滅する
2億年前の大絶滅、アレの二の舞は御免だ!
故に、ボクはその生き物を殺す
微塵の余念も無く、一切無慈悲に殺害する。
「……お願い、手を出さないで」
懇願するように言う
だがボクに、取り付く島は無い
「安全性を解くつもりか?
世間知らずの研究員のように」
ジーンがため息をつく
そして、半ば諦めたように忠告を述べる
「手を出したら貴女でも勝てないわ
彼女はそういう風に作られているの
完璧なる上位者として生み出された単一生命
他の何者も及ばない絶対究極の存在としてね」
言葉を、最後まで聞いた上で
「悪いが」
ボクはナイフを1本抜き放ち
「それはボクが判断する事だ」
冷酷なる、最終決断を下した
ジーンが、運命を受け入れたように
あるいは絶望したように目を瞑った
ボクは握り込んだナイフを
彼女の喉元に抉りこもうとして
その声を聞いた
「——ジーンを離せ」
次の瞬間、目にしたのは
分厚い制御室の壁を突き破ってやってくる
戦線を離脱したはずの、フレデリックの姿だった。
「貴様——ッ!」
突撃してくるフレデリックを相手に
ボクは防御に意識を割くしかなかった
結果、ジーンに対する拘束が緩まった
フレデリックはその隙を見逃さず
見事に、ボクからジーンを助け出した
それと同時に放たれる爪の斬撃
ボクはすんでのところでソレを捌く
フレデリックはジーンの腕を掴んだまま距離を取る
そして、ザッ……と彼女を庇うように立ち
牙を剥き出しにして威嚇してくる
姿勢は驚くほどに低く、まるで獣のようだった。
肩越しに振り返り、フレデリックが言う
「……ジーン、やるよ
あいつを僕ら2人でやっつけるんだ
殺されてたまるか、そんな事絶対にさせない」
やや驚いた顔をしていたものの
彼の一言に焚き付けられたのか
ジーンの顔つきが、一瞬にして変わる
「ええ、わかってるわ
私たちでやりましょう、フレデリック
吸血種ジェイミーを打ち倒すのよッ!」
闘志を、譲れないものを守る為
我を通す為の、熱く煮え滾る闘志を感じる
それは研究者として、掲げたかつての理想を
何としても貫くという強固な意思によるもの
なんとも誇らしいじゃないか、えぇ?
ゆらり、と立ち上がり
冷たく凍える眼を向ける。
「——やって、くれる」
頭が急速に冷えていくのを感じた
怒りの臨界点を超えたのだ
盤上から退場した駒がのこのこと
あたかもプレイヤーの様な顔をして
このボクの前に立ち塞がったという事実に
「ボクは、同族殺しのジェイミー
数多の同胞達を、たった1人で滅ぼした者
貴様ら覚悟は出来ているか
この先、誰にも喜びの声はあげさせまい
準備したまえ
負けて這いつくばる時間だ
その敗北には、痛みを伴う
——殺してやるから掛かってこい」
墜落の衝撃
それが、開戦の合図となった……
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