吸血種同士の闘い


殺意を振りまく嵐のような爪が

ボクの目の前まで迫ってきた

意識の隙間を突く強烈なる一撃


ボクは躱せないと判断し

一か八かで頭突きを放った


迫り来る爪に対して距離を詰める

十分な速度に到達する前に威力を封じ切る

フレデリックの爪が顔面に食い込んだ


「——っ!」


だが、それだけだ!

この頭はまだ正常に機能しているぞ!


ボクは首の力で

フレデリックの腕ごと引き込んだ

そしてそのまま反撃を叩き込もうとして


「ガァァァァァァ!!!!」


獰猛ッ!フレデリックの獰猛な咆哮が

煮え滾る憎悪の炎とともに轟く

彼は力を振り絞った!ナンバー3たる実力を

この瞬間、自らが愛する者の為に発揮した!


フレデリックは!食い込んだ爪を

殺されてしまった自らの攻撃に

再び生命の息吹を吹き込んだ!


ズパッ……!!


顔面で受け止めたはずの彼の爪は

斜めに、ボクが攻撃を繰り出すべく

振りかぶっていた右腕を切り裂いた


息付く暇は与えられない!

フレデリックの返す刀が襲い掛かる

胴体を両断すべく真横に振り抜かれる


ボクは咄嗟にももを上げて

彼の攻撃に膝を当て、軌道を逸らした

あらぬ箇所を切り裂くフレデリックの爪


その時、顔と腕の再生が終わった


間髪入れず、彼の顔面を殴り抜いた

ダメージを与える事よりも

距離を取ることを優先させた打撃だ


ゴッッ!!!!


ノックバック!

フレデリックは後方に飛ばされる

離れ際に貫手を放ち、両肩に穴を空けに掛かる


ヒュンッ!


しかしッ!逆にこちらの爪が

彼の体に到達するよりも前に

手首ごと切り飛ばされて不発に終わった!


なんという反応速度だ!

予想しているのか、それとも野生の勘か?

この程度の攻撃ではフレデリックは倒せない!


弾き飛ばされたフレデリックは

即座に体勢を立て直し、地に足をつけ

地面を砕きながら踏み込んできたッ!


ボクは背中に手を回した

腰の裏の銃を掴み、引き抜く動作をする


「——ッ!」


瞬間、フレデリックは左右に激しく飛んだ

2度、3度と刻まれるステップはとても鋭く

ボクの腕では狙いを定める事は出来ない。


だからボクは

銃を引き抜き、後ろに向けたままで

アカヅメの重いトリガーを引いた!


——そう、反動を殺さずに


リンドが作ったこのハンドガンは

対地中貫通爆弾程の威力を誇っている

故に、生み出される反動は凄まじく

到底吸血種以外に扱える代物では無い


もし、並の生き物が引き金を引こうモノならば

その体は即座に爆裂し、弾け飛ぶだろう


故に!反動を一切殺さなかったボクは!

その、強大なるエネルギーを一身に受け


自らをッ!


吸血種の動体視力をも上回る速度で

そして、なんの予兆もなく`射出`したッ!


——すれ違いざまの攻防


一瞬にも満たない時間の中で行われたそれは

決して無視できない不利を背負った彼と

大きなアドバンテージを手にしたボクとでは


まさに天と地ほどの差があり

フレデリックは首、両腕両足を切り飛ばされ

全戦力を削り取られて、完璧に敗北を期した。


……ただし


それは、孤独なる敗戦では無かったッ!

フレデリックは!相対した敵の戦力をも

完全なる不利を背負った状況に置かれながら


自分と同程度の損傷を負わせることにより

絶体絶命の危機を乗り越えた!それは即ち


それが意味するのは、即ちッ!

ボクの首がたたっ斬られるという結果である!


すれ違いざまの攻防は

両者敗北の痛み分けに終わった

完全なる有利を背負ったにもかかわらず

ボクの放った一撃に、彼は追いついて来たッ!


頭をやられ、肉体の制御が失われる

途端ボクの体は壊れた人形の様に

無様に空中に打ち捨てられてしまう。


めちゃくちゃになって飛ぶ体

お互いの怪我は全くの同程度

しかし、肉体再生の速度はボクの方が遥かに早い

その分で1歩先を行くことが出来る、はずだった。


失われた首が再生する

同時に、肉体の制御を取り戻す

思考回路が繋がり、状況を把握する


そして認識した

激しく反転を繰り返す天地を

めちゃくちゃに振り回される視界

入り乱れる青空と森の風景ッ!!


そうだボクの体は

凄まじい速度でカッ飛んでいたのだった!


着地を果たす前に首を飛ばされたおかげで

すっかり体勢を崩してしまっていたのだ!


マズイッ!これでは有利どころか——


「シャアアアアアアァァァッ!!!」


およそ生き物が出しているとは思えない程

理性や知性をかなぐり捨てた叫び声

溢れ出す殺意、思考を介さないソレは早く


本能的に繰り出されるが故に鋭く

時に裏を掛かれることはあるけれど

この時に限っては、非常に効果的であった。


間に合わない

今からでは絶対に間に合わない

フレデリックがボクにトドメを刺すのが早い

この状況を覆す身体能力は、備わっていない


ボクは潔く認めた

この攻防を制したのは彼であると


あの日、利用価値があるからと生かした研究者が

よもやこれ程までに成長を果たしてくれるとは

正しく文武両道、フレデリックは戦いの天才だ


ボクが鍛えた中では2番目にセンスがある

ひょっとしたら、あのリンドよりも……


だからボクは大人しく負けを受け入れた

闘いにおける勝者は彼だ、それは認めよう


——だがね


降り積もる怨嗟、憎しみ抜かれた我が身

フレデリックは無防備なボクに爪を振り抜いた

正しく殺す気で、一切の躊躇を持たずに。


——それ故に



「……ッ!?」


フレデリックが爪を放った時

ボクの肉体は既にそこに無く

あるのはただ、霧と化した吸血種のみ


それは吸血種が扱う血の力のひとつ

`自らの肉体を極小の粒子状に分解する`という

吸血種であれば誰でも知っている常套手段だ。


——そう、吸血種であるならば


もっと言えば


生まれながらの吸血種であるのならッ!

誰しもが頭の片隅に置いている可能性のひとつ


つまり、

フレデリックやジーンでは出ない発想ッ!


吸血種に対して血の力は有効打になり得ず

それ故、訓練中でも一切ソレを使用しなかった

だからこそ無意識下に刷り込まれる格闘の意識


これは闘いでは無い

殺し合いであるのだから。


霧化したボクの体は実像をもたず

振り抜かれた爪は一切の意味を成さない

そして生まれる攻撃の後隙

必殺の意志を込めたが故に生じる遅れ


吸血種同士の戦いにおいては

例え、ほんの0コンマ数秒であっても

勝敗を決するには十分過ぎるという事を


このボクは、何よりもよく知っている。


片腕だけを実態化させる

その手にはアカヅメが握られている


フレデリックの背後から狙いを付けて

彼が反応するより早く引き金を引いた

今度こそ、ボクの攻撃は完璧に通った。


爆散するフレデリックの上半身

そしてボクは全身を実態化させると

彼の両脚を根元から切り飛ばし


再生に合わせて

もう一度上体を粉々にする


そうやって定期的に体を砕く事で

彼を実質的に行動不能に追い込みながら

徐々に、徐々にその場から移動していく。


もがき、苦しむフレデリック

何とかして抜け出そうと力を振り絞るも

この至近距離で動きを掌握されてしまっては

いくら戦闘の天才と言えど、為す術が無い。


ボクは彼をドンドン押し込んでいき

地上を駆け抜け、とある地点へと誘った


それは


師匠が加わる以前から

我ら5人の吸血種が定めた指定危険区域


五大脅威のひとつ

虹色転移鳥が生息する区画であり


「……キュ?」


首を傾げるかの鳥は


あんなに可愛らしくも目立つ姿をしていながら

自らが脅威と断定した対象を

粉微塵にして世界中にばら撒く恐るべき生き物


ボクは再生を終えたフレデリックの頭部を

容赦なく切り飛ばしたのち、その体を抱えあげ

虹色転移鳥の居る方向へ、思い切りぶん投げた


ボクは即座に踵を返して

あの害鳥の脅威範囲外へと離脱しつつ


振り向きざまに

最後の1射をお見舞いすると共に

こんな捨て台詞を吐いておいた。


「それでは愉快なる空の旅を!」


「ジェイミィィィィィィーーーッ!!!!」


憎しみの雄叫びも

もはや意味は無い


直後、フレデリックは光の中へ飲み込まれ

周りの木や土、生き物達をも巻き添えにし

この世界のどこかへと消え去って行った。


後に残されたのは


「ピィピィ」


と、小首を傾げて鳴く害鳥と

ひとり勝利の笑みを浮かべるボクのみ


それ以外のものは全て消え去った

地上は大きなクレーターと化し

地形は著しく変わってしまった。


「これでふたり」


彼が復帰してくる頃には

とうにカタは着いているだろう

故に、この勝負はフレデリックの勝ちだ


ただし

最後に残ったのはボクであるのだが——


──────────────────


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