最後の覇王


「——敵が強いッ!」


大きく、珍しく大きく悪態をつく

ここが最後の拠点で最終撃破目標だと言うのに

相対する敵のほとんどが、恐ろしく強い!


——バチバチバチッ!


黒金に輝く雷鳴が轟く

目の前に立ち塞がる覇種の女が放ったモノだ


ボクは雷撃を避ける、踏み込んで当身

躱され、反撃を合わされるが、いなしてカウンター


入らない!ちょうど後ろから攻撃が来る

大きくバックステップを踏むことで体当たり

敵を弾き飛ばすと共に、発射台代わりにして跳躍


複雑なフェイントを織り交ぜて爪を振り抜く

当たる、両腕を切り飛ばすことに成功した


真下からつま先が迫る、蹴り上げがやってくる

あえて避けることをせず、土手っ腹に食らう

……と同時に捕まえて身を捩って引き寄せる


「うぁ、マズ——」


それが最後の言葉

奴は心臓ごと胴体をたたっ切られて屍と化した

腰の裏から銃を引き抜き、真後ろに向けて射撃


——ドォォォンッ!


背後で、敵が砕け散る音が聞こえた

ボクは射撃時の反動をワザと全身で受けて

自身の体を、まるで弾丸のように射出した。


視界の先で戦っている竜人族達に

加勢をしようと飛び込んで、その途中


驚くべきことに

跳躍しているボクの脚を掴む奴が居た

タイミング合わされた、捉えられた!


ボクは即座に自分の脚を

根元から切断して拘束を抜ける

着地すると同時に拳が眼前に迫った


ボクは咄嗟に、敵の拳に噛み付いた

そして首の力で無理やりに受け流し


再生したばかりの足を

まるで槍の様に奴の左胸に突き刺した


ズブッ……!


「がぁっ……」


即死!コイツはもう戦えない!

突き刺さった足を引き抜く手間すら惜しい!

ボクは再び脚を切断し、同時に戦況を把握する。


竜人族はほとんど全滅に近い、もう8体だけだ

黒狼族は16体残ってる、老狼部隊が狡猾に戦ってる


フレデリックとジーンがキツそうだ

2vs1に持ち込んだ上で苦戦させられている


リンドの方は相変わらず多対1をしているが

こちらも同じく、怪我を負う機会が増えている

この中で最も手札が多いのが彼女なので

早々殺られる心配はないとは思うが


あまり長引かせたり

あれ以上増員されたらマズイことになる

敵の数もだいぶ減ってきた、あと少しだ。


などと、考えを巡らせながらも

頭上から奇襲を仕掛けてきた覇種に対応する

ギリギリまで気付いてないフリをして

すんでのところで一気に反撃に打って出る!


交差する爪、そして宙を舞う敵の片腕

トドメを刺そうと踏み込みかけて、止めた

その代わりに大きく飛び退く選択を取る。


すると、先程ボクが立っていた場所に

黒い閃光が走る、ちょうど首を刈る位置だった

ボクは飛び下がりながらも、銃を構えて射撃する。


敵はそれを雷の結界を作って防いだ

弾丸が結界に触れた途端、眩い光が放たれる

電磁バリアの内側に守られながら

敵の覇種が次なる攻撃を仕掛けようとして。


迫り来る驚異に気が付いた

ボクは射撃と同時に前へ詰めていた

そして、爪に血を這わせて雷の結界を切り付ける


すると、力と力とが相殺し合って

奴の周りを多い囲っていた盾が消え去るが

この身に宿る推進力は、未だ衰える事を知らず。


そのまま真っ直ぐ飛び込んで爪を振る

敵は大きく間合いを外してソレを躱そうとした

すぐ反撃に移る気だ、その判断は非常に正しい。


相手の間合いが、本当に

見極めたと思った通りであれば

ボクは今、爪に血を這わせている


血は、扱う者の意志によって自由に形を変える

液体にも固体にもなる事ができる、それにより

ボクの左の爪は、瞬間的にグーンと伸びたッ!


敵が目を見開く

中途半端に外した間合いが裏目に出た

攻撃は振られ、血の刃は顔面へ到達し

無様に切り裂かれるかと思われた


——その瞬間


土壇場で展開された雷撃と激突して

あえなく対消滅を果たした。


「ハッ!」


お返しだ!と言わんばかりに

夥しいまでのエネルギーを内包した雷撃が

空中にて弾け、ボクに向かって発射……


既に自分に向けて銃を構えていた

そのボクの姿を見てしまった。


「やっば、読み違えたぁ」


ポツリと、諦めたような声がして

覇種の男の全身は跡形もなく爆裂した

唯一、絶対の急所である心臓を残して。


ボクは素早くそこに飛び込んで

再生される前に心臓を破壊した。


その、傍らで

ちょうどリンドが多数戦に勝利をした

そしてフレデリックとジーンも同様に

苦戦していた相手を打ち倒した。


老狼部隊は3人の死亡者を出していたものの

的確に獲物を封印しており、戦果をあげていた

竜人族は全部で5体しか残って居なかった。


今ので最後か!?急いで辺りを確認する

あちらこちら、気配はしないものかと必至に

そうして、`最後のひとり`を見付けた。


ソイツはボクの視線の先に立っていた

たったひとりで、世界最後の覇種として

もはや閉ざされた運命の扉を前にしていながら。


尚も衰えず、濁らず、絶望に打ちひしがれない

強く、研ぎ澄まされた精神力を、奴から感じる。


そう、敵はもうあと一人しか居ないんだ

さっさと決着を付けてしまえ、仕事は山積みだぞ

爪を振って、あの哀れな命を終わらせるがいい。


そう、誰もが思うだろう


——だが


「……リージ、ウェン、ランケル、セヴァカトラ」


ブツブツ、ブツブツと

まるで呪いの言葉のようにボソボソと


「パルミラ、イェジス、スラギドラ、イジス、ジニア」


唱えるように、唄うように

あるいは懐かしみ、悲しむかのような声音で


「ドーナ、ジナベラ、ファーマ、ジェラド」


1歩、1歩

前へ踏みしめながら呟く彼の姿が

あまりにも不気味で、得体がしれない、かつ

なにやら鬼気迫るモノがある気がしてならず


長い時の中を生き残ってきた、ボクの生存本能が

`絶対に仕掛けてはならない`と全力で告げている。


「みんな死んでしまった、もう誰も残ってない」


サクリ、と

彼の足音が空間に響き渡る


現在、物音を立てる者は彼以外におらず

それ故にこの沈黙した空気に鋭く突き刺さる


耳が破れそうだ、目眩がしてきそうだ

一挙手一投足から目を離す事が出来ない

まるで、ほんの少しでも集中を欠く事があれば

それが最期だと言わんばかりの、異常な集中力


「……分かるんだ、もう仲間が居ないって事が

伝わってくるんだ、大切な物が失われた現実が」


サクリ、サクリ、サクリ

悠々と歩く彼の事を止めるものは居なかった

誰ひとりとして、ピクリとも動く事は出来い。


穏やかで、淡々としていて

それでいて激情を含んだその声に

何か得体の知れない恐ろしさを身に纏う姿に


誰もが怯え、警戒し、そして

`動いてはならない`と直感していた。


彼は、ゆっくりと言葉を繋いでいく。


「お前達が、したんだ


だから僕もするんだ


塗りたくられた泥は拭わなければならない

付けられた傷は、返さなくっちゃならない


みんな、おいで

僕が引き受けてあげるから

アイツらを


——アイツらを、許さない」


眼光がボクらを貫く、その瞬間!


……ゾワッッ!!


背筋に、いや全身に!

これまで生きてきた2億年の歳月の仲でも

1度も味わったことの無い寒気を感じた!


すぐさまボクは飛び退いたッ!


……そこで


身体が硬直せずに済んだのは、恐らく

過去に何度も死にかけた経験があるからだ

あまりに鮮明な死のイメージ、ボクらを貫いた。


ビクッ——!と、亜人種の皆の身体が固まる

フレデリックも、リンドも、ジーンも同様に

おぞましい何かに睨み付けられた様な感覚に


本能的に抗ってしまい

肉体の硬直という最悪の反応を起こしてしまった


その結果


——ボッッ!!


彼らは全員、超常的なエネルギーを内包した

これまでとは比べ物にならない程の雷撃を食らい!

竜人族も、黒狼族も、吸血種に至るまでの全て



形を保っていたのはボクだけ

それ以外は何もかも、地面も木も建物も

見渡す限りの全てが、灰燼と化していた。


今の攻撃、予兆が無かった!それに

覇種の操る雷はこれ程強力では無かったはずだ

パワーが上がった?いや、恐らくは

そう単純なものでは決してないだろう。


敵が膝を曲げるのが見えた

仲間の吸血種にトドメを刺すつもりか?

それともボクに向かってくるつもりか?


答えは分からない、故に

ボクは腰の裏のホルスターから銃を抜き

構え、迷わずに引き金を引いた!


カチンッ!と、撃鉄が落ち、火薬が炸裂する

銃口から火炎を吹き、弾丸が射出される

ソレ、目ではとても追えない速度であり


この距離からであれば

撃つのを見て反応する事など不可能


の、はずだった


バチッ!!という弾ける音と共に

銃弾は、雷の防壁によって防がれてしまった

事前に展開していたという訳ですらない


明らかに`撃つのを見てから`防御を行った

まさか、まさかそれ程までに強いのか?

アカヅメの銃撃に合わせられるほど

優れた動体視力、及び反射神経なのか?


ボクは銃弾が弾かれるのを見るや否や

即座に攻撃手段を切り替え、血に変更

天を覆うほどの血の槍を形成し、1点集中で叩き込む


……が、


無数に放たれた血の槍は全て

同規模の雷撃を`後から合わされ`無効化された。


そこでボクは確信した

そうか、奴は全ているんだ!

ボクがどんな攻撃手段を持ってるか知ってるんだ


そうでもなければ、あれ程の速度で

銃撃に反応したり、雷撃を放てるはずがない


単に反射神経と勘が

異常に優れているだけかもしれないが

その場合、ボクにやれる事は何も無いので

前者の可能性のみに絞って問題は無いだろう。


しかし、ボクには確信がある

アイツはボクの、いやひょっとすると

こちら側の戦力全てを知っているんじゃないか?


リンドの避雷針装置が機能しなかった

それはつまり、許容量を超えた証拠であり

なんの考えも無しにそれほどの一撃を放つ程

短慮な脳みそをしている様には見えない。


こちら側の対策を真っ向から打ち砕いた

アカヅメの一射を防いだ、血を相殺した

材料は充分揃っている、相手はボクを知っている。


戦法や速度、傾向、考え方

そういったあらゆる要素を把握されている

これからは、そういう前提で動く事とする。


リンド、フレデリック、ジーンが復活する

丘の上に居たリリィも飛び込んできた


亜人種は今の奴の一撃で全滅してしまった

この場にいるのは5人の吸血種だけである。


「……!」


リンドが無言でショットガンを構える

それに反応して敵は、真っ直ぐ詰めて来た

通常、それは自爆にも等しい行為であるが


それを、彼は

体の周りに強力な電磁フィールドを纏いながら

全力の速度で突っ込んできたのだ


リンドは、恐ろしい速度で突っ込んでくる

最後の覇種の男に、落ち着いて散弾銃を向けて

ゆっくり、確実に射撃を行おうとするが


ボクは直感的に、それはマズイと判断した


「リンドッ!それを撃つんじゃないッ!」


「——っ!!」


ひょっとするとあの電磁フィールドは

弾丸を跳ね返す作用があるのではないか?

という、最悪の可能性が頭を過ぎると同時に


ボクの体は独りでに動いていた

全身に血を纏い、鎧のようにしながら

奴の進行方向に、割り込むように飛び込む。


そこで、何か一撃を放とうと考えたが

物凄く嫌な予感がしたのでそれは止めた


すると、次の瞬間


——ブォン!


何も無い空間を、いいや正確に言うならば

ボクが攻撃をしようとしていた軌道上を

敵の斬撃が、鋭く通り過ぎて行ったのだ。


確定だ、コイツはボクの動きを知っている

だから迂闊に手を出せば

カウンターを合わされて叩き伏せられる!


かと言って何もしなければ

このまま詰め殺られるのは目に見えている


で、あるならば


ボクは、体に纏っていた血の鎧の一部を

まるで爆弾のように破裂させた

無数の血の欠片が飛び散る、それによって

奴の周りの電磁フィールドが消し飛んだ。


そのまま、追撃に踏み切ろうと構えて

一瞬だけタイミングをズラして爪を振り抜く

すると、敵の方が僅かに早く攻撃を出した!


宙に舞う片腕

それは敵のモノだった


相手がボクの動きを知っているというのなら

本来のタイミングからズラせば良いのだ


……良いのだが、喜んでもいられない

何故なら恐らく、このタイミングのズラしも

そう長くは通用しないであろうからだ。


良くてあと1回


悪ければ次にはもう対応されているはずだ

裏をかいたと思って攻撃を振った瞬間

こちらの首が飛ぶ羽目になるかもしれない。


腕を切り飛ばした、それは確かに成果だが

結局この後の追い込みラッシュも

敵には知られてしまっているだろうし

せっかくのチャンスに、攻めきれない。


——敵の、肩の筋肉が収縮する

貫手が来る!凄まじい速度の一撃が!


防御か!それともいなすべきか!

こちらの手の内を知っているという事は

裏をかく為のカラクリがあるのだろうか!?


ボクは混乱する思考回路をオフにした

落ち着け、焦るな、考えるべきじゃない

読み合いに付き合ってはいけないんだ。


要らない、要らない

この場において色覚情報は必要ない

嗅覚も、味覚も、必要のない五感は制限する


制限した分フリーとなったリソースを

反射神経と動体視力に、全て注ぎ込む


余計なモノは要らない、シンプルで良いんだ

無駄に頭の中をゴチャゴチャさせてはならない。


本能に従え、積み重ねてきた経験と

これまでに師匠から学んだ事

それを全て、この場で出し切るんだ。


理屈も理論も超越したところで

この目の前の、最後の覇王を殺害する!


ボクは、敵の攻撃の前兆を捉えておきながら

防ぐ事も、反撃を合わせることもしなかった

ただ静かに、攻撃が繰り出されるのを待った。


——そして


奴の爪の、切っ先が

ボクの左胸に触れたその瞬間


頭で理解するよりも早く、早く

これまでのどんな場面と比較しても

圧倒的な速度で反応し、奴の腕を掴んだ!


そのまま押し潰して腕を砕く!


すると奴は、つかまれた自分の腕を

肩から引きちぎって拘束から逃れた


ボクは`危ない`と本能で察知し

1歩後ろに下がって間合いを広げた


その瞬間


バチィィンッ!という音と共に

自分の顔面に強烈な打撃を食らっていた

顔が上を向く、首の骨にミシミシとヒビが入る


間合いを広げていなければ

頭を砕かれて行動不能に陥り

そのまま死んでいたかもしれない


ギリギリのところで危機を脱したボクは

続けざまに放たれた敵の一撃を、姿勢で躱し


反撃を出す素振りを見せつつ

突然、ノーモーションで頭突きを見舞ってやった


——ゴンッ!!


その一撃は見事に入った

敵の頭蓋を少なからず陥没させてやる

しかし、それで隙を晒す程甘くは無かった。


2発、肩と首に斬撃を貰ってしまう

精度自体は低く、大したダメージでは無い

苦し紛れの反撃……と言ったところだろう。


しかし


コイツは、ヤバイぞ


その事を肌で感じとったからか

リンドを始めとした吸血種の仲間たちは

一切、ボクとコイツのやり取りに入ってこない。


自分達では戦いにならないと

ボクの邪魔にしかならないと判断したのだろう

そして実際、彼女らの選択は正しかった。


大きく距離を取り

巻き込まれない位置で様子を伺う彼女ら

ああそうだ、そこに居てくれたら安心だ。


敵が直接心臓を狙ってくる

ボクはあえて体で受け止めて打撃を返す

顔面にクリーンヒット、直ぐに拳を戻す


腹の辺りに突き刺さった腕を引き込み

もう一度打撃をお見舞してやろうとして

直前で止めて、全力で防御に専念した。


結果、袈裟に振り抜かんとしていた奴の爪を

ギリギリのところで直撃を避ける事が出来た


無傷、とは行かなかった

肩から腰にかけてをザックリと

斜めに切り裂かれてしまった。


が、致命傷には程遠い

ボクはすかさず貫手を4発放った

届かない、届かない、届かない!


4発目に合わせて反撃が来る!

ボクは逆にタイミングを合わせに行く!


結果は痛み分け

お互いに右腕を損傷してしまった


つま先を踏み付けて骨を砕く

ほんの嫌がらせに過ぎない攻撃だが

今の一撃は完全フリーで入れられた。


シュンッ!空間を切り裂きながら

首を切り飛ばす軌道で斬撃が飛んでくる

再生したばかりの右腕で受けて、いなす


——だが、腕を掴まれたッ!


引き込まれて体勢を崩される

左胸に真っ直ぐ貫手がカッ飛んでくる


ボクは、体勢を崩された勢いを利用して

自分から体当たりを仕掛ける事で

受けるダメージを最小限に抑えた

狙いがズレる、僅かに心臓を右に外れる


だが!ボクの目論見はそれだけではない!

体当たりをした次の瞬間、敵の体が

まるでゴムボールを蹴っ飛ばした時の様に

派手に弾き飛ばされたのだ!


奴は知らない


ボクの腰の裏のホルスターの仕舞われた銃が

240トンもの重量を誇っている、という事を


ドンッ!という衝撃の後

敵は大きく仰け反らされてしまった

ボクは生まれた隙を見逃さず、貫手を放った


だが、槍のように突き出された手は

ぱしんっと、ハエでも叩き落とすみたいに

空中にて叩かれ、軌道を変えられてしまう。


急所を外れた!その事を認識した瞬間

ボクは攻撃を止めて、素早く手を戻す


……戻せたからいいものの

今、奴はボクの手を捕まえようとしていた

危ない、常に綱渡りをしている様な戦いだ。


半歩間合いを広げようとする

敵が反応して蹴りを放ってくる

ギリギリで避ける、鼻先を掠っていった。


牽制に軽い斬撃を放つ、踏み込んで来ない

フェイントを仕掛ける、素早い突きが飛んでくる

いなして、膝に蹴りを叩き込むが、カットされる


お返しの膝蹴りが放たれる

肘を叩き付けて撃ち落とす


反動を利用して顔面を殴りに行く

額で受け止められて拳を破壊される。


前蹴りを放って距離を稼ぐ

その足をガッシリと捕まえられる

腰の裏のホルスターからアカヅメを抜き

腰の辺りに構えて引き金を引く


捕まえられていた脚を乱暴に離される

それによって体勢が僅かにブレて

狙いが外れて、弾丸が明後日の方向に飛ぶ


好機!とばかりに斬撃が飛んでくる

ボクは、右手に構えた銃を逆手に持ち

銃口を自分の方に向けるように持ち替えた。


まるでトンファーのように構えられた銃で

敵の、真横に振り抜かれた爪を


「——!!?」


ガァァァンッ!


全てを切り裂くはずの爪は

物の見事に受け止められた

それによって生じた動揺は決して小さくなく

ここに来て、初めて見せた明確な隙であった。


ボクは、敵の爪を受け止めたままの腕で

すなわち、240トンの鈍器を持った腕で

完璧にガラ空きになった、奴の顔面を!


ゴッッッッンッ!!!!

反動を付けて、思いっきりぶん殴ったッ!!


その一撃は、敵の頭部が

粉々になって四散する程の威力を秘めていた!


来た、今だッ!決別の時が来た!

今しかない、今ここで決めるッ!


「——じゃあねッ!」


放たれた、渾身の貫手は

頭部を失いながらも何故か動く奴の手によって

妨害され、乱されそうになりはしたものの


絶対必殺の意志を持って放たれた

吸血種ジェイミーの爪は非常に洗練されており

その程度の、苦し紛れの抵抗が通用するはずもなく


——ズブッ


と、差し込まれたボクの腕は


肉を断ち、骨を裂き、血管を寸断してその奥の

ドクンッ、ドクンッと脈打つ命の源泉へと到達


しっかりと握りこんで

万に一つも生存の可能性が無いように

全身全霊を込めて握り潰してやった。


——パァン!


破裂する心臓

途端に、血に濡れ始めるボクの手

それはすなわち命が失われた事の証明。


「……そん、な……」


虚ろながら確かな意思のある目を

ボクは、左胸に腕を突き刺したまま見つめ返す


彼はとても、何かを言いたそうで

そして、何かを分かってもらいたそうで

多分それは怒りで、悲しみで、憎しみで


だからボクは

奴にこう言ってやったのだ。


「——ただ静かに絶滅しろ」


一瞬、復讐心が瞳の奥にチラつき

その後、彼は全身から力を抜けさせて

泥のように倒れ込み、そのまま砂と化した。


風に流れて散っていく彼の死体

恐らく彼は、1万体存在した一族全ての記憶

経験、そして力を一手に引き継いでいたのだろう。


最後のひとりだから


唯一残された、生き残りだったから

覇種という種族そのものが起こした奇跡

命の輝き、滅んでなるものかという強い意志。


残滓が寄り集まって生まれたもの

最後の最後で、希望として選ばれた孤独な王

やがて、この世界を掌握しただろう種族の王


すなわち、最後の覇王


「諸君、落鳴戦線はここに終結した

次世代の吸血種とも言うべき覇種は絶滅した


——さあ、凱旋と行こうじゃないか」


こうして、ボクらの長い長い一日は

戦いの終結と共に、終えられるのだった……。


──────────────────


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