世界記 吸血種統括ジェイミー備忘録 新たなる夜明け 吸血種シリーズ3

始祖同士の戦い

『ジェイミー視点』

ボクはたった1人で、この大自然の中を走る

大地を踏み締め、蹴り、鬼のような速度で

仲間の元へ、当初予定していた計画の通り

未だ先頭を続けているであろうリリィ達の元へ

いい加減そろそろ疲弊してきている頃だ

貸し与えられた戦力も、だいぶ目減りした事だろう

ここいらで強力な加勢が必要だ、すなわちボクだ。

色々と思いを馳せるべき事はある

だが、今はそれを考えるときでは無い

ただ己の役目の為に、走れ、走れ、走れ——

そうして、見えてきた、聞こえてきた

目を潰し、耳を覆いたくなるような

残忍で残酷で悲惨な闘争の気配が。

激しく戦っている、苛烈に死んでいく

ここまで香ってくる血の匂い、それは決して

敵である覇種だけのモノではない、中には

竜人族、黒狼族の血の匂いが多く嗅ぎ取れる。

負傷、死亡、重傷、弾き飛ばされて切られる

殴られる、建物が崩れる、誰かが叫び怒る

急げ、急げ、仲間の死に目には立ち会いたくない。

やがて

軽快かつ猛烈な速度で、ボクは戦場に飛び出した

崖の上から飛び降り、急降下し、地上に着地

その過程で、戦地に奮闘する仲間の姿が見えた。

フレデリックとジーンは苦戦しながら

そして絶え間なく傷を負いながら

12体の覇種を足止め、討伐している。

リンドは片手にショットガンを構えて

敵陣の中に1人で突っ込み、爆発を巻き起こし

銃弾の雨あられを敵に浴びせ、暴れている。

リリィは高台でひとり

味方に指示を出し続けている。

床に倒れているのは血みどろの死体！

頭を砕かれ、腕を失い、足をもがれ腹を裂かれ

執念を燃やし、無念の内に沈んだ亜人種の死体

残存兵力は54プラス4プラス1という所か

だいぶ減った、黒狼族はもう殆ど残ってない

老人の黒狼族の群れが暴れている程度で

若者たちの殆どは死滅したらしい。

これは種族全体の縮小に繋がるな

戦いの後のケアはしてやらねば。

｢——っ！ジェイミーさんっ！！｣

リリィがこちらに気が付いた

事前に幾つか作っておいた独自言語を用いて

ボクに声がけ、そして味方への周知を行う。

｢来た、ジェイミー！｣

｢ジェイミーさん、早いですね｣

｢さっさと加勢してコイツら

ぶっ潰すの手伝っとくれッ！｣

あちらこちらから、歓迎の言葉が飛んでくる

その声には覇気がある、まだまだ彼女らは元気だ

間に合った、味方勢力の疲弊具合を見る限りでは

恐らく今が7戦目あたりだろう

人数不利の中で良くぞこれだけ戦った

100vs半数、それがどれだけ厳しいか

戦術の知識がある者なら理解出来る。

辛い戦いはここまでだッ！

この先はボクが最大戦力を引き受けるッ！

倒壊した建物の中に飛び込む

集団で人数不利の竜人族に襲いかかる覇種達

ボクは、アイツらの最中に真っ直ぐ突っ込んだ。

｢——っ！？｣

突然現れた加勢に動揺が走るも

奴らは直ぐに、こう思い直したことだろう

`不意を突かれた、しかし何だ、1人だけか`

その思い違いこそが

貴様らの明暗を分けると言うのに。

数人が、竜人族に向けていたヘイトを

こちらを叩き潰す目的でシフトさせる

そして、眼前に迫り来るのは

この一撃で殺す！という意志の籠った攻撃

並大抵の生き物であれば、為す術が無いだろう。

しかし

ボクはよりによってその攻撃を掴み

｢な——！？｣

引き寄せて、体勢を崩させて

顔面を蹴りこんで首を切断し

捕まえたままの奴の体を振り回して

襲いかかって来た他の覇種を散らし

首のない覇種が再生する前にトドメを刺し

その体を、思いっ切り敵の方へと投げた

ゴォッ！という音を立てて飛んでいく死体

血を撒き散らし、派手に激突、崩れる陣形

ボクは竜人族に対し`今だ！`という視線を向ける。

｢風の剣｣

｢しまっ——｣

視界を覆い尽くすのは！

全てを巻き込み、瓦解させる大暴風！

削り、抉り、そして砕く圧倒的な暴力ッ！

隙を突かれ、巻き込まれていく覇種達

何とかして防御を行おうとする者も居たが

間に合わず、その全身をバラバラに引き裂かれ

瞬く間に粉微塵に消し飛ばされていった。

すれ違いざまに！

行動不能となった敵の心臓を砕き

すぐさま次の戦場へと向かった。

ひとり、敵集団の中で

凄まじい激戦を繰り広げるリンドの元へ

ズガガガガガッ！けたたましい銃撃音が鳴り響く

蜂の巣、穴だらけ、木っ端微塵

彼女の持つ銃は実に凄惨たる光景を生み出す

しかし、射撃の手を止めてトドメを刺しに行けば

直ぐ反撃に打って出られる為に、それが出来ない。

少しずつ、少しずつでしか

敵の戦力を削れない状況に陥っている

人手が足りていないのだ、フレデリックは

ジーンの元で戦っているのでリンドは現在

たった1人で戦うしかないのだ。

もっとも

それも先刻までの話だがッ！

ボクは血の力を広域展開し

空中に無数の球体を作り出した

拳大程度の大きさのソレは

ビュンビュンと、縦横無尽に飛び回り

一見すると攻撃の様にも思えるが

真の狙いはソレでは無い！

リンドの、止まない銃撃の中に

ボクは勢いよく飛び込んで、そして

空中にて飛び回る球体のひとつに

足をかけそして飛んだ！

全身のバネを利用しての跳躍は、優に

相対した敵の動体視力と反射神経を追い越し

そのまま両肩、両足を切り裂き

すれ違いざまに心臓を貫いて殺害した。

——攻撃はここで終わらない

跳躍したボクは、尚も複雑な軌道を描き

空中を飛びまわる血の球体のひとつを捉え

再び足を乗せて、急激な方向転換及び加速を果たす

チュンッ……と、右の頬を

リンドが放つ弾丸が掠めていった

それにより顔の3分の1が消し飛ぶが

この程度では、戦闘力に何ら影響は無い。

ダンッ！飛び回る

縦横無尽、変幻自在、恐ろしい速度で

右へ、左へ、上へ、前に後ろに下に！

｢なんだコイツ！？は、早すぎ——｣

何も出来ずに敵が死んでいく

ひとたび方向転換をするならば

さながら死神が通った後の道のように

その場にはただ、物言わぬ骸が転がるのみ

ザン！ザン！ザンッ！

爪が血に濡れる、視界が縦横入り乱れる

動体視力はとっくに役に立たないので

タイミングを勘で合わせて攻撃を振る。

ザンザンザンザンッ！

斬る、斬る、切り抜ける！

たとえこの足が銃撃によって吹き飛んでも

即座には血で義足を作って対応する

再生のち解除、澱みなく跳躍を続ける。

リンドの銃撃が敵の足を止め

ボクが飛び込んでとどめを刺す

効率的、かつ合理的なこの戦法

己にも、彼女の攻撃が当たってしまうが

そこは仕方ないと割り切る他ない

頭や腕に当たるものさえ気にしていれば

それ程致命的な要素では無い！

……このようにして

このボク、吸血種ジェイミーの

3次元ピンボールから逃れうる者はおらず

誰一人として、片鱗すらも掴む事は出来ず

また、指先のひとつすら

このボクにも、そしてリンドにも

決して届かせること無く狩り尽くされた。

地上に降り立ち、そしてみたび走る

道中、敵が襲いかかって来た

攻撃を鼻先のギリギリで躱して

前蹴りを放って吹き飛ばし

黒狼族の老人が後ろから突き刺し

リンドが作った封印術式が起動！

その覇種は床に刻まれる白い紋様となり

永遠に、この世界に舞い戻ることは無くなった

再生能力があるというのなら、それを加味した上で

完全なる行動不能状態に

陥れてしまえばいい。

これはかつて人間が

吸血種に対して使った手法だが

今は、それを利用させてもらったぞ。

囲い込むように敵が飛び掛ってくる

そのうちの一人に足をかけてつんのめらせ

振り抜かれる爪と爪の隙間を縫って背後に回る

後ろから貫手一閃、急所を穿つ

死体を蹴り飛ばして飛び道具権目眩しにし

腰の裏のホルスターからアカヅメを抜銃！

蹴り飛ばした死体諸共

向こう側にいる敵を木っ端微塵に吹き飛ばす

その隙に、丁度手が空いたばかりのリンドが

すかさず飛び込んできて、ソイツにトドメを刺す。

リンドの乱入によって敵の意識が分散する

ボクは、一瞬気が逸れて出来た隙を見逃さない

ダンッ！踏み込む、床が碎ける

衝撃波が生まれる、燃えるような赤を纏い

炎の軌跡を残しながら爪を振り抜く。

この世界で最も硬いとされる鉱石すらも

容易に切り裂く事が出来る吸血種の爪は

当たれば確実に獲物を引き裂く

それはたとえ`始祖`相手でも変わらない

故に、覇種程度が肉体で防げる道理はなく

完璧に不意を付いて放たれたその一撃は

容易に、その場に居る5人全員を

心臓ごと真っ二つに胴体を切り裂き

なおも衰えぬ余力を内包したまま

風を巻き上げ、地面を削り、空間を揺らし

ブォンッ！と、横一文字に振り抜かれ

そして、手の届かない位置にいた覇種諸共

合計で19体、纏めて叩き切って見せたッ！

遅れてやってくる衝撃と

焼け爛れるような焦げた匂い

そして、派手に飛び散る瓦礫

敵は、いずれも心臓を捉えられている

命を存続させられる可能性は皆無

突如として急所をぶち砕かれた奴らは

己の身に起きた事を把握する間もなく

揃いも揃って絶命した。

｢……なん、だ｣

あまりの光景に足がすくんだのか

それとも絶望し、明日から目を背けたのか

隙だらけの背中を晒した敵を

フレデリックが後ろから貫いて殺す

その、彼の背後で

ジーンが1vs3を制しているのが見えた

ただの人間だった彼女が、よもやそこまで

仲間の成長に感動しながら

ボクは素早く戦場を見渡し、そして

｢——今のが最後だ！敵勢力全滅、戦闘終了！

喜べ諸君、我々は勝ち続けているぞッ！

さあ士気を上げろ、一族の未来の為に！｣

ひとまず、戦いが終わったことを告げた。

｢ジェイミーさん！お疲れ様です！｣

高台から指示を飛ばしていたリリィが

ボクの横へ降りてくる、腕を掴んでぶんぶん

余程、ボクが来てくれて嬉しいのだろう。

その顔には微塵の疲れも

気迫の衰えも感じられず

彼女自身の強力な精神力を表している様だった。

と、リリィが

辺りをキョロキョロと見回したあと

きょとん、とした顔でこう言った。

｢あれ、ジェイミーさん

ウェルバニアさんは何処に行ったんすか？

もしかして先回りで拠点潰しに行ってます？｣

｢ああ、それなんだけどね

どうやら覇種共の始祖が復活したらしいんだ

——だから、師匠がひとりで倒しに行ったよ

前線である此処に到達されないように

そして、自分が最も適切だからと評してね｣

｢……それって、つまり｣

｢そうだ、師匠は生き返った後も

死ぬ以前の記憶や経験を保持していた

つまり、再び甦った始祖もまた学習している

ボクは既に1度戦ってしまっている

自分が出せる手札は全て見せてしまったんだ

師匠にすら勝てないボクが、やれる事は無い

だから、彼女はたったひとりで戦いに行った

大丈夫、あの人が負けるはずはない

きっとすぐに合流してくれるさ｣

ボクは、心の底からそう確信していた

だって何故なら彼女は、ボクの師匠なのだから

そこらのぽっと出のカス野郎にやられるものか。

侮るなかれ、ウェルバニア=リィドを

格の違いというものを教えてやるがいいさ

｢残る拠点は2個っす！

ジェイミーさん、よろしくお願いするっす！｣

そうしてボクらは

次なる戦場へ赴くのであった……。

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『ウェルバニア=リィド視点』

不明瞭だ

暗雲が立ち込めてやがる

こんな気持ちになるのは生まれて初めてだぜ

よもや、こうも早く復活しやがるとはな。

俺様としたことが迂闊だったぜ

そして思慮浅かった、反省しなくてはな

一体どうしてその可能性を思い浮かべなかった。

この私からして、1度死んだ後に蘇ったというのに

何故ヤツもそうだと考えなかった？

失態だ、クソボケが

よもや師匠などと良くも言えたもんだ

弟子の考えた作戦を台無しにしかねない様な

とても大きなミスをやらかすとはよ。

アイツの気配を察知した瞬間

思わず怒りで足が止まっちまったよ

この借りは、返さなくてはなるまい。

1歩1歩踏み締めて、俺様はここに戻ってきた

穏やかな気候、静かな空気に大人しい生き物たち

空には常に虹が掛かっており、川の水は澄み渡り

地面に生えてる植物は、半透明な青色をしている。

リスポーン地点は同じだろうと考えたからだ

そしてその考えは、まさしく正解であった。

居やがった

淡い紫色をした、輝く長い髪を靡かせて歩く

見るからに尊大で、横柄な態度をした大男

金と黒の混じった異形の両手足を持ち

およそ温度のある感情を感じられない表情

早い再開だぜ、だがな

もう二度とその顔を拝む事はねぇ

何故ならてめェは個々で消えるからだ。

｢——知って、いる、ぞ｣

ヤツが言葉を話した

以前は使う事が出来なかった言葉を

やはり仮説通り、記憶や経験は保持している様だ。

｢貴様、の、ことを、オレは知って、いる、ぞ｣

ゆらり、とこちらに歩いてくる

｢貴様は、オレを、殺した奴、と

一緒にいた、声のうるせぇ、馬鹿野郎、だ

ノコノコと、わざわざ死にに来た、のか？

よくも、オレを殺し、てくれたな

今度は、貴様の番だ、二度と同じ轍は踏まない｣

俺様は言った

｢そうか、じゃあ死ね｣

言葉と同時に展開される血の槍

ヤツを囲い込むように形成されたソレは

問答無用で射出され、無数に叩き込まれる。

瞬間、視界が真っ白に燃え上がり

目を焼くほどの光と熱量を放ちながら

黒く、黄金に輝く雷鳴が轟いた。

血の槍はが次々と相殺されていく

だろうな、その程度なんて事ねぇだろうよ

爪に血を這わせる

そのままアウトレンジで振り抜く

長大な射程を手にした俺様の爪は

一縷の隙もなく、都合28度の斬撃を繰り出した。

ヤツも同じく、体に電気を纏わせて

迫り来る攻撃をたたき落としていく

後出しでも間に合わせられる程の速度！

侮っていた訳じゃねぇが、やはり

肉体のスペックは向こうのが上だな

……だが、俺様は

ほんの少しだけ、ワザと隙間を作りつつ

誘い込む見え見えの罠として、あえて

敵に見えるように`抜け道`を作っておいた。

パチッ……空中で黒金の雷が弾けた

それはこれまで幾度も見た攻撃の前兆

帯電する空気、雷撃の直前に起きる現象。

掛かった、偽りの綻びに食い付いた

わざと作られた道筋に従って

隙を着いたと攻撃を仕掛けてきた。

故に、俺様は何もしなかった

微動だにせず、なんの反応もせずに

ただ雷撃が放たれる瞬間を待った。

——直後！

眩しく、輝かしく、この目で捉えることすら

難しいであろうエネルギー放射が成され

ソレは真っ直ぐに俺様の方へと迸った。

とても反応できる代物じゃない

俺様は間違いなく食らったことだろう、そう

リンドの野郎が作った避雷針装置がなければ

ベルトのバックルに埋め込まれたその装置は

地上を焼き尽くすほどの強力な威力を誇る

始祖の雷を丸ごと受け止め、無力化した！

｢——！｣

ヤツが動揺する

そして俺様は

何もしなかったことが幸をなし

後の先を取る事に成功した。

ヤツの足元から突き上げる血の槍は

そのまま、両の肩を下から撃ち抜いた

まずは1発、始祖の血をお見舞した。

私の見解が正しければ

始祖相手にも、血の毒は効果を発揮するはずだ。

現に血自体の攻撃は、しっかりダメージとして

奴らの肉体に反映されているのだから

可能性としては充分有り得るだろう。

もし、そうでなければ

また別の方法を探せばいいだけ

プランは事前に幾つも考えてあるぜ。

続けざまに、血を這わせた爪を振り抜く

同時8連撃、腕の無いヤツでは防ぐ手立ては——

｢舐め、るな……！｣

途端、ドーム状に展開される電磁フィールド

放たれた血の刃は全て消し去られる

同時にヤツのフィールドも消える。

その頃には既に肩の傷も再生し

戦況は、見かけ上振り出しに戻ったと言える。

——粒

俺様は、かろうじて目に見える程度の

粒状の血を辺り一帯に展開した。

それはまるで霧吹きで吹いた見てぇな光景で

おぞましいまでに夥しい、真っ赤なベールが

空間を丸ごと覆い尽くし、そして放たれた。

同時に！同じ規模感でヤツも

四方八方に雷撃を放って対応した。

攻撃が分散する

雨粒に雨粒をぶつけて打ち消すような

途方もなく精密で、膨大な脳内処理を

絶え間なく相手に行わせることで

瞬間的にでも、ヤツの意識を防御に集中させた

俺様はベルトの避雷針装置を取り外し

ノーモーションでヤツに向かって放り投げた

凄まじい速度で飛来したソレは

目標とした地点に到達するや否や

俺様の血を叩き落とす為に展開されていた

無数の雷撃を、1箇所に集めて無力化した！

｢なんだと！？｣

と、同時に

俺様は血を這わせたままの爪を

バツを描くようにクロスさせて放ち

ヤツの首と両腕を切り飛ばしに掛かった。

防御に意識を取られたうえに

結界としての役目も果たしていた雷撃が

まるごと取り払われた動揺はデカい

流石の始祖も、それによって生まれた隙を

完璧にカバーしきる事など出来ず

片腕と頭を斜めに、たたっ切られていった。

狙いは僅かに外されたものの

当たりはした、これで2発目だ

オマケに、頭部を傷付けられたことによって

ヤツの動きは、ほんの０コンマ数秒だけ止まった

しかし、それだけあれば充分だ。

今だ空中に展開されたままの血の粒が

操作され、無数に、ヤツの体に降り注いだ

もはや数え切れねェ程に血を食らわせてやった

普通はここで終わりだ

アレだけ始祖の血を叩き込まれれば

どんな生き物だろうと動けなくなるからな。

——だが

弾ける閃光、そして消し飛ばされる血の粒

気が付いた時には目の前にきている始祖の男

目眩し！雷が起動する瞬間の光に隠れて

俺様の傍まで距離を詰めて来やがった！

ウェルバニア=リィドともあろう者が

よもや不意を打たれるとは、それ程の相手か

｢お返し、だ、このボケ野郎が……！｣

今からでは行動を間に合わせられない

ビュンッ！叩き込まれる3発の貫手

その速度は凄まじく、一手遅れた俺様では

後から対応しきれるほど生温くは無かった。

真っ直ぐ突き込まれる、槍の様な

あるいは銃弾、電撃の様な貫手は

完全に不意を打たれた俺様の左胸へ迫り

そして、ギリギリでピタリと止まった

｢——ッ！！？｣

隠せない動揺

ありえない光景に理解が追いつかない

最大の好機を、自分自身で潰したという事実に

`何故だ、何故攻撃が届かない！`

その答えはてめェの身体ン中にある

既にてめェは大量の始祖の血を食らっていた

ソレはほんの少しづつ体内に蓄積し

そして、今この瞬間

ヤツの肉体に作用してほんの僅かに

そう、まさに指先ひとつ分だけ

肉体の精密動作を狂わせたのだ

ここで確実に決める！

という意気込みで放たれた一撃を自ら外した

それによって生まれる、致命的にすぎる隙は

後からカバー出来るものではなく

頼みの綱の雷に関しても

この瞬間に発動させるには遅すぎる

パチッ……と、空中で弾ける火花

見開かれるヤツの目、その瞳には

眼前に迫り来る爪のみが写されており

極限まで引き伸ばされた意識の中で

相対する敵が放った一撃が

自らの頭蓋に食い込み、骨を断ち

思考を司る脳を、滅茶苦茶に破壊していくのを

これでもかと言うほどゆっくりと認識していた。

——ヒュッ

パァァンッ！

俺様の放った一撃により、弾け飛ぶ頭蓋

間髪入れずに爪を振り下ろし、縦に寸断

返す刀で真横に切り裂き、胴体を切断

ようやく頭部が再生するも

敵は手も足も動かすことは出来ず、更には

雷を使う暇もなく、再び首を跳ね飛ばされた

よって生まれた完全なる無防備

このまま心臓を打ち砕くのは簡単だ、しかし

それでは恐らくまた復活されてしまうだろう

解決策は何個か考えてある

しっかりと根拠も存在する

俺様は剥き出しになったヤツの心臓に噛み付き

直接、血を送り込んでいく、大量に、際限なく

無尽蔵に、出来る限りの量を内部に送り込む。

……ウェルバニア=リィドは考えた

たとえ始祖であろうとも、血の毒性は効果がある

効かない様に見えるのは単に、耐性が高いだけで

許容量が

普通の生き物より多いだけなのではないか？と

ヤツの体が再生する

と、同時に反撃が繰り出された

ガンッ！と横っ面を殴り付けられる。

拳を顔面にぶち喰らいながら

血走った目をしているヤツの姿が視界に入る

そこには、2度目の死に対する恐怖が

非常に色濃く、ハッキリと浮かんでいた。

殴られた事で、やや体勢を崩しつつも

放たれた追撃の爪をいなし

逆にヤツの腕を切り飛ばす

そして、気が付いた

ヤツの肉体性能が落ちている！

その事に、どうやらヤツ自身も気が付いたらしい

驚きの表情と共に、明確な焦りを見せ始めた。

爪に血をはわせて切り付ける

避けられる、捌かれてカウンターが来る

しかし、遅い

先程と比べると明らかに遅くなっている

カウンターで繰り出された爪を腕ごと掴む

引き込んで、首を切断しようとした瞬間

ヤツは掴まれた腕を根元から引きちぎり

拘束を抜け、一瞬で再生して攻撃を仕掛けてきた

胸ぐらを捕まえて頭突きを放ち

体勢をグラつかせると共に間合いを潰し

それによって仕掛けられた攻撃が空を切る

頭突きを放った流れのまま

首に噛み付いて、血を送り込むと共に

喉笛を噛みちぎって離脱、反撃が腹を掠る

下がると同時に再び前に詰めて

瞬間5連撃を放った

3発は防がれて、残りの2発が左肩と

右の膝に入る、動きが僅かに鈍った。

負傷した膝を、斜めから蹴り抜いて砕く

蹴った足を掴まれるものの

逆にソレを支えにして足場とし、飛んで

体のど真ん中に膝蹴りを叩き込んでやり

捕まえられた足は根元から切断

着地し、片足で器用に踏み込んで

よろめくヤツの顔面を殴り壊す。

そのまま、先程と同じく

胴体を切り裂き、再生した頭を破壊し

無防備になった心臓に噛み付いて血を送り込む

再生直後の反撃を、今度はバッチリ躱し

それどころかカウンターを合わせて首をへし折り

胸を切り開いて、頭蓋を叩き潰して破壊し

心臓に始祖の血を送り込んでいく

ドクンッ！ドクンッドクンッ！！

再生！また反撃が来る！

——そう思った次の瞬間

ドサッ……！

ヤツは、肉体を再生し終わったにも関わらず

その場に、糸の切れた操り人形のように

膝から崩れ落ちて倒れ、動かなくなった。

｢——｣

目は虚ろで、体はピクリともせず

それでいて意志や感情が全く読み取れず

生きてるか死んでいるかすらも不明瞭。

しばらく警戒していたが

一向に起き上がる気配はおろか

言葉すら、吐息ひとつ聞こえやしないので

行動不能であると断定し、傍らに膝を着き

胸を切り開いて心臓をあらわにし

思いっ切り噛み付いて血を送り込み

自由意志なき眷属へと成れ果てさせていく

こうすることで完全に行動不能となるはずだ

しばらく、そうして血を送り続けていたが

ある時、俺様は確信した

この男は自分の眷属となった事を

始祖から眷属への格下げ、それが成功した

その証拠に

体のどこを切り付けてみても

全く少しも再生しなくなっている

筋肉の密度も著しく低下している

完全に別の生き物に作り変わってしまっている。

上手くいった

やはり許容量というものが存在していた

この状態でも完全に行動不能ではあるのだが

ここは、万全を期すためにコレを使う。

——シャキン

と、懐から1本の短剣を取り出す

ソレはリンドの馬鹿野郎が作りあげた

封印術式が組み込まれた剣だった。

俺様はソイツを、始祖の体に突き刺す

すると、まるで煙になったかのように

倒れ伏していた始祖の姿が掻き消えて

ヤツが倒れていた場所の地面には

真っ白い紋様が浮かびあがるばかりとなった。

｢コイツ自身は死んでねェから復活もしねぇ

そして、俺様の言いなりの眷属になったから

命令を出さない限りは動く事も出来ないし

そもそも封印を打ち破る方法も存在しない

仮にそれらを何とかした所で

始祖から眷属に格下げされた事実は変わらないから

もし復活したとしても、もう一度拘束するのなんざ

まったく訳ねぇ話っつぅこったな

眷属から再び上のランクに上がるには

他の誰かから血を分けて貰う必要がある訳だが

俺様含めた吸血種連中は、てめェに対して

そんな温情を掛けるはずも無い

ならてめェが縋れるのは

同じ種族である覇種だけとなるが、それも

もう間もなくこの世界から絶滅して消える

そして俺様は常にてめェを監視している

僅かでも動く気配があろうものなら

すぐさま駆け付けて、もう一度封印だぜ

眷属の肉体スペックじゃあ

たとえ血や雷を駆使しても俺様には勝てねぇ

完璧な詰みだ、お前は完全に終わったのさ

あばよボケ雑魚が

二度と甦ってくんじゃあねェぜ

また痛い目を見たくなけりゃな？｣

俺様の戦いは、それで終わった……。

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