始祖の戦い方、復讐の為の戦い、そして


『ウェルバニア=リィド視点』


あの雑魚共を狩るのに、小細工は要らねぇ

俺様がやる事は至ってシンプルだ


ジェイミーやその他の吸血種では

決して使えねぇ手段で攻撃を仕掛ける

`始祖`という強みを最大限に活かしてやる。


空、拠点よりはるか上空にて

始祖たるウェルバニア=リィドは血を展開する

俺様の血は特別性だ、生き物として格が違う。


空を覆い尽くす真っ赤な血は

それはまるで降り積もる雪のように


あるいは視界を埋め尽くす豪雨の如く

始祖の血は槍の形を取り、そして

地上の拠点を、余すところなく爆撃していく。


キラキラとご立派だった建物は

まるっきり粉になっちまいやがった

跡形もねェ、当たり前だ、それが俺様だからな。


……降り立つ、そこで目の当たりにする

まるで虫の大軍の様に這いずって

悶え、苦しむ姿を晒す覇種共の姿を。


「ぐ……ぁ……」


「な……ん……だ……?

うご……け、なぃ……」


始祖の血は強力だ、並大抵の生き物が食らえば

それだけで即死しかねない程の力を秘めている

奴らは、そんな劇物をまともに受けた訳だ


そうすりゃあどうなる?その答えは簡単

`身体中を始祖の血に侵され、動けなくなる`


「動けねぇだろ?苦しいだろう?

残念だったな、それがてめェらの不運だ

この世界に生まれちまった、という事実を呪え


あばよクソッタレ共

余計な手間ァ掛けさせんじゃねぇぜ」


そうして俺様は

その場に倒れ伏した雑魚共1000体を

何の抵抗も受けることなく殺し尽くした。


最後のひとりにトドメを刺したあと

首をコキッと鳴らして立ち上がり

この退屈な`墓場`を後にした……。


✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱


『リリィ、リンド、フレデリック、ジーン視点』


「前線あげてあげて!今っす!囲い込むっす!

フレデリックさんは行動不能になった敵を始末!

ジーンさん!黒狼部隊の方はもう大丈夫っすよ!」


敵に聞かれても情報が漏洩しない様に

事前に作りあげておいた言語を用いて

私はひとり、高台の上から指示を飛ばす


状況を把握し、的確な判断下して現場を動かす

どちらかと言うと私は戦力としてよりも

こうして司令塔をやる方が向いている。


直接戦闘の能力だけで見れば

6人の吸血種の中でも下位に位置するからだ

情報屋リリィは戦闘職じゃない

今のように、後方支援に徹するのが最適解。


私たちじゃ

ジェイミーさんみたいには行かないけど

それならば、出来るやり方を探せばいいだけ。


すなわち、集団対集団の多数戦

これまで築き上げてきたパイプを利用して

`奴らに殺られた仲間たちの復讐`という名目で

あらゆる亜人種達の力を借りての大規模戦闘


いくら吸血種と言えど

4vs100を10回繰り返すのは非現実的だ


私達はジェイミーさん程戦闘経験がある訳じゃない

それだけの回数を、人数不利のまま戦い続ければ

万が一という可能性が無いとは言いきれない。


それに、何より問題なのは

仲間がやられる事よりも、敵を取逃すことだ

まとまった箇所に居てくれる今がチャンスなのだ。


あれだけの肉体スペックを持ちながら

逃げる事に徹されたなら非常に厄介な事になる

それを防ぐ為にも、敵に時間を与えてはならない。


各地に点在する覇種の拠点!

それを今夜、我々吸血種がまとめて叩く!


血の匂い、誰かが戦う音、視界の先で争う彼ら

竜人族の3人チームが、風の剣による掃射を行う


巻き込まれ、飛び散る覇種達

空中に飛び上がって無防備になった奴らを

リンドがマシンガンで穴だらけにして戦力を削ぎ

フレデリックが飛び込んでトドメを刺す!


8人で群れを成して、黒狼族が暴れている

リンドから支給された拘束封印装備を片手に

複雑に連携を取りながら、一人一人狩っていく。


彼らはお互い、仲間意識のある種族同士だが

拠点の中でひたすら自己研鑽に励んできた覇種達は

生まれながら`群れ`という体系を持つ黒狼族と比べ

連携力に圧倒的な差がある。


固まられない様に上手いこと分断してやれば

腕力と経験値で勝る黒狼族が負ける道理は無い

血しぶき、飛び散る肉片、切り裂かれる四肢

いずれも敵のもの、優勢なのは我々の勢力だ


しかし


……竜人族の首が空を舞う、黒狼の若者がひとり

攻撃を避け切れずに顔を半分にされて死亡した

ある者は刺し違えて、ある者は仲間を守る為に


こちら側の被害は決してゼロではない

いくら連携力や経験で勝るからといって

それだけで圧勝出来るほど、相手も温くない。


戦い、戦い、戦い

ジーンが積極的に亜人種達のサポートに回る

リンドが突撃して場を掻き乱し

フレデリックが浮いたコマを即座に始末する

竜人族は遠いレンジから風の剣で攻撃を行い

黒狼族が群れを成して孤立した獲物を刈り取る


そして私が戦況を把握し

的確な支持を各所に飛ばして回る

できることなら自分も戦いに行きたいけれど

適材適所、私は司令塔をやる方が向いている。


と、その時


「リリィ!ここは終わった、次に行くぞ!

敵の死体はきっかり100体、全滅させた!」


戦いを終え、血に濡れた姿のリンドが

ジャラジャラと重火器を引っ提げてやってきた

続いてフレデリックも、急いで走って来る


そして報告を述べた


「竜人族1名、黒狼族2名、計3名死亡

1名右手右足を失う重症、1人軽傷!

いずれも前線の黒狼族です!」


「私らの中に治療行為が出来る者は居ないっす

そのための時間も足りない、事前の通達の通り

重傷者は始末するっす、軽傷者はどの程度すか?」


「黒狼族の老人が左手の小指を失った

出血は僕が止めた、本人は問題無いと言ってる

脈拍や呼吸、体運びにも異常は見受けられない」


「次の戦いでは、ほんの少し配置変えをするっす

その辺のことは私が直接伝えておくっす」


「了解」


バッ!と、3人揃って姿が掻き消える

各々、次の戦いまでにこなすべき役目がある


リンドさんは装備の点検及びメンテナンス

フレデリック、ジーンさんは細かい情報伝達

私は全体の作戦、配置についての指示


やる事は山積みっすけれど

まず、やらなくてはいけないのは。


「——う、あぁ……ぁ……」


この、重傷に苦しむ者を切り捨てることだ。


私は、仲間達に見守られている彼の元へ

淡々と歩いて行き、枕元にしゃがみ込み

周りに立っている亜人種達に向かって語りかける。


「……事前にお話した通り、戦闘続行不能の

大怪我を負った場合、我々に治療能力はなく

また、救護の為に使える時間も存在しません


故に、`楽にしてやる`という選択肢しか無い

この場にいる皆は事前に了承して頂けたっすよね」


それは冷たく、残酷で、邪悪な思想であった

要は時間と人名を天秤に掛けた結果

寸分の迷いもなく時間を取ったという事だからだ

協力を募っておきながら、あまりに非情な言い分


人間であれば暴動が起きてもおかしくは無い

さて、この土壇場でどうなるか……


「……リリィさん、我々は」


黒狼族、竜人族の面々は顔を見合わせて

そして、誰からともなく口を開き

その後の決意に満ち溢れた言葉を紡いだ。


「我々は、貴女方にとても感謝しています

あらゆる祝福を下さいました、殆ど無償で

かと言って搾取する事も、使い潰される事もなく

あくまで友好的な関係をこれまで築いて来ました


……ええ、当然悔しくはあります

それでいて救って欲しいと願う気持ちもあります


ですが!


ですが、我々は、この場にいる私たちは皆

自分の命などよりも!失われた家族の為に

愛する者を失くした怒りを晴らすために!


燃えるような復讐心に突き動かされて

奴らに、あのクソッタレなゴミカス共に

この手で`仕返し`が出来るという`欲`に魅入られ

その為の戦いで命を散らすのならば、本望ッ!


我々はその事を了承してここに居ます、

我々は自分の意思で、決して命令された訳でなく

仲間や家族、恋人や友人の仇を討ち果たす為に!


戦っています!

その者の処遇は、どうかお任せ致します

どうか楽にしてあげて下さい


本人も、先程その様に意思表示を行いました

今はもう喋ることが出来ない彼ですが……意志を

最後に残した意志を、尊重してあげてください」


私と、重傷者を見下ろす彼らの眼差しは

一様に強い輝きを宿しており、この戦いにおける

心持ちと言うものを、色濃く反映していた。


もはや言うべきことは何も無い

私は懐から、1本の毒針を取り出した


`救済の一輪`

そう名付けられたこの毒は、対象者に

安らかなる救いの死をもたらすのだ。


「——ァ……ぐ、っ……がぁ……はっ……」


荒い呼吸で、悶え苦しむ黒狼族の若者

放っておけば後数分は苦しむ事になる

慈悲、と言うべきでは無いかもしれないが

それでも私はこの一刺しをくれてやるのだ。


「失礼するっすよ」


首元に、針をプスッ……と突き立てる

毒は即座に全身に回る、タイムラグは存在しない

切っ先が血脈に触れたその瞬間、作用は発生する。


「ぁ……」


それまで苦しみ悶えていた黒狼族の若者は、ひと言

安心したような、解放された様な、小さな声をあげ

大きく目を見開いて、僅かな笑みを浮かべた後で


フッ……と全身から力が抜け

以降、彼の生命力はまるっきり消失した。


「……この気持ちを忘れない、俺たちは

このどうしようもない憎しみを覚えてる

それは次の戦いで役に立つ、もう痛みは充分だ

これ以上、奴らに奪わせてなるものか


……リリィさん、指示を


胸の中に燻る赤熱とした怒りの焔は全て

あの、どうしようもなく残虐で悪辣な生き物達に

全て、これまで受けてきた全てを突っ返してやる


——復讐を、今ここに」


私は、その言葉を背中に聞かせながら

すくっと立ち上がり、振り返ってこう言った。


「いいっすよ、その願い聞き届けました

私達で、時代の濁流に沈めてやりましょう

もう二度と浮き上がり、顔を出せない様に」


そうとだけ言うと、私たちはその場から姿を消した

次なる闘争の為に、次の次なる闘争の為に

まだまだ戦う相手は尽きず、残っているのだから。


敵、残存兵力900

100人規模の拠点が残り9つ


味方、残存兵力96名プラス4人

これだけの戦力で、必ずや

ジェイミーさんから与えられた職務を全うする


見ていてください

情報屋リリィは必ずやり遂げます

2億年以上生きた吸血種のひとりとして

この程度の任務、完璧にこなして見せます。


✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱


『ジェイミー&師匠視点』


1000体の敵を撃滅したボク達は

所定のポイントにて合流を果たしており

お互い、詳しい状況の報告を文書にて行った。


これは、現在作戦遂行中のリリィ達の戦闘相手

優れた聴覚を持つ覇種共に対する対策である

こんな所から情報が漏洩するミスは犯せない。


万全に万全を期していても

作戦というものは失敗するモノだ

不確定要素や不安な部分は排除すべきである。


よって、ボクと

始祖ウェルバニア=リィドこと師匠は

だだっ広い死の瘴気が漂う平原を走っていた。


併走しながら紙に文字を書き

器用に偏差を考えながら紙を投げて

投げ返されては文字を読んでいる。


こんな力技に近い真似ができるのも

ボクらが吸血種である証拠だ

もっとも、師匠に関して言えば最早


`吸血種`という枠組みに収まらない

正真正銘生き物なのだが——


その時


「——ッ!」


不意に、師匠の足が止まった

何事かと思い、ボクも遅れて足を止める

リリィ達への合流を急いでいる今の状況で

`師匠が`足を止めるほどの何かが起こった。


あるいは、コレから起きるか

その事を予知したか、気が付いたか

いずれにせよいいモノでない事は明らかだった。


カリカリカリ……旧人類の遺品であるペンを使い

紙に何やら書き込み、そして

乱暴に、ボクに向かって紙をぶん投げてきた。


それをパシッと捕まえて

カシャカシャと言わせながら開き

そこに書かれていた文字を読む。


そこには


「……っ」


思わず、このジェイミーともあろう者が

動揺を隠せない内容が記されていた

非常に短く、簡潔なその文章には

それだけの威力が込められていたのだ。


曰く


`——覇種共の始祖が復活した`


ボクと師匠で殺したはずの始祖が

この世に再び生を受けた、という報告


ウェルバニア=リィドという女は

この状況で、嘘や憶測を言う奴では無い


で、あるならば

ここに書かれている内容は純然たる事実

……これは、コレは相当マズイことになるぞ。


つーっ……と、出るはずの無い汗が

額から流れ落ちたような気がした。



──────────────────


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