強敵襲来 イジスとジニア


イジス、ジニアと呼ばれた敵と相対する

お互いに間合いの僅か外で構え、睨み合う


動けない、攻撃を仕掛ける隙がない

先に動いた方が不利になるのが目に見えている

だから、たとえラチが明ないとしても。


暗く煮え滾る、憎悪の瞳がよっつ

ボクを真っ向から捉えて離さない

`何としても、目の前の女を殺してやる`

そういう強烈な意志を感じる。


長い長い、気の遠くなる緊張の中で

耐えきれず、最初に動き出したのは

ジニアと呼ばれた覇種の方


予備動作を消し去った踏み込み、そして貫手

まっすぐに、ボクの心臓へと伸びる黒い手


ボクは、ほんの少しだけ後ろに下がった

すり足、薄皮1枚ぶんだけ間合いを外す

服の表面が僅かに切れた。


しかし!最小の動きで躱したにも関わらず

カウンターを入れられる様な隙は晒さなかった!

突き出された前手は既に、元の位置へ戻っている。


下手な動きは出来ない

ボクの左側にもう1人居るからだ

イジスと呼ばれた覇種の男。


こちらの隙を伺って虎視眈々と控えている

実力で言えば恐らく、奴の方が上だろう

ボクは牽制の斬撃を2人へと放った。


シッ——!


横1文字


目を抉るような軌道で放たれたそれは

決して必殺の意志を込めたものでは無かった

`当たらずともよい`という考えの元で繰り出す。


狙い澄ました一撃では無いが故に

攻撃で後隙が生じる事はない


「チィ!」


敵ふたりは半歩下がった

反撃を合わせられず後隙も狙えない

しかし、むざむざと食らう真似は犯せない。


賢明な判断、妥当、正当

放たれた攻撃の間合いを見切る素晴らしい目だ

我ら吸血種の後継機たる所以が現れたと言える。


……だが!


攻撃は、スレスレを通り過ぎる


ボクは、爪の斬撃を振りながら

肩の間接を外して攻撃の間合いを伸ばした!

ギリギリで躱そうとしたが故の大間違いッ!


——ズパッ


「グ……ッ!」


「つぁ……!」


イジスの方は片目を

ジニアの方は両方の眼球を切り裂かれた

真横に振り抜かれた爪は血に濡れている

雫が空中に飛び散る、赤い軌跡となってひた走る。


両目を失ったジニアは後ろに飛び退いた

追撃を防ぐ為だろう、そしてそのまま

入れ替わるようにイジスが前に出てくる。


負ったダメージが再生するまで

ボクの相手を一手に引き受けるつもりだ

奴にはまだ、片目が残っている!


「シュッ!」


いち、に、さん!と連続で繰り出される斬撃

雷も、血も、この場においてはノイズでしかない

信用できるのは己の肉体のみと分かっているのだ

少なくとも、強者同士の戦いであるならば!


1発目を躱して、2発目を叩き落として

3発目にカウンターを合わせて突き込む


イジスの手が、ボクの腕を捕まえようと動くが

速度と反応の差で間に合わず、左肩を貫かれる

奴は半身になって急所を守りに動く


ボクは、追撃に踏み切るフリをして

前足を刈り取るように蹴りを放った。


バチィィンッ!重心の乗った足が弾かれる!

体勢が崩れる、身体が流れて隙が晒される

ここが絶好のチャンスであると、そう見える。


だからあえて行かない

この程度の攻撃で隙を見せる等と

ボクは決して、思ってなどいない。


警戒し1歩下がる

注意深く観察して初動を見極める

そして、見えた!筋肉の収縮が!


イジスは、後ろ足を軸にクルッと回転して

遠心力に任せた斬撃を放った……。


いや、正確にはが正しい

放とうとして、事前に止められたのだッ!


「——っ!?」


ボクは前へ大きく踏み込んで当て身

肩でタックルする様に突っ込んで、行動を止め

そのまま、ガラ空きの背中に爪を振り抜いた!


腰から上を真っ二つに切断されるイジスの体

返す刀でそのまま心臓を狙おうとして

復帰してきたもう1人に邪魔をされた。


ジニアだ!


半分になったイジスの胴体を掴んで引っ張り

死亡離脱の危機から救い上げたのだ!

イジスとジニアの位置が入れ替わる。


「貴様では相手にならん」


挑発のひと言を、奴の顔に向かって吐き捨てる


「ほざいてんじゃないぞ、このバカ娘がッ!」


シュッ!と攻撃が繰り出される

顔に向かって飛んでくる、非常に安易な一撃

腕で受け流して、顔面に拳を突き立てるッ!


顔の骨が陥没し、拳が頭蓋まで到達する

頭部が砕かれる、グラッと男の身体が揺らぐ。


そのまま反対の拳を

ジニアの腰に叩き込んで骨を破壊

頭部が再生した後の、奴の行動を制限した。


直後、頭部が再生する

ギラギラと怒りに燃える目がボクを見下ろす

だが、下半身の自由が効かない!


「それだから、なんだと言うのだ!」


——パチッ


黒金の雷が空中で弾ける、これまで幾度も見た

覇種どもの操る雷の力が、間もなく発現する!

たとえ足が動かなかったとしても!

何か、何かやれる事はあるはずだ!


力を振り絞れ——!


「……そう、思っているのだろう?」


「ッ!?」


弾ける爆雷!けたたましい轟音を鳴り響かせ

目まぐるしく煌めいて炸裂する雷の力!

吸血種の肉体をも容易に引き裂くその能力は

しかし、それはあくまでも`免疫`でしかない


——展開しろ。


ジニアが発動させた雷撃に合わせて

同じ規模で血の力を発現させた、その結果

血も雷も、お互いが別々の免疫物質であるが故に


かち合えば、対消滅を果たす!


「な、なに——っ!?」


何故だ!?雷が発動しない!

……いや、打ち消された!?どうやって!

マズイ、マズイマズイマズイ——ッ!!!


こちら側まで伝わってくる動揺

ジニアは必死に身を捩り、腕を動かし

防御姿勢をとって難を逃れようとするが


もう、遅かった。


ザッ……と、地面に足を付けて踏み込んで

守りの浅くなった心臓に向かって

体を捻り、腰を回し、肩を入れ手首を返し


ボクが出せる最高速度を持って

絶対必殺、渾身の貫手を放った


「ジニアァーーーッ!!」


復帰を果たしたイジスが飛び掛ってきて

邪魔しようとするが、もう間に合わない

死神の鎌は既に、その命を刈り取っていた。


——ズブ


「ぁ……」


防御を、回避を掻い潜り

ジニアの左胸にまっすぐ突き刺さるボクの腕

その奥にある急所を貫き、完全に破壊する。


瞳の奥から光が消え

胸にガッポリと空いた大穴からは

流れるはずのない血が、ドボドボと零れる。


ドサ


そのまま地面に倒れ込むのは

既に物言わぬ骸と化した`ジニアだったモノ`



遅れて、イジスが放った爪の斬撃が

ボクの肩を大きく切り裂いて抜けていく

本来は首を切り飛ばす狙いの物だったが


姿勢を変えることで着弾点をズラした

右腕が使用不可能になるが、安いモノだ。


「——」


ドロドロと沸き立つ憎しみの炎が

イジスの瞳の奥では静かに青く揺れている

その目に移るのはボクだけ、ボクという仇

討ち果たすべき相手、身を焦がす程の復讐


正確無比な軌道を描いて4発

瞬きをする間に放たれた異常な速度の斬撃

3発をいなし、残りの1発をおでこに食らう。


ビーッ!と額にまっすぐ亀裂が走る

あと少し傷が深ければ、ボクは意識を失っていた

1歩、2歩と下がって間合いをキープする


完璧に理性が失われたかのように見えたイジスは

戦闘訓練の賜物か、元の戦闘センスによるものか

それ以上の深追いをする事は無かった。


しばらく、お互い見合った状態が続き

ボクが1発、牽制の点による突きを放った

イジスはそれを手で受けて急所を守る。


2発、3発と牽制を繰り返す

その全てに、イジスは丁寧に反応する

少しフェイントを交えての2発目

それまでとはタイミングを変えての3発目……


その時


イジスの身体に筋肉の急激な収縮を見た

合わせに来たッ!しかしタイミングが合わない!

奴の拳が空を切る、ボクはそこに攻撃を合わせる。


0から100へのロケットスタート

下から上へ、腕だけで斜めに切り上げる

イジスの片腕が宙を舞った。


「っ……!」


奴の顔が歪む、追撃を警戒する素振りを見せつつ

後ろに1歩下がって距離を取った、ボクはそこへ

下がり際の足元に1発斬撃を放っておく。


当たる軌道を描いて放たれたソレは

半ば嫌がらせに近いようなモノではあるが

みすみす切られる訳にも行かないイジスは

ヒョイと、足を退けることで対応した。


——だが、それが良くなかった


ボクはその時、同時に片手を背中に回し

腰の裏のホルスターから銃を抜いていた

後ろに手を回したまま、背中を支えに銃を構える

その状態で狙いをつけ、ほんの少しの姿勢移動で


僅かに体を半身にならせる事で

自分で塞がれていた射線が通る


「——ッ!!」


気が付いた時にはもう遅いッ!

ボクは躊躇せず引き金を引いた

隙を付いて撃ち込まれた弾丸は見事に命中し

再生した片腕諸共、胸から上を消し飛ばした。


ボクは銃を、空中へ投げ捨てるよう手を離して

無防備になった奴の腰から下を

前へ踏み込むのと同時に切断!


ボクはそのまま構えを取る

狙うは心臓!未だ到達し得ない命の灯火!


その時


吹き飛ばされ、失ったはずの上半身が再生した

いや!正確には片腕と頭部の治療を最優先にし

それ以外はわざと遅らされていた。


完璧な治癒よりもッ!

この場における防御を優先したッ!

並外れた戦闘センスが為せる技だ。


「お前なんかに取らせてたまるかッ!」


奴は、再生したばかりの片腕を振るって

ボクの攻撃に、後から合わせようとしてくる

そのあまりの対応力の高さは驚きを隠せない

これ程の戦いを見せる相手はそう居ない。


だからボクは血の力を展開して、空中に投げた銃を

狙いをつけ、射撃を行った。


バァァァァンッ!!

44mm口径の弾がモロに命中する

真っ向からアカヅメの銃撃を食らったイジスは

人の形を失って四散した、最早打つ手立ては無い。


肉片が、宙に花を咲かせる

真っ赤なお花、手向けのフラワーだ。


ボクは大きく踏み込み、何の抵抗も受ける事なく

この場における最後の生存者を、容赦なく殺害した

自分の手に返ってくる、生々しくも暖かい感触


これまで幾度も味わった

心臓を打ち砕き、命を終わらせた時に

手の中に残る余韻、戦いの終結を合図するモノ


総勢1000体の覇種の討伐、および

敵拠点の完全破壊、これにて任務は終了した。


「悪いが駆除させてもらうよ

お前たちはボクら吸血種にとって邪魔に過ぎる

産まれたばかりで申し訳ないが、絶滅してくれ」


戦いの跡地に、散らばった残骸に

ボクはそのように吐き捨てるのであった。



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