本拠地襲撃 1vs1000


ただでさえ感覚が鋭い相手に対して

本拠地での隠密作戦など出来るわけもない

秘密裏に頭数を減らす作戦はあまりに非現実的


故に、ボクは真正面から

奴らの拠点に乗り込むことにした。


ダッ!


雪山の地面の上を跳ねて回るボクの足

2度、3度と踏み込みを行い加速をかける

冷たい白い風が、頬を撫で服の裾を凍らせる


-100℃を優に下回る極寒の環境

通常の生き物は決して生きられない死の雪山

そこに、奴らの拠点のひとつが存在する。


元は他の種族が建てて使っていたものを

数多の血を流して略奪、そして自らの物とした


彼らは今も、拠点内部で訓練を重ねており

外で雑魚狩りをしていた小隊の連中よりも

遥かに強いであろうことが予測されている。


——そんな、中に


ダン!


足が地面に着くと氷の結晶がチラつく

立ち並ぶ木々に振り積もった雪が宙を舞う

直後、ボクの身体は更なる加速の世界へ突入する。


——吸血種ジェイミーは真正面から突撃する


両の手を、爪の先まで真っ直ぐのばし

全ての指をピッタリとくっつける

姿勢を低くして、脇を閉めて、肘を曲げて


——鋭く重く、強く構えて


眼前に迫る蒼銀の城壁に向かって

立ち塞がる全てを破砕する爪の一撃を

ただただ真っ直ぐに、叩き付けたッ!


ドォォォォォン……ッ!


爆裂、そう形容するのが最も正しいか

城壁は全壊、真っ二つになって散った

ガラガラと音を建てて崩れていく。


やり方は少々ド派手だが無事、建物内部に侵入

そのまま壁をぶち破って突き進む

目指すは中央、空からも見える大きな修練所!


叩きつける拳、砕け散る壁、弾ける瓦礫

障害物を排除し、ひたすら真っ直ぐ進んだボクは


叩き壊した壁の向こう側で

戦闘訓練を行っている1000体の覇種の姿を見た


彼らは既に戦闘態勢を整えており

拠点に侵入してきた愚か者を迎撃する為に

一斉に連携を取って襲いかかろうとしていた。


黒い雷がパチパチと弾ける


爪を鳴らし、牙を剥き出し

飛び込んできた獲物を貪り食おうと

ギラついた目をこちらに向け、飛び掛ってくる。


奴らのうちの1人が、振り上げた腕を

ボクに向かって叩き付けようとした


——その時


突如、上空から熱波が降り注いだ。


ジュッ!見渡す限りの全てが蒸発した

敵、建物、床、木、土、大気、最後に視界

ソレの襲来を事前に感知出来た者は居ない


そう、ボク以外は


突入から時間差での攻撃指示を

3つ首の白龍シルルア=シィリスへと通達していた

このジェイミーただ1人を置いて、他にッ!


ボクは!彼女が空から攻撃を仕掛ける直前

全身を、まるで鎧のように血の力で覆い

暴れ狂う龍王の権能から逃れた。


吸血種の血は熱を通さない

外刺激の尽くを跳ね返す究極の免疫体なれば


たとえ

生き物を一瞬で蒸発させうる熱波であっても

防ぎきれない道理は、無い!


覇種の連中は、降り注ぐ膨大な熱量により

その強靭かつ逸脱的な肉体を消失させられた

たった1箇所、心臓だけを空中に残して。


確かに強大な攻撃だった、しかし

このままでは奴らは決して死ぬ事は無い

すぐさま復活し、報復に打って出るだろう。


故に!


——ザンッ


ボクは爪を振り抜き

剥き出しになった奴らの心臓を

次々と切り裂き、屠っていった。


速度だっ!今重要なのは速度だ!

制度や精密さはこの際どうでもいい

より早く、より多くの心臓を打ち砕け!


今の状況がいつまでも続くとは思えない

奴らは学習する生き物だ、うかうかしていると

白龍の放った脈動熱蒸発に対する対応策を

見付けられてしまうかもしれない!


ブンッ!


爪のひと振りで数多の臓物が分断される

血を撒き散らし、その命を終わらせていく

貫いて、砕いて、壊して、切って、潰して


頭の中の処理能力を最大まで引き上げる


一体どのように動けば

自身の肉体スペックで出せる最大の戦果を

現実の物と出来るのかリアルタイムで計算し


実行、結果、再計算

実行、成果、再計算を繰り返す


認識するよりも早く行動し

攻撃を振り終わるよりも前に

既に次の目標に対する足運びを行い

数百と、この手で命を刈り取っていく。



半ば作業のような気分でそれを続けていたボクは

ある時、状況が変化した事を肌で感じ取り

いちど殺戮の手を止め、状況把握に務めた。


そして、分かった

という事が。


ボクがやったのと同じ手法を用いて

自身の血を全身に纏い、血の鎧とする事で

ソラから降り注ぐ熱波を防いだのだ。


ここらが潮時か

元からコレで全員倒せる、などと

甘い考えで作戦を組んではいない


まずは頭数を減らすのを優先したまで

奇襲からの不意打ちで無理やり突破口を開く

敵の数はだいぶ減ったはずだ。


1度、攻撃はここでやめる

白龍の方もそろそろ離脱する時間だ

有利を取れる状況でないのであれば

下手に仕掛けに行くべきではない。


場を仕切り直す、周囲を最大限警戒した上で

決して自分からは攻めに行かない。


予定した攻撃終了時刻まで3、2、1……


全身に降り掛かっていた圧力がフッと消える

空の上から熱波を放っていた白龍は

事前に伝えていた作戦の通り、離脱した。


と、同時に

眩い光に包まれていた視界が晴れる


再び世界が色を取り戻した時には既に

建物も、雪や木さえも、まるっきり姿を消しており

この場において形を残しているのは


ボクと、ボクの視線の先に佇む10の人影

脈動熱蒸発を掻い潜って生き残った真の強者

真っ赤な血の鎧に身を包み、それぞれ距離を取って

近付く者を撃ち落とす、迎撃の構えで立っている。


奇襲により、990体は倒すことが出来た

人数不利であることに変わりは無いけれど

当初の1vs1000を考えると大分マシになった。


ここからが正念場だ……!


「——やって、くれるじゃないですか」


ザッ……と、奴らのうちのひとりが前へ出る

粗雑な振る舞いとは裏腹に、その者には隙が無い

不意打ちを仕掛けられそうな綻びは何処にもない。


「打ち合わせ通りにやるぞ」


「よくもアタシたちの仲間をッ!

今際の際に悔やんでも、もう遅いわよッ!」


「油断しないでねお兄ちゃん、コイツ相当強いよ」


「はっはー!おあつらえ向きだぜ!

これより蹂躙開始ィィィィィィーーーッ!」


各々が、これから始まる戦闘に対して

意気込みを表明している中で

ボクはこの様に告げるのだった。


「大変賑やかで結構だがね

諸君らは足元に気を付けた方がいい」


「はっ!そんな見え見えの意識誘導に

どこのどいつが引っ掛かるんだよ、マヌケッ!

すぐに吠え面かかしてや——っ!?」


彼らの足元から、まるで地面の下を

ドリルで掘り進めているかのような音が鳴る

余裕ぶっていた彼は、それにより言葉に詰まった。


作戦はとうに決行されている!

ボクは既に、足の裏から地面に血を忍ばせていた

そしてアイツらの真下で槍を展開し、音を立てた。


「不意打ちか……!」


敵がなにか行動を起こす前に

ボクは腰の裏のホルスターから銃を抜き

狙いを定めて、引き金を絞り射撃した。


——カチンッ、バァァァンッ!


銃身内部で巻き起こる火薬の炸裂

膨大なエネルギー量を秘めた弾丸が射出される


その1発は、打ち出されるのを見てから

対応を間に合わせられるほど生温い物ではなく

容易に、1人の頭部を破壊する事に成功した。


だが、まだだ!

ボクはそのまま、続けて3回トリガーを引いた

2発3発と弾丸が飛び、同様に敵の頭部を破壊した。


未知の攻撃に、奴らは対応できなかった!


「……野郎、そうはさせねェ!」


`このままトドメを刺すつもりだ!`


と、ボクの行動を予測した彼らは

味方を守る班と、攻撃を仕掛ける班に別れる

頭部を失って無防備な姿を晒している仲間を

ボクに刈り取られない為に。


素晴らしい連携だよ、けどね

キミたちが警戒しなきゃいけないのは

目の前に見える驚異だけではないんだよ。


——血の力が起動する


意識誘導の捨て駒に使った様に思われた

地面の下に潜り込ませていたボクの血液


それは今、形を持って現界し

主の名を受けて、土の中から姿を現した!


「しまっ——」


攻撃班として突撃を仕掛けてきた3人と

味方を守ろうと動いた防衛班4人が

天高く伸びた血の壁によって分断される。


「だからどうしたァーーーッ!」


`構うものか!現状でも3vs1なんだ!

味方と連携すれば何も恐れることはない!`と

雄叫びを上げながら突き進んでくる、覇種3人


ボクは再び銃を構えて狙いを付ける、すると敵は

`もう二度と食らってたまるか`と言わんばかりに

左右に向かって鋭いステップを踏み出した。


これだけ早く動き回る敵相手に

狙いを付けて射撃することは不可能


しかし、今から銃から近接に切り替えた所で

体勢が整う頃にはもう、攻撃は完了している

安易な考えによって己の首を締めたのだ!


……と、奴らは思っているだろう


しかし、ボクはあえて引き金を引いた

打ち出される弾丸、だがそれは掠りもしない


血迷ったのか?

最後の無意味な悪あがきなのか?

……いいや、いいや全く違うさ!


今、血の力は発動するッ!

弾丸に纏わせていた血液が形を成して

ボクの全身にグルグルと巻き付いた!


音速を軽々と超える速度で飛ぶ弾丸に

切れない鎖で繋がれたボクの体は

まるで煙のように掻き消えた様に見えた事だろう。


ヒュン……ッ!


捉えることなど不可能だ、何故なら

奴らはこの銃が放った弾丸を防げなかったからだ

動体視力で追い付くことはまず不可能!


そう、事前に`そうする`ことを知っていた

ボク以外の者にとっては——ッ!


飛んだ先はまさに、ボクが形成した血の壁の方向

主人である吸血種でなければ決して破壊できず

また、形を変えることすら不可能である血の力



だからボクはと、そう命じたんだ

頂点が見えぬほど高く形成された血の壁は

突如、まるで玄関の扉が開け放たれる様に

向こう側へ通じる`穴`を生じさせた。


途端!露わになる向こう側の景色!


目の前に立ち塞がる障害物を

なんとかしようと奮闘している7人の姿を


ボクは、極限まで引き上げられた動体視力によって

敵の姿をほんのわずか、ほんの一瞬だけ捉えた。


しかし、奴らにとってはあまりに突然のこと

高い壁に区切られた事による場外感

味方が3人も向かったのだから大丈夫だろう

という無意識下よりやってくる油断、安心感


認識出来ないタイミングで

認識できない速度で飛来した危険生物

彼らに、打つ手など残されてはいなかった。


行動が遅れ、実質的に無防備な敵を相手に

すれ違いざまに7発、超高速で繰り出す事など

コップに並々の水を飲み干すよりも簡単であり


ヒュッ……!

重なり合った風切り音の後

7箇所から吹き出す真っ赤な血しぶき


あるものは身を捩り、急所を外そうとし

あるものは遅すぎるカウンターを繰り出し

あるものは何の反応も出来ずに心臓を穿たれた。


すれ違いざまの7連撃は、物の見事に命中し

強大にすぎる7つの命を終わらせた。


ダァァンッ!という轟音を響き渡らせながら

始末を終えたばかりのボクが、地上に降り立つ


ゆらり、と立ち上がる

だらん、と垂れたその腕からは

ポタ……ポタ……と、赤い水滴が落ちている。


後ろを振り向く、見下すかのような顔をして

7人の同胞を失った哀れな者たちに振り返る。


「——おい」


底冷えのするような声がした

目の前で仲間を殺された彼らは

嘲るようなボクの表情に我慢ならなかったのだ。


故に


故にボクはこう言ってやった。


「弱く、価値のないゴミクズが

その名よろしく、汚れた肉塊と化した

早く処理をしてやらないとな?

美しい雪山の景観が損なわれてしまう


それとも、そこに打ち捨てたまま

腐るまで眺めているのがキミらの言う`仲間`

であると言うのかな?うん?」


直後、空気が痺れた


「——ガァァァァァァァァッッッ!!!」


獰猛な咆哮!衝撃波を産むほどの怒りの衝動

戦略も、知恵も理性も、何もかもをかなぐり捨て

本能の赴くまま突貫してくる敵のひとり


他の2人は僅かに反応が遅れるも

突き進む仲間をサポートしようと前に踏み出す


だからボクは、背中に隠していた銃

アカヅメを腰の位置に構え、そして3発射撃した。


「——ッ!」


遅れて突っ込んできた後ろのふたりは

ボクが銃を構えるのを見て咄嗟に回避に移った


だが、しかし


理性を失って突っ込んできたソイツは

迫り来る破壊の嵐に対応する事が出来ず

血が登った頭ごと、上半身を粉々に吹き飛ばされ


そして、慣性により

頭部を失いだらんとしたままの体勢で

ボクの方へ真っ直ぐと飛び込んできて


ザク……と

急所である心臓を破壊されて死亡した。


「……クソバカが!何をやってるんですかっ!?

既に2度も、使われるのを見たじゃないですか!

どうして……どうして、避けなかったんだッ!」


「落ち着くんだジニア、落ち着け

今は目の前のコイツを殺す事を考えるんだ」


「……分かってます、分かりましたよイジス

もう、たった2人になってしまいましたがね


ええ、イジスは待っていて下さいよ

私がすぐに、このいけ好かないクソ女を

——てめぇ、バラバラに解体してやるからよ」


殺意、憎悪!

煮えたぎるような怒りに身を焼かれ

敵から向けられる邪悪な視線が心地いい。


腰を落として構える

じりじりと、にじりよってくる敵

まだ僅かに、互いの間合いの外だ。


「早く仲間の元へ連れて行ってあげよう

ただし、片道切符の地獄直行便だがね?」


──────────────────


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