世界最強の龍王 白龍 シルルア=シィリス
洞穴に帰還したのはボクと師匠が一番乗りだった
皆が到着するまでの間に、やれる事をやっておく
それは次の任務、敵拠点襲撃プランを見直す事だ。
人員配置や協力体制、敵の行動予測
敵戦力の確認、優先順位の最終チェック等々
他の4人が戻ってくるまでの間に
相談が必要となる場所は後回しにしつつ
突き詰めておける所は突き詰めておく。
そうして作業を続けていると
リンドとフレデリックらが帰ってきた。
「ジェイミー、ウェルバニア、完了だ!
敵小隊500、間違いなく壊滅させたよ」
自信満々な笑顔を浮かべて報告するリンド
その後ろからフレデリックが姿を表す。
「そうか!よくやったリンド!フレデリック!」
ボクは精一杯の労いの言葉をくれてやる
後で何か気の利いた褒美をくれてやろう
今はとりあえず、形のない言の葉で我慢してくれ。
「おうさっ」
「ジェイミーさんとの訓練の方が……もっと
あんな奴らより、もっとずっと勝ち目が無かった
……油断していたよ、彼らはまだ赤子だ」
士気の方は大丈夫そうだな
彼女らの様子を見るに苦戦はしなかったらしい
次世代の吸血種とも呼べる強敵相手に2対7をしても
勝てるだけの成長をしてくれたのだ。
戦い方を教えた身としては
これほどに嬉しい事はない。
作戦開始から30分が経過した時点で
敵勢力1万のうち7000の排除が成功した
行動を予測し、先手必勝で仕掛けた甲斐があった。
「リンド、そこに避雷針装置を置いてある
そいつに何度も助けられたよ、整備をよろしくね
そうそう、戦っててキミ達
敵に対して何か気付いた事とかあるかい?」
事前に得ていた情報と相違点は無いか?
実際に接敵してみて見えたことは無いか
その辺は個人の感覚ではあるが
意見としては貴重かつ大切なモノなので
もしあれば、是非とも聞かせてもらいたい。
すると、まずフレデリックが述べた。
「奴ら、だいぶ性能を持て余してるよ
力の使い方や体の動かし方も未熟だった
圧倒的な経験不足が全ての足を引っ張っている」
次にリンド
「小隊を組んでいるとはいえ
目立った連携は見られなかったね
`ただ7人そこに居るだけ`って感じがした」
奴ら覇種がこの世界に成立してから
まだ1日も経ってないのだから
勝手調整が上手くいってないのは当然だが
懸念点であった`成長速度`については
それ程に逸脱した物では無い可能性が出てきた
個体差はあるのかもしれないが、しかしこれで
`早期に仕掛ける`という判断の正しさが証明された。
と、リンドが補足を加えた
「ただ、全員がそうだった訳じゃない
ごく稀にではあるけど、妙に連携の取れた小隊
あるいは、妙に強い個体が居る事はあった
倒した3500体のうち
1000体はそういうのが混ざってた」
「こっちの3500体の中にも1200体ぐらいは居た
……随分割合が高いな、これは中々に厄介だぞ」
両者合わせて2200体が逸脱個体であるとすれば
少なく見積ってもあと800は
その手の輩が残っている事になる。
悪い事に、これから仕掛けるのは拠点襲撃作戦だ
1000人規模の拠点が2つ、100人規模の拠点が10個
合計3000体の敵勢力を6人で刈り取る必要がある。
それで何より問題なのは
リリィから得た重要な情報だ
拠点に残っている覇種の連中は、どうやら
味方同士で戦闘訓練を行っているそうなのだ
つまり、ボクらが倒した7000体とは
比べ物にならない程に強いって事だ。
ただでさえ基礎スペックが上がってるうえに
逸脱個体が最低でも800は居るとなると
戦力の分布が、些か難しいことになってくる。
と、その時
「遅くなったっす!リリィとジーン
ただいま任務を終えて帰還致しましたっす!」
「ごめん、手間取っちゃった!」
待ち人が帰ってきてくれた
これにて6人全員が拠点に集結した
これで作戦を次の段階に進められる。
「お疲れ様、帰ってきて早々で悪いがリリィ
頼んだモノはどうなった?上手くいったか?」
「はい、ジーンさんの協力もあって
非常に円滑に交渉することが出来ました
黒狼族の中から50、竜人族の中から50
一族の中での最強戦力を預けて頂きまし
合計で100体、精鋭部隊を集められたっす」
黒狼族と竜人族は、この世界の生き物の中でも
最上位に位置する`強い生命体`だ、その彼らの中から
最も優れた戦士を50選出して連れて帰る。
リリィとジーンに与えた任務のひとつだ
ちなみに、数が少ない理由はきちんとある
「という事だ、リンド」
「おう!任せておきな!
避雷針装置と拘束封印装備のセットを100
そいつらの為に作りゃ良いんだろ?」
避雷針装置は、覇種どもが扱う雷を避ける為の物だ
目玉は後者、`拘束封印装備`の方であった。
「かつて人間どもが
ジェイミーら吸血種に対して使った封印術式
`殺せない相手を如何にして倒すか?`という
途方もない無理難題に対する人類の答え
すなわち`封印`、その技術を流用して
あたしなりに改良を加えつつ
覇種の連中用にチューニングした封印術式を
あたし特性の武器に付与して分配する!
そうすりゃあ
不死を殺せない黒狼族や竜人族でも
奴らに対する対抗策が取れるって寸法だ」
そうだ、戦力をたった100しか補充しなかったのは
それらの装備を作るのが、リンド1人であるからだ
正確にはフレデリックやジーンも
その手の装備開発、生産には携われるのだが
主軸となるのはやはり、リンドであるので
何千、何万と協力を募る事は出来るが
そうなると、リンドの生産が追いつかない
いくら天才と言えど、いくら吸血種といえど
キャパというものは存在する。
それに
新しい装備を使いこなす為の訓練も必要になるし
あまり兵力を集め過ぎても、扱い切れないのだ。
故にボクは
`一族の中で最強の戦士を50`
という条件を出して、黒狼族と竜人族から
追加の戦力を集めたというわけだ。
なにせ彼らでは、覇種を殺せないからね
ボクら吸血種の肉隊を用いてのみ、奴らを殺せる
そうなると、トドメをさす手段のない彼らでは
不死身の相手に消耗戦を強いられる羽目になる
いたずらに死者を増やすだけだ。
そんな非効率的な戦法は取っていられない
……という理由があっての交渉であった。
「じゃあ、あたしは早速生産に取り掛かるよ
一人一人にオーダーメイドする必要があるからね
リリィ!ジーン!使い手の所に案内しな!」
文字通り、山のような素材や道具を
血の力で作った風呂敷の中に包み込んで
洞穴から飛び出し、消えていくリンド。
「もちろんっす!じゃあジェイミーさん
ウェルバニアさん、後はよろしく頼むっす!」
ブンブンと手を大きく振りながら
リンドの後に続くリリィ
「フレデリックーっ!行くよーっ!
ふたりでリンドさんを手伝わなきゃ!」
出口の壁に手を着いたまま
フレデリックを待っているジーン。
「分かった」
名前を呼ばれた彼はそう返事し
駆け出そうとして、その場でクルッと振り返り
ボクら2人の方を見てこう言った。
「……じゃあ、ジェイミーさん
そしてウェルバニア=リィドさん
僕らは僕らのやるべき事をやってきます
2000体の方、よろしくお願いします」
深い深いお辞儀をしたあと
ジーンの手を取って虚空に消えていくフレデリック
後は——
「んじゃ、俺様もそろそろ出るぜ」
あとは、ボクらだ。
「何か小言を言われるかとも思ったが
案外、大人しく従ってくれるんだね」
思ったよりダメ出しも少なかったし
今回の作戦は殆どボクが立案したものだ
師匠にしては、比較的珍しい態度と言える。
「100人規模の拠点10個
それを、黒狼族と竜人族の助けを得て
専用の対策装備を持たせて襲撃を行う
ただし、装備生産や使用訓練
作戦内容の周知の為の時間があるから
それが終わるまでの間で
1000人規模の拠点2つを俺様とてめぇで
それぞれ1拠点づつ担当し、壊滅させる
すなわち1対1000
敵のいちばん大きな戦力を削り取ったうえで
亜人種共に復讐の機会を与えつつ残党を狩る
いい作戦じゃねぇか、文句のつけ所がねぇよ」
この師匠を持ってして
そこまでの評価を下されるとは
非常に稀有なパターンに驚いていると
「唯一の懸念点はてめぇが負う負担だな」
表情からは伺えないが、間違いなく
ボクの身を案じての発言があった。
彼女の意外な言動に対するリアクションを
取ろうとした瞬間、師匠が更なる行動を起こした。
「俺様は良い、1000だろうが2000だろうがな
だが、てめぇは俺様ほど強くはねぇ
……だから……つまり……なんつーか
……し……死ぬんじゃねぇぞ……っ!」
顔を赤くしながらそっぽを向き
腕を組んで声を張り上げて誤魔化す師匠
なんとも可愛らしい姿に、思わず笑みが零れる。
そんな彼女に
ボクはこのように答えるのだった。
「……あ、ありがとう……師匠……」
だって、そんなこと突然言われたら
流石のボクだって、照れるんだぞぅ……。
「…………会いに行くんだろ、早く行け」
と、言いながら
洞穴の外にカッ飛んで行くウェルバニア
去り際に見えた横顔は耳まで真っ赤だった。
「……だね、じゃあ、行ってくるよ師匠
龍王の所に協力支援要請をしにね——」
続いてボクも、外に飛び出すのであった。
✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱
`何が起きているかは、把握していますよ`
という視線を3方向から送ってくるのは
世界最強の龍種、3つ首の白龍であった。
「単刀直入に行こう
貸していた借りを返して欲しいんだ
具体的に言えばキミの協力が欲しい」
`戦力として、ですね`
「如何にも」
バサバサと周囲を飛び回る龍種の面々
黄金龍ギーツヴァルクくんの姿も見られる
彼は`何をしに来たんだ?`という困惑の表情を
ボクに対して向けてきている。
`私個人の協力を得たい……そういう事ですね`
「キミが世界最強の龍である所以
`脈動熱蒸発`の力を貸してほしいんだ
半径10km圏内を`蒸発`させ続ける
という龍王の力を、ボクの為に振るってほしい」
通常、龍種は火を噴く
それをこの白龍は、さながら異能力の様に
あるいは神の権能の様に`熱`を司る力がある。
炎ではなく、熱そのものを操り
範囲内の生物に対して無差別で効果を発揮し
存在の余韻すら残さず、丸ごと消滅させる
ボクが1000体の覇種を殺すには
彼女の協力が必要不可欠であった。
しかし
`……私は、ここから動けません
故に、借りを返す事は出来ません`
そう来ることは分かっていた
`ここから動けない`というのは言葉通りの意味で
彼女は龍種の王だ、それ故に
白龍が自ら巣の外に出ると
それに付随して他の龍種も着いてきてしまうのだ
習性と呼ぶべきか、彼らには王が必要なんだ。
もし、自分達が近くに居れば
白龍の脈動熱蒸発に巻き込まれて死ぬとしても
傍を離れる訳には行かないのだ。
「キミや、キミ達の事情は分かっている
だからこそボクは、ここに来たんだ」
`一体何を……`
「——龍種諸君っ!」
龍種達の視線が一点に集まる
さあ、勝負の時だ。
「今この世界には、新たな驚異が君臨している
彼らは吸血種よりも優れた肉体性能を持ち
好戦的に、冒涜的に生き物を蹂躙している
今はまだ、奴らの関心は空に無い
しかし!やがてキミ達も標的になる!
キミや、キミの家族、友人、恋人
そしてキミらが慕う賢き王までもが
下劣なカス共の標的となるだろう!
王は民を守る者であり
キミたちは王を支える柱であるが
しかし、しかしだ
この中にボクに勝てる者は居るか?
この中に白龍に勝てる者は居るか?
居ない、誰一人として存在しない
このままではキミ達は役立たずだ
何も出来ないままに滅びるしかない
……でも
もし、この偉大なる龍王が動けたなら
キミ達を守る為に動く事が出来たなら
奴らなど恐るるに足らん
決断の時だ!
王に付き従うのが民なれば
それを守ろうという気持ちも分かる
だが!王とて民を守るのだ!
キミ達の明日を守る為に戦うのだ!
英断の時間だッ!賢き龍種たちよ!
世界最強の白龍が出陣するその瞬間を
勝ち戦に赴くその勇姿を見届けるのだ!
王なき後をキミらが守れ!
そして待ち望むがいい、王の凱旋を
勝利の咆哮を上げるその瞬間をッ!
たった今
敵の敗北は決定した——!」
轟くのは龍の息吹、咆哮、空に打ち上がる炎の軌跡
鼓舞され立ち上がり、決意を固めた彼らは
その目に宿す強い光、自らが吐き出すものよりも
ずっと尊く、そして輝く炎を携えている。
その光景を眺めたあとで
3つ首の白龍の方に向き直り
「さて、借りを返せないと言うのなら仕方ない
やる事があるのでね、これで失礼させて貰うよ」
と、言い放つ。
`……この状況で出陣を渋れば
私の王としての威厳が地の底に失墜します
民草を煽っておきながら、その言い草……
協力せざるを得ないではないですか
なんて邪悪な顔……貴女は恐ろしい方です`
「なんの事だか分からないな」
`——いいでしょう`
バサッ!
純白に煌めく白龍の翼が広げられる
風圧によって髪や服がバタバタと煽られる
多分わざとだ、仕返しのつもりなのだろう。
小石が額にぺしぺしと当たる
そこから彼女の気持ちが、よく伝わってくる。
「じゃあ作戦を伝えるよ、シルルア=シィリス」
`そ、その名前は一体なんですか……?
「かっこう良いだろう?
プレゼントさせて頂きたくてね」
`は、はぁ……`
✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱
彼女に作戦を伝え終えたのち
ボクは龍種の巣を飛び出して地上を行き
背後で白龍が天高く飛び立った
後に続く者は誰一人としておらず
民草は王を信じ、巣を守る判断を下した。
拠点襲撃作戦、決行である——。
──────────────────
面白かったら
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