行動開始 敵小隊壊滅作戦
『ジェイミー&ウェルバニア視点』
ズブッ……
ボクの右手が敵の体内に侵入する
これまで何の苦労も無く生きてきた彼らは
自分が襲われる事など考えても居ない。
それ故に、優れた知覚を持ちながら
気配を殺しながら近付いてきたボクに気付けず
覇種の男は心臓を破壊され、絶命した。
——襲撃
殺戮に明け暮れる覇種の小隊に対し
事前に得た彼らの巡回ルートに則って
行動を読み、索敵強襲からの一撃必殺。
もっとも隙を晒していた1人に
背中から貫手をお見舞してやったのだ。
小隊は7人から構成されている、残りは6人
そして彼らは、鼻先に香る血の匂いによって
味方が襲われたことを知る。
殺戮の手を止めて振り返る彼ら
ある者はボクを視認するよりも前に走り出し
ある者は即座に雷の力を展開しにかかった。
仲間を殺した者に復讐を!
敵はたった独りだ!殺れ!
そういう念がここまで伝わってくるが
……しかし、その考えは浅はかである。
6人の視線がボクに注がれる、拳を振り上げ
黒金の雷を光らせる、獲物を抹殺する為に。
故に彼らは
ソレに気付く事が出来なかった。
6人全員が一斉に振り返り、そして生まれた死角
背後、森の木々の隙間から覗く深紅の眼光
光は空中に赤い軌跡を残し、瞬く間に煌めいた。
直後
夜の闇、青白い月明かりに照らされて
赤く赤く、どこまでも赤い命の名残が宙に舞った
ボクによって視線、意識誘導を掛けられた彼らは
背後に迫った、より大きな驚異を見逃したのだ。
脅威の名は、ウェルバニア=リィド
吸血種の始祖、ウェルバニア=リィド
彼女は正しく光のように姿を現し
一瞬のうちに、3人の覇種を殺害した
鮮血、反応も認識もする間もなく死が重なる。
「なんだ——」
突然積まれた異常事態ふたつ!
短時間に2度の揺さぶりを受けた彼らは
ひとりが動揺し、残り2人が振り返った。
本能
生物として、決して無視できない
格の違う存在に対しての恐怖、警戒心!
もう決して不意打ちは受けない!
——それが災いした
生まれながらにして強く、負けた経験がなく
戦闘経験すらまともに存在しない彼らでは
この場で取るべき最善手と
絶対に取っては行けない最悪手が分からず
結果
反射的に師匠の方へ振り返った2人は
ボクの爪によって上半身ごと心臓を抉られ
残った1人も、踏み込んできた師匠によって
後ろから左胸を貫通され、何も出来ず死亡した。
戦闘時間、僅か3秒
ボクと師匠は手分けして
倒れ伏した覇種共の死亡確認を取りつつ
万が一が無いよう、念入りに心臓を破壊しておく。
確認作業に2秒で、合計所要時間は5秒
ボクらは即座に、現場を後に駆け出した。
敵の位置は全て把握している
それぞれの小隊が今、何をしているか
それすらも予測が付いている。
走る、走る、走る、そして感知した
7人で床に座って談笑している彼らの姿を
ボクは踏み込み、地面を砕き、姿勢を下げて
飛んだ!そして視認、補足!
同時に、敵がこちらの存在に勘づく
臨戦態勢を整え、迎撃の構えを取る
いくら戦闘経験が少ないとはいえ、彼らは
吸血種の次世代機と言うべきスペックを誇る
この程度の不意打ちに対応出来ない道理、は無い!
……そう、だからこそ
彼らにはあえてそう思い込ませた
`待ち構えてやる`と有利意識を持たせたのだ
故に!
「——緊縛しろ」
師匠の底冷えする様な低い声、冷徹で冷酷な声
迫り来る外敵にのみ意識を割いていた彼らは
血の力の発動を、見落としてしまった。
ヒュッ……バシィッ!巻き付く血の糸
「ぐっ!?……し、しまっ」
迸る閃光、真っ直ぐに切り抜けるボク
爪を振り抜き、覇種7人の首を纏めて切り飛ばした
通り過ぎる、すれ違う、始祖の血が解除される。
支えを失い、司令塔である頭を失い
膝から崩れ落ちる彼らは、いずれ再生を果たす
ただし、その`いずれ`は一生来ることは、無い。
間髪入れず師匠が飛び込んできて
無防備となった敵の心臓を、容赦なく破壊
7発、正確に叩き込まれた貫手は鋭く精密で
首から上を無くした体は、地面に崩れ落ち
そしてそのまま、二度と蘇ることは無かった。
手早く死亡確認、移動
合計戦闘時間は約3秒
——次
3人、3人、1人に別れて行動している敵
これまで戦った奴らと比べて、明らかに練度が高い
隙は無い、奇襲を掛けられる様な穴は無い。
やるしかない!
突撃
まずは最速で司令塔を潰しに行く
7人の中で、最も警戒心が高く強い者
他の連中には目もくれず、ただ1人を狙う
全員分の視線が一点に集まる
奴らの感心は今、ボクだけに
中央突破、敵地のど真ん中を突き抜ける
ヒュンッと、散らばる6人を置いてけぼりにする
反応が早かったのは2人、片方は雷撃を放ち
片方はボクに飛び掛ってきた。
一瞬の攻防、すれ違う異形の手と吸血種の爪
これまで積み重ねてきた戦いの記憶は
この場における勝利へと、ボクを誘ったっ!
交差する閃光のうち、片方が撃墜され
続けざまに心臓を打ち砕かれ、1人が死ぬ。
その時、
バチッ!と空間を引き裂くような雷鳴の轟き
それはいとも容易く、ボクを穿つだろう
奴らの操る雷の力は、それ程までに強力なのだ。
黒く、黄金に輝く雷撃
後出しにも関わらず、その一撃はボクに届いた
迂闊、あまりに迂闊すぎる行為
吸血種ジェイミーは呆気なく撃ち落とされる
そう思った、きっと誰しもがそう思った。
——だから意表を突かれる。
迸った雷は確かにボクに命中したが
ベルトのバックルに埋め込んだ機械により
全て吸収されて効果が無かった!
「なっ!?」
集団に走る動揺
警戒心の高かった司令塔の男も、同じく
カッ!と目が見開かれる、見えてはいるのだろう
ただ、今から起こせる行動が無いってだけで……。
貫手4連閃、敵は反応しきれず命を失った
背後から血の香りが漂ってきた
ボクは振り返り、残った敵に対応しようとする
だがそこには、もう既に生き物は居なかった
ほかの5人は全て師匠が片付けていた。
リンドから提供してもらった機械が役に立った
腰に巻いたベルトは特別性、バックルの中に
避雷針の様な機構が施されているのだ。
それによって、彼らの放つ雷撃は無効化される
一定の許容量はあるが、10回位なら耐えられる。
素早く死亡確認を行う
合計戦闘所要時間3秒
よし、次だ——
✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱
『リンド&フレデリック視点』
ズガガガガガガッ!
両手に構えたサブマシンガンが火を噴く
敵は粉々のバランバランになって砕け散り
再生しきる間もなくダメージを負わされる。
そして、そこにフレデリックが
「ガァァァァァッ!!」
獣、怪物の様な雄叫びを上げながら
憎悪と怒りを滲ませた狂気の突貫を掛ける
弾幕に飲み込まれて動けない敵どもは
荒れ狂う嵐のようなフレデリックによって
一気に、7人まとめて穿たれ死亡した。
事態収拾!死亡確認!すぐさま次!
あたしらは突き進む、夜の闇を切り裂いて
真っ直ぐ、真っ直ぐに突撃を仕掛けるっ!
敵が居た、あたしらは直線で突っ走る
真正面から掃射をかます!敵は砕け散る!
フレデリックが突撃して、一気に3人殺す。
あたしに斬りかかってくる敵
武器を、背中のショットガンに切り替えて
素早く構えて射撃!炸裂する弾丸の雨!
粉々に弾け飛ぶ上半身、素早く心臓を砕く。
もう1人
入れ違いになるように突撃してきた
太もものホルスターからハンドガンを抜く
銃身底部に備え付けられた重厚なブレード
ブォンッ!
敵の攻撃に対して、刃の部分を噛み合せる
通称`爆裂徹甲ブレード`
一定の圧力と摩擦が加えられる事によって
着火、爆発するこの機械は
カチッ……爆裂!
紙を破くのより簡単に
敵の右腕を吹き飛ばした
「ぐぁ——ッ!?」
ハンドガンを構えて、野郎の眉間をぶち抜く
左手のショットガンから手を離し、貫手を構え
ジェイミーがいつもやって見せるように
ゼロから100へのフルスロットル
脱力を効かせ、体をねじって、地面を蹴り
このクソッタレが再生する前に!
ヒュンッ……風を切り裂く爪の一撃
それは見事に敵を打ち砕き、トドメを刺した。
リンドの戦いは終わったが
その、傍らで
フレデリックが1対2を行っていた。
前後から挟み込むように
攻め立てられるフレデリック
敵がダンッ!と踏み込み、鎌足を振り抜く
その足に、フレデリックが噛み付いた
「——ッ!?」
軽率な一撃を捕まえられた敵は、無防備を晒した
それを見逃すほど、フレデリックは甘くない
足を掴んで引き寄せ、心臓ごと上半身を叩き切る
そのまま、姿勢を低くする
真後ろに立っていた敵が振った斬撃が
フレデリックの頭の上を通り過ぎた。
フレデリックはしゃがんだまま両足を切り飛ばす
ガクンと落ちる敵の体、彼は爪で切り上げた
敵の体が縦半分に、真っ二つに両断される
返す刀で左胸を貫き心臓を握りこんで潰す。
あたしが決着を付けるのと
フレデリックが戦い終えるのは同時だった。
「次!いくよっ!」
「……もちろん!」
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『リリィ&ジーン視点』
「はいはいはい!こっち危ないっすよーっ!
逃げるなら南の幻惑の森方面っす!」
ジェイミーさんらが撃滅作戦に勤しむ一方で
私達は、築き上げた情報網を守りつつ
戦う気概と実力のある者たちを集めて
この後の作戦に備えて、土台作りを行う。
「いいっすか?まだ仕掛けちゃだめっすよ
その辺は私共から指示するんで、まずは
安全地帯への避難が最優先っす!
持ち物は持ったっすか?平気っすか?
必ず反撃の機会はやってくるっす
我ら吸血種はあのバカ共を絶滅をさせるっす!」
避難誘導を行いながら
亜人種たちが先走ったりしないよう注意しつつ
士気を上げ、扇動紛いの演説も行う。
「みんなにも協力してもらいたいの!
みんなも、やられっぱなしは悔しいでしょ!?
だったら、今は反撃の機会を伺うの!」
ジーンさんもそれに協力してくれる
いやホント、1人じゃなくて良かったっすよ
ジェイミーさんナイス采配っす
流石にこの規模のモノを
いくら私と言えども1人で面倒見るのは無理っす
ジーンさんをアシスタントに付けてくれて
心の底から助かってるっす
何より彼女は人の心に響く言葉を話せる
説得家としてこれ以上無いぐらいの適正っす。
現に
「——ああ、そうだ、その通りだ
あんたらは俺たちに良くしてくれていた
沢山助けてもらった、その恩がある
……恨みもある、怒りも、ならば
確実に奴らを叩き潰すための瞬間を!
貴方たちに従って、狙っていくとも!」
現にこうして
彼らの心は動かされている
コレは私だけでは出来なかったことだ。
「竜人族の諸君!故郷を捨てる時だ!
今は一時敗走の時間です!しかし!
必ずここに戻ってくるのです!
我々は決して滅びはしない!」
竜人族の長の男も、こうして協力してくれる
今まで積み重ねてきた数々の外交が今
事態のスムーズな進行を実現している。
「よし、竜人族、獣人、竜種はコレで終わり
残りは!?残りはどの種族が居るの!?」
「はい!残るのは黒狼族と精霊種
魔族に天使ちゃん達っす!1番近いのは
黒狼族たちの山っす!案内するっす!!」
「行きましょうっ!」
まだまだ、仕事は沢山残っている——。
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『ジェイミー&ウェルバニア視点』
「——ッラァ!」
爪が振り抜かれ、敵の急所が弾け飛ぶ
膝から崩れ落ち、そのまま動かなくなる
ボク3人、師匠で4人、合計7人を倒し終えた。
ボクは死亡確認を取りながら
師匠、ウェルバニアに向かって叫ぶ。
「これで500小隊倒した!
合計で3500体、西側の殲滅は完了だ!」
「残りは東側の500小隊
リンドとフレデリックの担当分だな?」
「そうだ」
作戦が上手く行けばこれで
3500と3500で合計7000体
敵勢力総勢1万のうち大半を片付けられる
結果報告は洞穴に帰った時に行う事になっている。
ボクらの仕事は終了した
後は、次の作戦に移行するだけだ。
「よし、直ちに帰投するッ!」
「了解!」
そう宣言すると共に
まるで霧のように掻き消えるボクらの姿
戦闘終了、師弟コンビはこれにて帰還する。
7名編成の部隊500を壊滅
合計討伐数はきっかり3500体
作戦開始から終了までの所要時間は
僅か26分であった——。
──────────────────
面白かったら
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