一方で、リンドは


『リンド視点——』



地面に座って設計図と睨めっこ!

時間が許す限りあたしはコレをやっている

時間が許す限りっつーことはつまり永遠って事だ。


あたしはとにかく時間を忘れて

自分の拠点に戻ること無くその場で

頭の中のアイディアを形にしていた。


そして


ジェイミーが鉱石を取りに行くと言って

出ていってから大体25分が経過した頃だ

設計図の作成に夢中だったはずのあたしの耳が

を感知した。


「んー?知らない気配だねぇ」


他の何かに気を取られて作業の手が止まる

なんてのは、このリンド様にとって珍しく

これまでの2億年を振り返ってみても

まさに数える程しかないできごとだった。


それほどまでに異質

決して無視することが出来ない程に

あたしが感じた気配は`妙`だった。


「優先順位変更っと」


あたしは

銃器をガチャガチャ言わせながら立ち上がり

気配を感じた方角に向かって直進を始めた。


南に向かって240km

あたしはとにかく真っ直ぐに歩いた

足元が突然海のようになる平原を超え

四六時中蜃気楼が発生する森を踏破し


そうして5分が経過した時

あたしは、視界にアレを捉えた。


鎧みたいな手足をした人型のナニカ

雰囲気的にはあたしら吸血種に近い感じのある

しかし、全く違う種族である事が分かる存在。


ソレは4人群れで行動していた

目に映る生き物を蹂躙する、という行動を。


蹂躙されていたのは獣人族

鎧の手足を持つ人型のナニカは

バリバリと雷撃の様なモノを放ちながら

圧倒的な身体能力で、獣人族を殺していく。


獣人族の戦士たちも応戦しているが

黒金の雷に身を焼かれて崩れ落ち

殴り飛ばされ、引きちぎられ打ち砕かれ

まるで戦いになどなってはいなかった。


アレは確か

インフラの整備をしてやった村の奴らだ


弱肉強食、彼らは突然降って湧いた死の災厄に対し

抗う力が足りず、一方的に貪り食われる立場だった。


「可哀想にねぇ」


ま、理不尽だと思って諦めるさね

あの調子なら数十秒後にはカタが付いてる

……ここで、あたしが考えるべきなのは。


果たしてアイツらが

視界に写る獣人族を皆殺しにした時

標的をあたしに変えやしないか?という事。


見た感じ、かなり好戦的っぽいし

話が通じそうにも見えない、ということは

あたしがこのまま留まれば確実に襲われる。


ならば逃げるのが最善

そう思う気持ちも確かにある。


しかし、一方で

あたしはこんな風にも思っていた。


`もしかしてアイツら新種なんじゃない?

という事は何かの素材になるんじゃない?`


特にあの鎧のような手足、アレは皮膚なのか

それとも硬質化した別の物質であるのか

はたまた金属なのか、非常に気になる所。


この場に居たら、放っておいてもいずれ

喧嘩を売られるであろう事が確定しているなら。


——わざわざ仕掛けられに行く必要は無い!


そう決めた瞬間、あたしは飛び出していた

いつもジェイミーの奴がやってるように

最大限、気配を殺しての強襲だ。


あたしは腰のサブマシンガンを手に取り

視線の先の4人に向かって乱射した!


ズガガガガガッ!


耳をつんざく様な射撃音が鳴り響き

弾丸が超高速で打ち出される。


「なん——」


4人は、なんの前触れもなく迫り来る

無数に展開される弾丸の雨に飲み込まれ

全身をズタボロにされていった。


あたしは思った、

そう感じた理由を突き詰めていくならば、勘。


その時点でのソレは、ただの勘にすぎず

しかして頭に過ぎった可能性であり

無視するにはあまりにリスクの大きい可能性

あたしはサブマシンガンをもう一丁抜き放ち


二重の弾幕を張り続けた

ズタボロのオンボロのギッタギタになる4人

とっくに死体となったはずの彼らは


次の瞬間、やはりと言うべき変化を起こした

再生だ、見る見る間に肉体が再生していったのだ。


あたしは察した、奴らは不死だ

その前例があるのは今のところ吸血種だけ

吸血種が死ぬのは、同族に心臓を壊された時


もっと正確に言うのなら

心臓を破壊する事


奴らに、それが適応されるかは不明だが

浮かび上がっている可能性のひとつとして

試す価値は充分すぎる程にある。


ドンッ……!地面を強く踏み締める

この後起こす行動の為の反動を得る

時間的な猶予は、ほとんど存在しない!


あたしは


再生する傍から弾丸に吹き飛ばされ続け

一生動き始める事が出来ない彼らに接近した。


左手に持っていたサブマシンガンから手を離す

薄れる弾幕、途端に始まる再生、組上がる肉体


あたしは爪を構え、続けて3人

その心臓部を抉り飛ばしていった

手の中に残る、命を終わらせた感覚


流れを止めることなく

4人目の心臓も抉ろうとした、その時


バチッ——


視界の端に弾ける雷光を見た

黒と黄金の輝きを放つ雷の発生を

……来る!さっきの雷撃が来る!


——まずい、離れろ


頭ん中で、けたたましい警笛が鳴り響く

こんな経験は初めてだ、本能が告げている

あの雷の様な一撃を食らうのはマズイと。


引くべき、今ならば間に合う……


だがッ!あたしは離れなかったッ!

距離を取らずに攻め抜くことを選んだ!


あたしは背中のショットガンを手に取り

前方に向かって射撃、炸裂する散弾ッ!


強烈な爆炎を巻き起こして射出されたそれは

敵の上半身を木っ端微塵に吹き飛ばした挙句

その体をノックバックさせた。


直後、視界を覆い尽くす眩い光

バリバリバリと、空間を引き裂く雷撃

どこまでも黒く、目を見張るほど黄金の

光の柱のような雷の爆裂閃光


確実に命中していたはずの雷撃は

敵が自ら距離を離す事によって、外れた。


敵は今、肉体の制御を失っている

この雷はあくまで苦し紛れの一撃

あたしは、その隙を決して見逃さなかった。


ジェイミーとの戦闘訓練が生きた!


確実にトドメを刺せるタイミングを捉えて

決して逃すな、というあの子の教えを

あたしは今、見事に実践した!


素早く踏み込む、銃から手を離して

今一度無防備となった敵に向かって詰めた


そしてら真っ直ぐに爪を振り抜き

心臓ごと、その胴体を分断してやった

再びこの手に伝わる、命を切り裂いた感触。


「ようやっとくたばったかい!」


地面にぶっ倒れている死体に向かって

清々しく言い放つ。


「く……ぁ……っ……うぅ……」


背後で、苦痛に喘ぎ死にかけている獣人族の男

見ると、左半身が蒸発させられてしまっている

脇腹から腰にかけてザックリと切り裂かれている。


あれではもって数分だろう

その、傍らに


「そ、んな……いや……いやぁッ!

ヤダっ!ヤダ、行かないでぇ……


おとうさん……いや……わたし

1人で置いて行かないでぇぇ……」


泣きじゃくりながら縋る、少女の姿

この場における唯一の生存者と言えるだろう

彼女が生き残れたのは、ひとえに

戦力としてカウントされてなかったからだ。


敵は向かってくる邪魔者の排除を優先し

力無き少女の事など後回しにしたのだ。


「……おとうさん……おとうさん……」


既に息絶えてしまった亡骸を揺らし

返ってくるはずのない返事を期待する姿


目からは大粒の涙が零れ落ち

顔は絶望に明け暮れている


その時、森の奥から怪物が顔を覗かせた


「ひっ……!」


銃撃の音にでも釣られたのだろう

あるいは、ここに充満する血の香りか

獰猛で残酷な化け物が、尻尾を振ってやって来た。


ドシン、ドシン……

舌なめずりしながら近付いてくる

目の前に転がる餌、ご馳走を見付けたと。


少女が


消え入りそうな声で言った。


「ぁ……た、たすけてっ……リンドさん

た……たすけぇ……おねがっ……しま……」


あたしは、死体となった敵4人を担ぎ上げ

絶望の淵に沈みゆく少女に振り向き、こう言った。


「じゃあね、イア」


怪物が大口を開けて


「ま゛っ——」


少女イアだったものは

あたしの背後で肉塊に変わった。


噛み砕かれ、引きちぎられる音

踏みつけられて、貪り食われる音

血の匂い、飛び散る肉片、香る血の匂い。


「この金属みたいな腕は

一体どうなってんだろうね?」


あたしの興味は既に、そこには無かった。


✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱


死体を拠点に運び込んだあたしは

手早く調査を行い、幾つかの事実を発見した


まず、彼らの体の作りが

殆ど吸血種と同等であるということ


鎧の様な見た目をした異形の手足は

他に類を見ない、独自の物質である事が判明

非常に固く、熱や冷気に強く、それでいて柔軟


変幻自在に形を変えることができ

腕の持ち主が死んだ今になっても

再生能力が微塵も衰えない。


吸血種の爪を持ってしても

切り方に気を配らねば両断は難しく

圧力に対して高い耐性を保有していた。


更に分かったのは


彼らが操る雷の力が、血の力と似通った物であり

その正体は脳みそから走る電気信号だということ

我々吸血種が血を操るのと同じく、彼らは

生き物の体内に走る微弱な電気を操っているのだ。


故に、死亡してすぐであれば

彼らが持つ雷の力を取り出すことが出来た。


その後10分間の調査により

驚くべき新事実が発覚した。



彼らは雷の力に加えて

吸血種の用いる血の力も合わせて使っていた

雷撃が黒と黄金色をしている理由はそれだ

雷に血を混ぜて使っているのだ。


「んー、次世代型の吸血種と言うべき性能だねぇ

あたしが奴らを倒せたのはジェイミーのおかげだ

経験を積み、実力を付けられたら相当厄介になる


素のポテンシャルが吸血種以上で

持ってる戦力も、取れる選択肢の数も負けてる

それに加えてあの攻撃性の高さだ、放っておけば


あっという間に戦闘経験を積まれて

自分の体の動かし方を覚えられる

そうなれば大分厄介な事になる……」


無視していい問題じゃあない

コレは、あたしの手に負える話ではない

特にジェイミーは、この事を知りたいはずだ。


ならば——


「進路を取る時だっ!」


そう叫ぶとあたしは、ドタドタと走り回り

あの馬鹿の元へ、この情報を届けるべく

行動を開始するのだった……。


✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱


『ジェイミー視点』


「……ん、なんだ?」


師匠やリリィ、フレデリックやジーン達と

今後の方針についての話し合いをしていた時

ゴゴゴゴゴ……という微小な物音を、外に聞いた。


一旦話し合いを放り投げて

洞穴からヒョイッと顔を覗かせる。


そして外には


バカでかい、超特大に巨大な

`それどうなってるの?`と聞きたくなる程

ありえないぐらい大きい水晶と


「うぉーーーい!ジェイミーーっ!

リンド様が来てやったよぉーっ!」


くり抜かれて入口の様になった水晶から

ブンブンと手を振って叫ぶ、リンドの姿


ボクはつい嬉しくなって

柄にもなく……いや案外そうでもないか


とにかく!こう叫んだ!


「なんてタイミングが良いんだろう!

キミってもしかして、未来とか視えてる?」


リンドは答えた


「なぁーに言ってんだか分かんないよぉーう!」


ニコニコと、眩しい笑顔を携えて……。



──────────────────


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