五大脅威の3つ目、通称——


妖精を始末した後、ボクらは無感領域を抜けて

別の目的を達成するための遠出を続けていた。


その道中


「ギャギャギャギャッ!」


全長20メートルは超えるかという巨体が

前方から物凄い速度で迫ってくる

ドドドドドと土埃を巻き上げながら

ボクら、という餌にありつく為に飛び掛る。


さすがにそのくらいのサイズになると

バクっといかれてしまうので、ボクも

全くの無視という訳には行かず


地面と巨体の隙間に滑り込んで

遠くの方に放り投げるしかなかった。


「ギャーーーーーッ……」


とんでもない速度でぶっ飛んでいく怪物

あれでしばらくは戻ってこられないだろう。


「おー随分遠くに飛んだっすねーっ

あれ誰かに当たるんじゃないっすか?」


「その時はその時さ」


手をパンパンと払いつつ

持ち上げる時に噛みちぎっておいた今の

化け物の腹の肉をもぐもぐと食べていく。


味はまあまあいけるが、少々硬いな

材料とするには微妙な部類だと言わざるを得ない。


「それ美味しいんすか?」


5メートル弱の猛獣を踵で

叩き潰しながらリリィが質問してきた。


「食べられなくもない、という感じだな」


右手を食いちぎろうと噛みつき

引っ張り続ける獣を無視しつつ答える。


「……」


そんなボクの姿を


細長い体の怪物を素手で握り砕きながら

怪訝な顔で眺めてくるリリィ


振り解けばいいのにと書いてあるが

別にボク自身は、大して気にしてないので

対応するほどでもないのだ。


他にも、太ももにしがみつく怪物や

肩を引きちぎろうと引っ張る怪物や

頭をクチバシで叩きわろうとしてくる怪物や

とにかく挙げたらキリが無いくらいなので


このくらいのヤツに

いちいち相手をしていられないのだ。


「っていうか!襲われすぎじゃないっすか!?

なんすかそれ!ジェイミーさん何かしたっすか!?

私たちずっと襲われてるんすけど!!」


人型の怪物の横っ面をぶっ叩いて

頭を破裂させながらリリィが大きな声を出した

先程から言いたいのを我慢していたらしい。


「外を歩くといつもこんな感じだよ」


「グァァォーーーッ!!」


火を吹こうとしている怪物、それはダメだ

せっかくの服が焼け焦げてしまう、容認出来ない

近くの大木を引き抜いて、槍投げの様に射出する。


さしずめ大木ランス


火を放とうと開けていた口から

体の中までを貫かれてそいつは死んだ

ついでに、放とうと貯めていた火炎が体内で爆裂

死体は黒煙と爆炎に飲み込まれて消失した。


まさかそんな事になるとは

辺り一帯は火の海に飲み込まれてしまった

爆発の衝撃でまとわりついていた怪物が蒸発

途端にボクの周りは静かになってくれた。


メラメラ

パチパチ

モクモク


その様子を見てリリィが絶叫した


「あーーーっ!そういうことすると!

集まってくるじゃないっすかぁぁ!」


実際、彼女の言葉は正しかった。


「アギャギャギャギャ!!」

「アオアオアオアオ!!!」

「ピィーーーーーーッ!!」

「アンギャァァァァァァァァァァッッッ!!」


四方八方の至る所から

耳をつんざく絶叫が聞こえてきた

今のでこちらを認識してしまったらしい。


「なんでこんなに襲われるんだろうね

何がなんだかさっぱり分からないんだ」


「こっちが知りたいっすよーーー!」


涙目になりながら、血の力で作った糸で

化け物を細切れにしていくリリィ、律儀な事だ

一方でボクは、例のごとく無視を決め込んでいる。


よっぽど面倒そうなやつか

服が傷つきそうな奴以外は全て放置して

噛まれようが叩かれようがお構い無しなのだが


リリィはそもそも、追いかけられたり

噛みつかれたりするのが嫌みたいで

きちんと一体一体処理してやっている。


「空飛んだら良いんじゃないっすかねぇ!」


4体いっぺんに、爪で切り裂いて始末しながら

半ギレした様子で、ボクに文句を言ってくる


「面白みがないだろう、ひとっ飛びなんて」


全身から強酸を吹き出す怪物を

血の檻で閉じ込めて、串刺しにした後

獲物に近付いて自爆する猿に向かって叩き付ける。


それにより、再び爆発


ドォォォォォン……


「ワザとやってますよねぇ!?」


木を足場にして飛び回り、敵の頭部をもぎながら

リリィが本気の声で怒ってきた。


対するボクは

木の実をブチッと取りながら、こう答えた。


「いいや?」


もちろん嘘だ

いまのは確実にワザとやった

ちょっと爆発が見たい気分だったんだよね。


そして案の定


「ピギャアアアアアアア!!」

「ギャーーーーーーアアア!」


「目的地に着くまでに

生き物が絶滅するっすよ!?」


血の槍で獲物を貫きながら

ずっと大きな声を上げているリリィ


「ここら辺の土質、なかなか良好だな」


「ピギャギャギャギャギャッ!」


頭をガジガジと噛まれながらしゃがみ混み

土を手のひらの上に掬って乗せて

匂いを嗅いだり感触を確かめたりするボク。


と、その時


「あ!そっちにヤバいの行ったっす!」


リリィがやや焦ったように叫んだ

それでボクは土いじりを止めて振り向いたが

ヤツを認識した時には既に遅かった。


「ピィ?」


七色に輝く小さな雛鳥

可愛らしい見た目や鳴き声とは裏腹に

間違いなく、この世界でトップクラスの害悪生物


ボクらが定めた五大脅威の内のひとつ

通称`七色転移鳥`その能力は名前の通り


あの鳥は周囲一帯の全生物を対象に

強制的に世界中どこでも転移させる生き物


「ああ、ここにも生息していたのか——」


そしてボクの体は分子レベルで分解され

それぞれの粒子がランダムで世界中に散らばった。


……やられた


まさかこんなところにヤツが居るなんて

あの鳥の生息範囲は把握しているつもりだった

だが、最近は調査を怠っていたのもまた事実

この世界の生き物は恐ろしい速度で進化している。


以前はいなかった地域にも

足を伸ばしていたところで何ら不思議はない

こればっかりは仕方ないと諦める他ない、が。


「……だからってまた地面の下か」


細切れに分解されたボクが送り込まれたのは

世界どこかの土の中、地の底、暗い地下世界

あの七色転移鳥が生き物を飛ばす範囲は、世界中


つまりボクはこの世界どこかの

地面の中に転移させられて埋められたわけだ

全身を粒子分解される、というオマケ付きで。


「ん!」


腕を突き出して

体の周りにまとわりつく土を避ける

分解された体はとっくの昔に再生が終わっている

ボクにとっては一瞬の行動不能に過ぎないのだ。


除ける避ける、掻き分ける、蹴り壊す

殴り壊す、除ける除ける除ける、そうして何とか

視界を覆い尽くす障害物を排除した。


ボコッ!という音を立てて地面が崩れ

穴の空いた隙間から、光が差し込んでくる。


「服が汚れた」


ものすごい姿勢になりながら穴の中から這い出る

服の裾や袖など至る所に土の汚れが付着している

非常に不愉快、早く家に帰って洗わなくては——


「え、ジェイミー!?」


足音、そして声

ボクはそのどちらにもがあった。


顔を動かして気配の方を向くと、そこには

両肩から大量の銃火器をぶら下げた

黒髪の、異様に着崩した作業着の女。


褐色の肌


頬には常に機械の黒い油が伸びていて

豪快な立ち姿に明るく元気な顔立ち

どこに居ても目立つ黒髪、そう彼女は


「リンドじゃないか」


「久しぶりだねえ!……っていうか

なんだって地面の下から出てくるんだい?」


世界に生きる5人の吸血種のひとり

元人間でありボクの恋人、リンドであった。


✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱


「そうか、あのクソ鳥か

そいつぁやられちまったねえ」


ガチャガチャと銃をいじりながら

2人して焚き火を囲って久しぶりのお話をする

リンドとは、実に800年振りの再会である。


だと言うのに


「あたしも何回か引っかかったよ

寝てる時、メシ食ってる時、機械弄ってる時

数え切れないぐらいぶち食らわされたもんだ」


「それは流石に食らいすぎじゃないかな」


「集中してると視野が狭くなんのさ

生憎と、器用じゃないもんでね」


「そのザマで?なんて言い草だ

それなら世界中の全てが不器用になるよ」


「はっはっはっは!そうかもねぇ!」


ボクとリンドの会話の内容からは

そんな懐かしさは微塵も感じられず

まるで昨日も会っていたかのような自然さ


その辺の話題には一切触れることなく

好きな事を話す、それがリンドという女だ。


「……それにしても」


彼女の両肩や腰に見える大量の銃火器


ショットガン一丁、ハンドガン三丁、

対物ライフル一丁、アサルトライフル一丁

サブマシンガン二丁、合計5種


ありとあらゆる兵器、それらはかつて

人間たちが生み出した殺人道具であるのだが

彼女が抱えている銃は全て、1からのお手製であり


区分上はマシンガンやハンドガンと呼べるが

中身や見た目、性能に関しては全くの別物だ

というよりも、改造を施され過ぎて原型がない。


フレームやパーツ一つ一つ、銃弾に至るまで

頭からつま先までの全てがリンド製であり

その性能は既にに留まる物では無い。


オマケに


彼女の腰と太もものハンドガン

背中に抱えられたショットガン

その2つにはある特徴が見られる、それは

銃口の底に重厚な刃物が取り付けられている点だ


アレこそが彼女の作り上げた殺戮機構


獲物にあの刃が触れた瞬間、爆裂するのだ

爆発が起きても、吸血種の腕力でブレることなく

対象物を切り裂き、そしてぶち砕き、破壊する。


ボクも何度か食らった事があるが

吸血種の体をいとも容易く切り飛ばした上

衝撃と爆煙で傷口が黒く焼けただれさせる

普通の生き物が喰らえばそれだけで即死級の威力。


爆発には強力な指向性が持たされているが

最悪自分に当たったとしても再生するので

火力に糸目は付けていないんだとか。


すなわち銃であり剣であるので

吸血種の腕力で振るう事もあるが

耐久性の面においても完備されており

どうやったのか、本当に壊れないのだ。


銃身でそのまま敵をぶん殴ったとしても

射撃及び爆裂斬撃には何ら影響が無いと言う。


そんな魔改造が施されているのも関係して

重量が吸血種にしか扱えぬほどに膨らんでおり

実質的に、他者に使われるのを防いでもいる。


黒狼族のような種族でもない限りは

振るうどころか狙いを定めることも

挙句には持ち上げることすら適うまいよ。


ちなみに


何故わざわざ銃を?という質問には


`はぁ?そんなもんカッコイイから

以外に、何か大事な理由があんのかい!?`


と一蹴されてしまうので

あの子に合理性を解くのは全く無意味だ。


それで

こうして観察して分かったのだが。


「……前見た時とは形が違うね?」


「やっぱり分かっちゃうか、いや実はね

マガジン……というより弾を変えたんだよ

以前のモデルより、貫通力が37%アップさ」


「フレームの形もコンパクトになった

前に指摘した`取り回しやすさ`を考えたのかな」


ボクの質問にそうだ、と答えて続ける。


「後は爆発の火力も4倍に上がっているし

連射性能および重心の調整、パーツを減らして

構造のシンプル化、更には光の反射を抑えつつ


マズルフラッシュも抑えた、反動もほぼゼロ

ブレや精度も限りなく向上させている


射程距離を伸ばし、材質を変更した事で

ブレード自体の切れ味も上がっている

フレームのガタツキも0.00007%程に減少

持ち手のグリップも特殊加工を施したうえで

更には、射撃音のカットも両立しているのさ!」


話しているうちに段々興奮してきた彼女は

立ち上がり、地面を踏み抜いて大きな声で宣言した

ここ800年の成果は、凄まじいモノがあったらしい。


「それはすごい」


「ただね、いくつか不満な点というか

改善すべき点も残っているんだよ」


ドカッ!とその場に座り

ボクの真横に寄ってきて構造を見せてくれる。


「ここの接合部がどうしても気に入らない

もう少しスムーズにやれるはずなんだけど

そうなると、こっちのパーツが邪魔をする」


部品を指さしながら顎に手を乗せて

神妙な顔付きで問題点を語るリンド

その内容は極めて高度で専門的なものだが


「しかし、そこを変えると防水が心配だな」


彼女から直々に講師を受けたボクは

機械の事なら、ある程度理解できるのだ。


「ああ、それにブレードの固定も怪しくなる

しかし現状以上の性能を出すには

素材自体の見直しも視野に入れる必要がある」


「ボクの所に、それに合いそうな素材がある

最近、とある外交で手に入れた鉱石なんだが

なかなかに面白い特性があってねぇ」


土産話のひとつでも、と思い

彼女が好みそうな話を取り出したのだが


リンドは、顎に乗せた顔を離し

フッと視線を上げてこう言った


「ああ、それなら聞いた事がある

加工の際に加えた温度と時間、圧力によって

材質や強度が細かく変わるという金属だね?」


「おや、知っていたか」


正直、驚いた。


「噂では聞いていたさ、ただ

何処にあるかまでは不明だったんだ

……だから、本来ならそこに」


顎で差しながら。


「今言った金属をあてがう予定だった

あんまりにも見つからないんで妥協したのさ

それがまさか、あんたが見付けていたとはね」


腕を組み、感心するように言う


「稀有な偶然もあったものだね」


「それだけ、あんたが今の世界で

手広くやっている証拠なんじゃないかい

各所で噂は聞いたよ、変わり者の吸血種さん」


ニヤニヤしながら肩を叩いてくる


「キミ程ではないだろう?機械弄りのリンド

世界中で発明品をばら蒔いてるそうじゃないか」


こちらもリリィから聞いた話をお返しする。


「ライフラインの整備さね、飲み水の供給やら

安全な家屋にエネルギー資源などなど

予定外の改造や悪用、分解ができないように

がっちりプロテクト掛けてプレゼントしてるんだ」


その辺は抜かりないのが彼女という吸血種だ。


「キミが`がっちり`なんて言うんだ

それは世界中他の誰にも不可能な事だろう」


肩で押し返しながらそう言う


「おうさ!なんたってあたしはァ

天才リンド様だからねぇ!あっはっはっは!」


仰け反りながら上を向き、豪快に

膝をバシバシ叩きながら笑うリンド

800年振りに会ったのに何にも変わらない

いや正確には2億年前から、だがね。


「はぁ、ところで——」


ガチャン、とショットガンを床に立てて置き

首をこっちに回して怪しい視線を送ってくる。


空気が途端にピンと張り詰める

その理由を、このボクは知っている。


リンドが言った。


「——やろうか、久しぶりに」



そしてボクは



「是非そうしよう」


そう答えるのだった。


✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱


——光線炸裂


ボクが貫手を放つと同時に

視界は真っ赤な光と無数の弾丸で埋めつくされた。


不意打ちはしっかりと読まれており

リンドは即座にショットガンを射撃したのだ

凄まじい火力、生き物では到達出来ない瞬発力。


ボクの上半身は木っ端微塵に弾けて

後方に向かってぶっ飛ばされた。


再生、開ける視界、見えたのは

リンドが腰のハンドガンに手をかける姿


ボクは空中で姿勢を整えて、地面を捕まえる

そのまま力技で、慣性を別方向に曲げて飛ぶ。


瞬間


ボクが居た場所を通り過ぎる弾丸

……早い!800年前よりも遥かに!


2発目が来る前に地面に降り立つ

左右に飛びながら標的を絞らせない

ついでに地面の土を巻き上げて煙幕にする。


そうすると彼女はショットガンを構える

ボクはその瞬間を待っていた!


地面に手を突っ込んで、大地を持ち上げる

そして全身のバネを、瞬発力を総動員して

固く分厚い地面という名の壁を、放り投げる。


バァンバァンバァン!

という発射音が壁の向こう側から聞こえた

そして視界に飛び込んでくる3発の弾丸。


リンド印の銃火器にとって

この程度の障害物は無意味だ。


容易に貫通


物陰に隠れたボクの

次の行動を予測して放たれた弾丸は

1発当たり、右の肘を付け根から吹き飛ばした。


それ以外は虚空を切り裂いて消えていく

ボクはちぎれた右腕を掴んで、体を捻り

けたたましい発砲音を鳴り響かせた事で

正確な位置が割れているリンドに向け、投擲。


そしてそのまま足に力を貯めて

上空、すなわち真上に飛んで離脱

空中にて軌道を変えて、斜め下に飛び——


「そこは鳥籠の中さねッ!」


直後ッ!火薬の炸裂する音と匂い!

1度や2度ではない、何度も何度も何度も何度も


音の正体はサブマシンガン!

リンドの両手に構えられたサブマシンガンの物だ!


ボクが投げたのが巨大質量の壁とするならば

リンドが放ったのは、無数に展開された鉄の壁


吸血種の優れた動体視力で辛うじて捉えられる

幾千幾万と折り重ねられた鉄のカーテン

空中に飛び出したボクが避けられる道理は無い。


故に!ボクは即座に血の防壁を展開

体の真ん前に、薄い膜のように広げた


ガガガガガガガッ!!弾丸が弾ける激しい音

血を貫通してくる弾は1発もないが、しかし。


ボクは薄膜を足場にして後方に宙返り

地面に射出する血のアンカー、引っ張る

地面に向かって直落下、迫る迫る迫る!


地面に……着地、直ぐに爪を振り抜く

そして返ってくる感覚

この瞳が捉えたのは腕、リンドの両腕だった。


突き出された爪の一撃

着地の瞬間を狙った死の斬撃

ボクはそれを、読み切っていた。


肘から先を失ったリンド

傷口が一瞬にして再生していく

行くなら今しかない、そう見えるが

ここでボクは、あえて踏み込まなかった。


何故なら


彼女は口にハンドガンを咥えていたからだ

そして、アレの銃身には刃が付いている

何かに触れた際の摩擦で発火する殺戮機構が!


攻め際に掠られでもしたら

それこそ致命的な隙を晒しかねない

だからボクはあえて踏み込んだりせずに


足を地面に突き刺し

瓦礫を蹴り飛ばす事にした


リンドの腕の再生が終わる

口に咥えたハンドガンを剣のように振り抜く

刃が飛来物に当たり、そして起こる爆裂。


強い指向性を持った爆発は

容易にボクの元へ届くが

同時に視界が一瞬だけ妨げられもする


この瞬間こそが好機

足の下の床を踏み砕きながら

前へ向かって突貫する。


爆風が体を焦がすが、直撃ではないので

僅かに表面の肉が消し飛ぶ程度で済んでくれる

行動に支障が出るほどの損傷は負わなかった。


構える、踏み込む、指先を揃えて

獲物の姿を認識するよりも前に、放つ!


貫手8連閃ッ!


一瞬にも満たない速度で放たれるそれは

兼ねてより研鑽を重ねてきた、ボクの鋭き牙

未だ防ぎきった者は居ない、優秀な攻撃手段


それは今回に関しても、例外ではなかった

ボクの放った貫手は全弾命中した。


それぞれ両肩、両肘、股関節、両膝

計8箇所の重要な関節を完璧に破壊貫通


もはや引くことも

攻めることも出来なくなったリンドは

トドメを刺そうと1歩踏み込むボクを見て


しかし、不敵に笑って見せた

ニィッ……と、不気味に笑う彼女。


そこで初めてボクは

自分の犯した過ちに気が付いた

彼女の手に握られていたはずのショットガンが無い


一体どこに?それは


「頭上注意ってね!」


背中に当たるなにかの感触、直後


ドンッ


という重厚な爆裂音が鳴り響き

ボクの全身は真上から襲来した驚異により

無様に、散り散りになって弾け飛んだ。


答えは真上


リンドはさっき爆風によって

視界が隔たれたその時に、ショットガンを

触れただけで炸裂する刃が真下になるよう


頭上に投げていた

そしてそれが今、落ちてきて当たったのだ


ボクが貫手を放つとこも

それを自分が防げないことも

トドメを刺しにもう一歩踏み込んで来る事も

長年の経験、そしてボクが授けた戦闘知識から


リンドは予測し

対応する行動を選択していた!


背中から胸にかけて大穴が空いたボクは

負った傷と、降りかかった爆発の圧力により

車の急ブレーキの様に停止させられた。


リンドが再生を終える

血の力を発動し、糸を作る

投げたショットガンを引き寄せて捕まえ

こちらに距離を詰めてくる。


対するボクは、まだ再生の途中

チャキッ……と銃口がこちらを向く

アレを貰えば、今度こそおしまいだ。


広範囲を吹き飛ばされたボクは

再生を余儀なくされ、その隙に心臓は貫かれる

今からじゃ血の力の展開も間に合わないだろう。


かと言って逃げる事も出来ないし

この体勢と距離からじゃ攻撃も届かない。


万事休す


この状況に陥れば誰しもが思うだろう

そう、このボク以外であれば。


銃口が向けられ、引き金が引き絞られる

暗い筒の中が光に包まれ、弾が飛び出す


——直前


下の方から音がした


ミシッ……という、砕ける音

あるいは砕けて


発生源はボクの足の裏の地面で

そこから一瞬にして広がった亀裂のもの

動けず、逃げられず、防げも攻撃もしないのなら


文字通り

足を引っ張ってやるのみだ!


ガァン!


という音を立てて、地面が砕けた

それはすなわち足場の崩壊を意味する

途端に傾くリンドの体、こちらに向けていた


ショットガンの銃口が斜め下を向く

リンド自体も突然の出来事に足を止める

そして放たれる銃弾の雨雨雨雨——!


しかし!


ボクには当たらない!


散弾は、全て斜め下の地面に吸い込まれた

激しい損害を与えながらも、数センチ先の

ボクの足には一切のダメージを与えなかった。


胸の傷の再生が終わる

生まれた猶予で体勢も整う

ボクは悠々と前へと踏み込んで


彼女の構えているショットガンを

両手で挟み込むようにして掴み

クルッと向きを変えてリンドへ向ける。


「ああっマズ——」


ドゴォン!


吹き荒れる破滅の嵐

リンドの体を吹き飛ばす銃弾の雨あられ

再生が始まる、腰のハンドガンを抜き放ち

こちらに向けてくる、それを見て再び射撃


ハンドガンを持った手ごと

肩口から吹き飛ぶリンドの腕

反対の手で爪を放とうと構えるも


ショットガンの圧に吹き飛ばされ

崩れ切った体勢では、リーチが足らず

そのまま2発目も撃ち込まれる結果となった。


ドゴォンッ!


リンドの頭が消し飛んだ

もうこの銃は必要ないっ!


ボクは最後の踏み込みをかけて

脇を締め、指先を揃え、最大最速の一撃を

真っ直ぐ、吸血種にとっての絶対無二の急所


心臓へと突き出した


ボクの指先が彼女の

左胸の肉を骨を貫いて砕き

その奥の臓物へと到達する直前


チャキッ……と、ボクの額に

まるで負け惜しみの様に突き付けられた銃口が

全てが手遅れになった後で火を噴き


硬い硬い弾丸が

後頭部へと抜けていくのだった……。


✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱



「いやぁ!負けちまったよォ!

相変わらず強いねえ、あー悔しいっ!」


更地よりも酷いことになったキャンプ地で

痛快に、楽しそうに、そして悔しそうに

銃火器の手入れをしながら笑うリンドの姿と


それを横で手伝うボクの姿が

そこにはあるのだった——



──────────────────


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