無感領域


翌日の朝、リリィからの通達があった

ジーンが高エネルギー体を確保したらしい

作った機械は問題なく作動してくれたようだ。


その報告と共に、そのエネルギー物体を受け取り

内蔵した電池の様なものを作り、早速試してみた

結果は実に良好であり、半ば永久的な電力を

供給することが可能となった。


改良の余地はあるし

まだこれ一本しか利用できないが

目下優先するべきなのは地下トンネルの方だ

たった一つの限りある資源を投入する価値がある。


という訳で


ボクらは地下トンネルの前

既に向こう側の大陸まで貫通して開けられており

長大な縦長の穴は、現在真っ暗闇が支配している。


「じゃあ、点灯するっすよー


ほぁ!」


配線は既に通してある、光源も設置した

リリィが何本ものケーブルに繋がれたリモコンを

格好を付けて押すと、何やら重低音が鳴り響く。


一応完成しなかった時の事も考えて

竜人族の彼らにはまだ、伝えていない

仲間内だけでの予行演習と言ったところだ。


故に、この場にいるのはボクとリリィだけ

万が一派手な爆発などが起きても平気だからだ

全身が吹き飛ぶような事になっても全然大丈夫。


もっとも


「——おぉぉーーっ!」


そんな心配は要らなかったようだが。


「凄いっす!ちゃんと明るくなってるっす!

やったー!やったー!流石ジェイミーさんっす!

ジーンさんもお手柄っすねぇ……良い仲間だなぁ」


今回の件でもっとも利益があるのは彼女だ

自分の情報網の拡大、それに勝る褒美はあるまい

そもそもがリリィからもたらされた案なのだし

1番得をしてもらわなくては困るというもの。


「これで開通が完了した訳だね」


「そっすね、あとは管理体制を整えて

ここの存在をしっかりと隠して守ってっすね」


「ノウハウを叩き込む必要があるな

守るのは当人たちでやってもらおう

ボクらはあくまで手助けの立場だ」


「もちろんそのつもりっす

ある程度以上の面倒は見ない約束っすからね」


「よし、ならばこの1件は完了だな」


「一件落着っすね!」


リリィと互いに顔を見合せて

そこそこの時間を費やした計画の完遂を祝した

ボクはスっと後ろを振り向き、腕を組んで立ち


そして


「——そこで見てる奴らを片付ければ」


「ッ!?!?」


暗闇の空間に走ったのは緊張の線

突然、何の前触れもなく居場所を見抜かれて

挙句に片付ける、等と言われた動揺の拡散。



ボクとリリィは同時に姿を消した

気配があった方向に向かって一直線上だ

やはりそうか、やはり此処を狙ってきたか。


トンネル開通の瞬間

自分たちの内側に入り込む異物

利益をかっさらう為の最善手

すなわち干渉する者の排除だ


爪を構える、居場所の特定は不正確だが

見える範囲の障害物を切り裂いてしまえばいい。


——振り抜き一閃


極彩色の岩、氷の大地と白い霧のような木

それら全てを真横一文字に切り飛ばした!


「 ——風」


障害物が取り除かれた瞬間、現れた

左の肩から腰にかけて深い傷を負った

の青年が、ぽつりと呟いた。


一撃で仕留められなかった

あわよくばと思ったが、そう甘くは無かった。


瞬間吹き荒れる大嵐

風と言うより削岩機の様なそれは

範囲、射程を幾らでも広げる事が出来る

持続時間にやや難点を抱えるものの

威力や精度は、決定的に高い。


拡散、風の拡散、広がって砕いて、切り崩す

まともな生き物なら、それだけで即死する程の

竜人族が竜人族足り得る最高の攻撃手段であり

そして身を守る鎧でもある。


だが、何事にも例外がある。


思い出して欲しい、先程彼は傷を負った

風の剣に吹き飛ばされていくボクは既に

竜人族の青年に傷を付けている。


それは決して致命傷とはなり得ないが

ボクの目的は、付着させることにあった!


「っ゛ぁ——!」


竜人族の青年野顔が苦悶に歪んだ、それは

左胸から腰にかけて赤い線が浮かんでいたから

それは吸血種の血、一番最初の奇襲の時点で

ボクは既に目的を達成していた……っ!


赤い線は、すぐに実像を結んで形となり

竜人族の青年の体をした。


即座に掻き消える風の剣

空中に撒き散らされる真っ赤な血液、臓物

隠密を意識していたからこその初撃の油断

それが全ての明暗を分けた。


敵は1人倒した

残りはリリィの方だ。


……やや時間を遡って

ボクらが不届き者の気配に気付き

同時に姿を消した直後のこと。


リリィは衣服の中から針を取り出した

真っ黒い、闇に溶け込む細い細い針だ。


敵は1人では無かった

2人、合計で2人がそこに居た。


奇襲を食らわされた青年とは別に

竜人族の少女がそこにはいた。


風の剣が発動する

それは攻撃手段としてではなく

外敵から身を守るための結界として

彼女は決して、戦うのを恐れた訳ではなかった。


むしろその逆

この目の前の吸血種に対しては

そうするのか1番だと本能で感じたからだ


実際リリィを相手にするにあたって

そもそも近付けない、というのは正しい。


リリィは毒使いだ

その手に持ったのは毒針だ

他にも無数に暗器を忍ばせている

暗黒街で培った戦術、接近戦では敵わない。


リリィは風の障壁に向かって

自身の持っている針を射出した

鋭く細く、強力に強烈に真っ直ぐ精密に。


どれだけ厚い鎧であろうとも

一点突破の貫通力にはかなわないように

それは、少女の額に向かって飛ばされた。


「風の剣は多重の防壁だわっ!

そんな小細工は通用しな——」


竜人族の少女はその先を語れなかった

何故か、それは膝が突然落ちたからだ。


「……ぁぇっ?」


ガクン


両方の膝が、自分の意思とは別に折れた

浮遊感、分からない、何が起きたのか分からない

針は防いだ、攻撃は食らってない、私は一体……?


リリィの暗闇のような目

生き物を殺すことを躊躇しない奈落の瞳

どんな卑怯も醜悪も、構わず実行出来る者の顔。


そして少女は気付いた!

足元だ!地面の下からやられたんだ!

すぐに反撃、風の剣を作り出して……


「か……ぉ゛……ぅぐァっァぁ……ぁ……ッ!!」



なぜ!?


その答えはとてもシンプル。


「あんたは、もう私の眷属っす

自分の意思で身体は動かせねぇっすよ」


リリィは地面の下から血の針を通していた

風の剣を解放した時には既に、彼女の足元

すなわち地面と足の裏の接地面から


吸血種のもつ能力、眷属化

それは本人の意志を無視して行える

無理やり体の命令系統を奪い取る。



竜人族の少女は必死に抵抗する

なんとか、なんとかこの窮地を脱する為に

願いのため、一族のため家族の恋人のため


吸血種を打倒して支配権を勝ち取る

不死にしてもらう、そうしないと私たちは

私の将来の旦那さんやお母さんは助からない!


力を振り絞れ!

目の前のゴミ野郎を打ち滅ぼせ!


「ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ!!!」


リリィは冷たい声でこう言った。


「——自殺しろっす」


下された命令は無慈悲だった。


「——ぁ」


リリィの眷属となった竜人族の少女は

命令に抗う事すら出来ず、自分で自分の心臓を

素手で抉り出して、そのまま即座には絶命した。


ちょうど同時刻


竜人族の青年が

ボクの手によって始末された。


戦いはそれで終了した。


✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱


ヒュッ……ドサッ……!


投げ出された2つの身体、それは竜人族の男女

先程トンネルの前で始末した2人の死体だった。


「——」


それを、呆然と見下ろす竜人族の面々

ボクらは事が起きた後、即座にこの集落に赴いた。


「彼らが明確な敵意を持って隠れていた

故に始末した、死体はここに置いていく

何かあれば聞いてやる、言うがいい」


ボクは堂々と言い放った

事実を包み隠すことなく丸ごと全部

先に襲いかかったのはこちらという事も

一切誤魔化すことなく告げた。


結果は


「キサマァァッ!!」


当然、こうなるだろう

瞬時に展開された広大な範囲の風の剣が

ボクと、ボクの隣のリリィを纏めて薙ぎ払った。


削れる肉、傷つくからだ

圧力によって叩き潰される骨に皮

しかし原形を損なうほどでは無かった。


そこには遠慮が見られた

怒りながらも、心は僅かに冷静なのだ

それにここは集落の中、本気は出せない。


「……なぜ抵抗しない」


襲いかかってきた竜人族の男が

憎々しげに語り掛けてきた。


「必要がないから」


ボクは冷たく答えた。


「敵意を持ってりゃ殺すんだろ?アァ?」


「敵意があればね」


「……あるだろう」


「いいや、キミにあるのは恐れだけだ」


「っ……」


仲間を殺された、腹が立つ気に入らない

かと言って自分が死ぬのは嫌だ、吸血種は怖い

そんな矛盾した感情が故の、中途半端な行動だ。


「次に何かあればトンネルの件はナシだ

即座に埋め立てて、以降ボクらは干渉を止める」


様々な目線が注がれる中、最も多いのは

`それは困る`という縋るような切実なモノ

彼らはとうにボクたち吸血種に依存している。


素材や食料、不可侵条約に

未来の生命線の提供までしてもらって

今更パイプを失う事など出来ないのだ。


「——はい、肝に銘じます」


故に族長はそうするしかない

一族を取り纏める立場としては、たとえ

胸の中にどんな思いがあったのだとしても

気持ちを押し殺して`穏便`の一手を取るしかない。


今回のはちょっとした手違いだ

彼らの中で、何かが狂った末の事件

現状、全ての裁量権はこちらにある。


だが、それをあえて放棄した

ボクは彼らに言葉だけを告げた。


「ボクらは支配に来たのではない

単に利用する為に関係を結んだだけだ

どのような心配があるか、など知らん


一族のことは一族でカタを付けろ

利害関係の交渉はとっくに済ませたはずだ

キミらが必要としない鉱石を頂く

これだけだ、こちらの見返りはそれだけ


欲を見せるのは考えてからにしろ

勘違いをする前に全体像を見てみるんだ」


「はい、心に留めておきます」


集団の中に芽生えた不穏分子、それは何処でも

どんな時でも起こりうる事であり、ボクらは

彼らの裏に何があるかを一切聞かない。


この件はこれでおしまいだ。


✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱


「いやーびっくりだったっすねー」


頭の後ろで両手を組みながら

大袈裟に溜息をついて見せるリリィ


「あれは完全にイレギュラーだったね」


竜人族との話をつけたあと

ボクらは氷の大地を並んで歩いていた

視界は剣のような氷塊に覆われていて

水分は瞬くに凍り付く地獄の環境


もっとも吸血種にとっては、寒さも

そしてこの氷塊も、何ら脅威とはなり得ないが。


「存在は知ってたんすけどねー

あの展開は読めなかったっす

まーさか襲撃されちゃうとは……

あれ完全に殺る気だったっすよね」


おでこに氷塊を喰らいながら

顔を歪めることもせず平然と話し続けるリリィ

この程度じゃ再生する程の傷も負わない。


普通の生き物ならば今ので

頭が弾け飛んでいるところだが。


「戦闘体勢を取るのが早かったからね

アレは初めから準備していた動きだよ」


そのくらいの見極めはやっている

手を出したのはこちらからだったが

それを差し引いても彼らには敵意があった。


「次はもっと慎重になるっす

せっかくのエネルギー資源が壊されたら

たまったもんじゃないっすからね」


「その可能性も大いにあったな

やはり先手撃破は正解と見て良さそうだ」


ボクらは別に平和主義者じゃない

好き勝手振る舞う吸血種なのだから

どれだけ横暴でもなんら問題は無い。


主目的は外交ではなく

`好きにやる`なのだからな。


「しばらくジェイミーさんの所に居ようかなあ

あ、活動はもちろんやるっすよ?拠点として

利用させて頂こうかなってことっす」


「ボクは構わないよ

2人分くらい訳ないスペースがあるからね

キミの好きなように使うがいい」


「やったっすー!」


ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶリリィ


「いやぁー!私ずっと野宿してたんすよ

寝てる間に何されても死なねーんで

別にどうってこと無いっすけどね


やっぱり暖かいベッドや

静かな家には適わねーっすよ」


元が人間である彼女にとっては、そういう

穏やかな空間が何よりの幸せとなるようだ

幼い頃から闇社会で情報屋をしていたリリィは

暖かい家屋にあまり馴染みがない。


「それにしても便利っすねー

寒くもなければ凍りもしないとか

それもこれも血の力……免疫の力っすねー」


「料理をする際の温度感覚が

分かりにくいという欠点もあるがね」


「そこなんすよねー」


ボクは料理があまり上手では無い、粗雑なのだ

雑に切って雑に焼くのが一番だと思っている

かと言ってそれしかしない訳ではないのだが

そういう時に、やや不便を感じる事はある。


「ある程度、五感の制限をして

リソースをそっちに回すことで制御は出来るが

鈍い事には代わりがないからね、難儀なものだ」


そんな世間話をしているうちに

氷の大地の境目に到達した

ある地点を機に突然普通の地面となる光景は

やはり、いつ見ても異様と言わざるを得ない。


境界線を踏み越えた瞬間

ボクらが見ていた景色は一変する


黒、黒だ、真っ暗闇の暗澹たる光のない世界

一寸先はなんとやら、そこには一切何も無かった。



何も無い、音も光も地面も空も

認識しうる物は何も無く、感じるモノもない

匂いも触感も生き物が生き物足りうる全てが

完璧に消え去っている。


……というのは

あくまで普通の生き物の場合だが。


「あーほんと、ここ訳わかんないっすねえ

氷の大地も重力場の乱れる土地も、一応

いやアレも普通に意味不明なモノすけど

ここに関しては完全に法則がぶっ壊れてるっすよね」


吸血種の耳は機能する


「暗闇なのに見える、という矛盾

ただ単に感覚が鋭いだけじゃ説明が付かないよね」


「聞こえないし見えない、感触もない

という事が分かるのに感じる事は出来る

誰かに何故?と問われても、私らとしては

分かるから、と答える他無いんすよねーっ」


通常、ここに足を踏み入れた生き物は

あらゆる五感に蓋をされた状態に陥る

外側はおろか自分すら認識出来ない。


前には進めず、下がる事も出来ない

呼吸も不可能、ただ孤独に窒息死するだけ

ここは五大脅威のひとつ、通称`無感領域`。


外側からはその闇を認識できず

境界線を踏み越えた瞬間に五感が死ぬ

日によって境界線は変動し、防ぐ手立ても無い。


そんな不毛な大地にやってきた理由はひとつ

ここに`妖精`が一体、入り込んだと聞いたからだ。


妖精とは、かつて世界に生きていた存在であり

新生した今の世界においても存在する生命体だ。


彼らは非常に強力な神秘を操る

それにより生き物は強制的に幻覚を見せられる

近付くだけでそれなうえ、彼らは質量のある

壊されても本体に影響がない分身を作りだせる


おまけに瞬間移動の様な事も出来て、洗脳も可能

手を触れずにものを動かせて握り潰せたり

飲まず食わずでも5年生きていられたりと

非常に強力無比な生き物、それが妖精だ。


「私の情報網に引っ掛かった、というより

私自身が目撃した、が正しい今回の情報

この前ここを散策していたところ、本来なら

見えるはずのない光が、向こうの方で見えたんすよ」


ぬっと彼方へ向けて指をさすリリィ


「なるほど、それは確かに異常事態だな

この空間を切り裂くほどの力と言えば

思い当たるのは妖精ぐらいか」


「一応、神秘の痕跡も見受けられたっす

力が強いぶん分かりやすいっすからねー」


神秘が使われた後には必ず

強力な力の残滓が発生するのだ

ボクらはそれを感覚で覚え込んでいるから

形跡を見れば1発で分かる。

そうまでして妖精を探しに来た訳は単純


始末するためだ。


妖精は生きてるだけで他の生き物を侵す

強すぎる力を抑えられず、抑える気もなく

子供の癇癪のような理由で破壊を撒き散らす

ボクとリリィはこの世から妖精を

一匹残らず絶滅させるつもりだった。


それが主目的ではないが

いずれ達成するべき事のひとつだ

長年ボクらは戦いを繰り広げてきた。


その結果、彼らは姿を隠し始めた


影に隠れてこっそりと力を振るう

しかし頭の出来がお粗末なおかげで

何処かで必ずボロを出して、その度に

ボクらは2人に見つかって消されてきた。


彼らはそれそれ強烈な自我を持っている

それ故に、決して同族で群れたりはしないのだ

その在り方は、まるでかつての吸血種のよう。


調子に乗って好き勝手した挙句

ボクや人間に各個撃破されていった

滅ぶべくして滅んだ吸血種。


「——いたっすよ」


「ああ、そのようだ」


ボクとリリィの、視線の先にあるもの

存在を誇示するようにキラキラと輝く光の柱

そうでもしないと存在を保てないかのように。


「じゃあ、仕事だリリィ」


首を傾けてコキッと鳴らす


「……承知」


リリィの瞳が奈落に沈む


次の瞬間、戦いは始まった。


✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱


まず光が場を支配した

こちらが攻撃を仕掛ける前に

向こうは先手を打って消し飛ばそうとした。


だが


事前に存在を感知していたボクらに

そんな攻撃が当たるはずもなく

神秘が実像を結ぶ前に回避は終わっていた。


光の束は虚空を切り裂く。


別々の方向から直線的に接近する

妖精は自分の攻撃が失敗した事を知った

直後分身、同じ姿の生き物が12体に増殖


幻覚と洗脳効果のある鱗粉が舞っている

しかし、吸血種にはそれが絶対に効かない

素通り、分身はリリィとボクで6体ずつだ。


全てを相手してもいいが

それよりも先に本体を叩く方が優先!


ボクは分身の6人と接敵する直前

体を赤い血の霧に変えて、奴らを通り抜けた


今のボクは霧とはいえ質量がある、武器になる

真っ赤な血の粒は散弾銃のようになって

いくつかの分身達に襲いかかり、粉砕した。


そして実体を取り戻す。


リリィの方は律儀に相手をしているようだが

ボクはそのまま一直線に妖精の元へ走った!


奴も、まさか素通りされるとは思わなかったらしく

僅かに動揺した様子を見せつつも、行動を起こした

途端、吹き荒れる神秘の嵐。


踏み入ったものを強制的に融解させる波動の暴風

ボクは敵の攻撃の性質を、匂いと見た目から判断


自身を血の力で球体状に覆い

守りながら突撃をかけた。


血は免疫物質であり不壊素材

当人の意思以外での形状変化は不可能であり

切れも、壊せも、ましてや溶かせもしない!


敵が1歩、後ずさるのを感じた

2度、いや3度に渡る予想外を重ねられて

動揺は転じて恐怖となった。


この時リリィは、ちょうど分身6体を片付け終わり

ボクが素通りした3体に飛びかかる瞬間だった

もう間もなく仲間の援護も加わってしまう


追い詰められたこの状況下で敵がやれる事とは?

その事を考慮に入れつつボクは


球体状の血の盾から、無数の槍を突き出した

見なくても敵の位置は把握出来ている。


飛び出す槍は数千本にも及び

これを喰らえば間違いなく一撃で絶命を果たす

猶予は無い、ならばどう避けるか


それはもちろん——


「やはり」


敵の気配が跡形もなく消え去った

転移だ!瞬間移動のような力だ!


そして奴は現れた、ボクの目の前に

妖精は血で囲った防壁の内側に瞬間移動してきた


自分は満足に動けず、神秘を展開していなければ

見ることも聞くこともままならない身で

遠くの方に逃げたとしても

いずれ追い付かれるのは時間の問題

であれば、外敵を排除する方が最優先!


そして現れる妖精、彼女は神秘の力を解放して

ボクを丸ごと消し飛ばそうとした。


至近距離、不意打ち、即時展開の爆発

本来であれば防がれる道理は無い、そう本来なら

もしこの戦いが、一対一の状況であるならば!


ボクは、妖精の気配が消えた瞬間には既に

周りを覆っていた血の防壁を解除していた


「な——」


驚愕に見開かれる目、そして


プスッ


「っ——」


妖精の首筋に、黒塗りの針が突き刺さった

リリィだ、彼女はボクが血の防壁を作った瞬間

その後に起きることを予測して、構えていたのだ。


3体の分身を相手取りながら

こちらに対する援護を意識していた

ボクも予め、こうなる事を予測していた


隔たりが取り除かれた瞬間

彼女は即座に行動を起こしてくれた!


連携


内側に入り込んだと思った瞬間の油断


その針には猛毒が塗られている、この世界において

あらゆる亜人族から最も忌み嫌われる物


すなわち、`自我を破壊する毒`だ

首筋に刺さった針からはすぐさま毒が全身に回る。


しかし、多少なりとも猶予はある

神秘の発動はリリィによって打ち消されたが

まだ彼女には、その強靭な肉体が残っている。


手が伸びる、捕まえる気だ


ボクはそれを、腕の付け根から爪で切り飛ばす


切り飛ばされた腕が

ボクの喉に掴みかかってくるが

牙で噛みちぎって撃墜する。


彼女の体が変質して、輝く刃が突き出す

ボクは不死に驕らず全てを迎撃して叩き折る

残った方の腕で殴りかかってくる


が、そこで時間切れ

妖精は突然膝から崩れ落ちた

まるで何も知らぬ幼子のような顔をしたまま

ガクン……と、その場に倒れていく。


ボクはそんな彼女の顔面を膝で蹴り砕いて

此度の妖精討伐遠征の幕引きとするのだった。



──────────────────


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