黒狼族の過激派グループ


「——それで? 大体15万体の火を食らう怪鳥共を

片っ端から始末して、ついに絶滅させたんすか?

この短期間で? たった数十分で? なんすかそれ


めちゃくちゃ大ニュースじゃないっすか!

うわーん!どうして教えてくれなかったすか!

見そびれたー!いい話のネタになったのに!」


コロコロと表情を変えながら

下着姿で喚き散らすのは、誰あろうリリィだ

あれからボクは龍種達の天敵をこの世から消し

お礼として、今後はテリトリーに侵入しても

襲いかからず、監視を付けないと約束してくれた。


群れのボス、非常に体格の大きい

真っ白な三つ首の龍の目がそう言っていた

凄まじい冷気を放ち——ボクには通じないが——

恐ろしく賢い、優美な知性を感じる相手だった。


「それ多分、この龍種、世界最強の竜王っすよ

拝謁出来たんすねジェイミーさん、そっかあ

じゃあもう龍種とは和解、停戦協定っすね?


元からジェイミー自体は

一切気にしてなかったみたいっすけど

途中から彼らも、手を出さずにいてくれたうえ


アジトまで黙ってくれていたんすから、相当に

理性のある、高貴なる一族だったって事っすね」


相変わらず口数の多い女だが、嫌いじゃない

むしろ話好きなボクとしては有難い限りだった。


「彼らは非常に冷静で、仲間思いだった

群れとして完成されている、強い種族だよ

ボクは好きだね、彼らのような在り方は」


「ジェイミーさん穏やかになったっすよね

やっぱり大自然の野生に暮らす方が

合ってたって事なんでしょうね」


ボクが手作りしたお菓子を

もぐもぐと頬張りながら、リリィが言う

`これ美味しいっすねー`などと感想を述べている。


「最近は戦いから心が離れる、絵を描いたり

水質を調査したり、機械をいじったり、料理

あるいは生態系の調査に、考察や研究に音楽


獣人の子供にお菓子をあげたり

散策したり、日光浴をしたりと

色々な`やる事`があって楽しいからね

好き勝手、自由気ままにやれているさ」


現に今だって、龍の巣の中に生えていた

刻むと甘く、すり潰すと辛くなる不思議な葉っぱを

加工して瓶詰めし、調味料にする作業をしている。


これが終わったら水質調査用の機械を

作る作業がある、コレが今後必要になるのだ

この世界にはあらゆる亜人種が存在するのだが


なんと面白いことに


彼らが飲むことの出来る`水`が、どうやら

それそれで異なっているらしい事が分かったのだ

そこでボクは、各地の水質を調べて数値化し

何か新しい発見は無いものか、と動いていた。


「ジェイミーさんって器用っすからねー

どんな事でも2度目からは出来ちゃう上に

速攻で仕組みを理解して、改良まで加え始める


吸血種だからーで今まで納得してたっすけど

自分が同じ立場になって分かったっす、これ


確かに種族としてのスペックは上がったすけど

やっぱり、ジェイミーさん固有の力っすよ

私はそこまで手広くやれはしねーっすもん」


頭の上に手を上げて、ムリムリと

横に振って見せるリリィだが、ボクは知っている

彼女も負けず劣らず器用で、優秀である事を。


彼女は順調に外の世界に根を広げ

情報網と人脈を形成していっている


もう間もなく、それらは機能し始めるだろう

彼女の人当たりの良さと、程よい軽薄さは

的確に彼らの印象に残り、そして利用される。


利用と言うと聞こえは悪いが、その実

情報屋なんて物は利用されて然るべき

つまり、思い通りで万事順調というやつだった。


「そういえばリンドさんの噂聞いたっすよ

なんでも各地で、兵器利用されない程度の

亜人種達の暮らしを良くする機械を


配って歩いてるらかいっす、なんでも

食料を保管する機械や、温度を調節する機械

自家発電でパワーこそ低いものの、便利で軽く

置く場所に困らない、最高の品々と評判だとか」


「あの子らしいね」


リンドと言うのは、ボクの親友であり恋人

あるいは彼女を子供の時から知っている親

元人間でかつ技術者、変わり者の機械いじり


豪胆で豪快で、さっぱりとした研究者気質の女

世界で5人だけとボクが定めた吸血種のひとり

ボクらの頼れる技術者、その人であった。


「もう確か800年?くらい会ってないっすよね

そろそろ何処かで、ばったり会う気がするっすよ」


他にも、フレデリックとジーンという名の

元人間の現在吸血種を加えた5名で

この2億年を生き延びてやってきたのだが


それぞれの身持ちや方針が固まり

吸血種としての実力を、ボクから認められ

免許皆伝を授けた頃、リンドがこう言った。


`あたしらはそれぞれ、やりたい事がある

別に二度と会えないって訳でもなしに、いっそ

バラバラに散って、やりたい事やるってのは?


ああそうだ!会う日や場所は

特に決めないでおこうじゃないか!だって

そっちの方が、いつかどこかでバッタリ会った時

その瞬間の喜びが大きくなるだろう?なあ?`


ボクらはそれに同意し、それぞれ

別々の目的を持って世界に散らばった

それが今から大体、1億年と数千年前


人類が戦争によって自滅して滅び

灼熱の大地と化した後、色々な後片付け

死体の供養や、家財道具、絵画や機械など


`このまま腐らせるのは勿体ない`

数々の品々を整理し、分配して


人間から、吸血種に変わった者たちへの

主にフレデリックとジーン両名に対する

ボク自ら、80年間寝ずのアフターフォローを行い


誰からともなくボクのことを

`吸血種統括`と呼び始めた日の出来事。


ボクらの間であの日のことは

と呼んで懐かしまれており

集まった際には、もっぱら話のネタとなるのだが。


そうか、リンドが。


「人嫌いだった彼女も、世界が亡び

新たな命が誕生した今となっては

元来の世話好きの気質が抑えられないらしい」


クックック……と、喉を鳴らして笑っていると

突然、リリィがソファの上で立ち上がって

こちらに人差し指を向け、大袈裟にこう言った。


「世話好きなのはあんたもっすよ、統括

あーんな手厚いアフターフォローは無いっすよ

私らがボスと呼んで慕うのはアレが原因ですし」


リリィやジーンは、度々このように言うが

それに対するボクの返しは、いつも決まっている。


「ボクはただ、責任があると思っただけだ

キミ達の在り方を、利己的な願いで歪めた責任

疲れず、体力が無尽蔵であるのならば、せめて


真に吸血種として成立するその日まで

1秒たりとも休むこと無く世話をして

戦い方を叩き込み、面倒を見る義務がある


それは当然のことであり

ボクの、友に対する親愛の証だったんだ」


多少、いつもより大袈裟ではあるが

とにかくボクは、当たり前のことを

当たり前にやっただけだ、それ以上はない


「もちろん、慕ってくれるのは嬉しい

あの時のボクの判断は正しかったよ

今では、ハッキリとそう思えているとも」


ある時は悩みもした、遥か昔の話だ

リンドやリリィ、フレデリックにジーン

本来は人として生き人として死ぬはずだった者達


ただ`失いたくない`と言うだけの理由で

彼女らの意志を無視し、利己的な願いで

吸血種という存在に作り替えた事に対して


いくらボクでも、思うところはあった

ある時、唐突にその考えが頭をよぎり

そこから一日中、部屋にこもって考えた結果


`ならば、ボクが全ての面倒を見ればいい`

という結論に到達し、その迷いは消えた。


全ては過去の話

今では解決した、かつての悩みの事

ボクの、80年間の献身の真実である。


「……そういう所も好きっすよ、私は」


「ボクも好きだよ、リリィ」


「やんっ……照れるじゃないっすか

リンドさんという者がありながらっ!


まあ、あの人そういうの気にしないっすけど

むしろガンガン推奨してくるっていうか……


昔から節操がないというか

誰彼構わず食いまくるって言うか

男も女も関係なく、自由すぎるんすよねー」


一応言っておくと、このリリィは

吸血種ジェイミーに惚れている。


それら恋心であり、憧れであり親愛

すなわち愛情、そしてボクはそれを受け入れ

ボクの恋人であるリンドもそれを知っている。


三角関係、しかし向いてる矢印は

決して一方通行では無い不思議な関係

リンドとボク、そしてリリィの性格が

極めて人間社会からは逸脱した物だからこそ

なり得た関係であり、ボクらの在り方そのものだ。


「ジーンさんとフレデリックさんは

南の方、虹の秘境辺りで夫婦仲良く

近隣住民さん達を助けながら暮らしてるらしいっす」


「あのふたり、とうとう結婚したんだね」


「たしか先週……だとか、噂で聞いたっす

次全員で集合した時はパーティっすねー」


ボクら5人が解散する際、フレデリックとジーン

ボクは彼らを離さず、2人で行かせることにした


あの二人は元々、国の`研究室`と呼ばれる

人道的でない研究を行う機関の出身で

多少倫理観は、並の人間とズレてはいるが


それでも、4歳の頃から闇社会に居るリリィや

世捨て人で大天才のリリィや、ボクと比べると

明らかに異質……というか、一般人に近いので


離すのは得策ではないと判断し

無理やり、2人をくっつけてやったのだ

両者は元々相思相愛であるので、きっと

そっちの方が良いだろうとは、3人の総意だった。


「一般人らしく、穏やかに暮らしてるんだね」


「死ぬほど強い上、優秀すぎる研究者なんで

リンドさん同様に暮らしを良くしてるらしいっす」


「特にフレデリックは強いからね」


彼は普段は大人しいが、戦いになると

非常に獰猛で、憎悪をむき出しにする

大人しいと言っても神経は意外にも図太く

フラッと危険地帯に踏み込んでは調査をし

よくリンドと議論を交し、楽しそうに揉めていた。


「何言ってるんすか、フレデリック所か

ジーンさんと合わせて1対2で戦っても

服の袖ひとつ触らせないくせに」


「吸血種統括として、1体4でも

圧勝するくらいの力は持ってないとね

上には上がいる、強さの限りは無いさ」


「ほんとストイックっすねぇジェイミーさん

向上心の塊、頭は柔らかくて発想が面白い

観察眼は悪魔的、趣味は多く、特技も多い

手先は器用で、習得速度が病的なまでに早くて

綺麗で、可愛くて、時々天然ポンコツやらかす


我らが統括様っすよ」


「どうもありがとう、嬉しいよ」


「素直でいいなぁ……可愛いなぁ……ほんと」


彼女がボクに見惚れてぐにゃぐにゃなのは

割と……というか、常にいつもの事なので

ボクにとっては見慣れた光景であった。


「ところでジーンに話があるんだが

リリィ、今度会う時伝えてくれないかい?」


「んー?なんすかー?なんなりと良いっすよ」


「この前言っていた高エネルギー体の件

目撃情報、及び裏付けが取れたと伝えてくれ」


「あれ、あの噂本当だったんすか!?

もしかして、電気の供給安定するすか!?」


どったんばったんと物音を立てる彼女

しかし、その反応は無理もない事だ

何故ならそれは、非常に革新的な話だからだ。


「熱エネルギーの変換は失敗だったからねえ

なにせ、絶対的に総量が足りなすぎる

おかげでオーブンの火力が出なくてさ


この前なんか、スポンジケーキを作った際

火力が足りなくて仕上がりがイマイチだったよ

素体はある物の、それらを動かすエネルギー

すなわち電気、電力の不足が深刻だったからね」


ボクがこんな灼熱の断崖絶壁に

身を置いている理由のひとつでもあるが

この、薄い血の膜で覆われた隔たりの向こう側は

近寄るだけで生物は燃え尽きる、獄炎の熱源だ。


故に


熱エネルギーを電力へと変換し

機械類を動かそうと考えたのだが

現実はそう上手くは行かないもので


効率が、いまひとつだったのだ

オーブンの火力が出ないのは困る

最近はお菓子作りにハマっているのだが

それらは全て、オーブンを使う物なのだ。


趣味の妨げは悪である、根絶すべきだ

その解決の糸口が、つい数ヶ月前に

ジーンという女の手によってもたらされた。


ちなみに彼女はボクと頻繁に

倫理観や価値基準の相違によって揉めており

揉める、というかボクは一切の反論をせずに

彼女の話を黙って聞いているだけなのだが。


まあとにかく、優秀な研究者であり

空中に浮かぶ高エネルギー体なるものが

存在するらしい、との情報をもたらしたのだ。


ボクは、その調査を進めた結果

ついに、所在を突き止めたのだった

リリィに頼んだのはその在り処についての言伝だ。


「これが詳しい資料で、こっちが

頼まれていた回収用の機材だよ


きっちり予備の分まで作ってあるから

早いうちに、結婚おめでとうの言葉と共に

2人に届けておいてくれ、頼んだよリリィ」


「まっかせてくださいっす!やったー!

これで地下トンネルに灯りを灯せるっす!

そうなればあとは、そこに通す空気っすけど

竜人族の風の妙技に任せる事になってるっす


私らは通り道と安全な環境を提供し

彼らは、鉱石の採掘及び権利をこちらに譲る

双方にとって利益のある完璧な契約っす!!


いやーあそこの開拓が進めば

私のネットワークも一気に広がるっす

そうなれば中継拠点を設営してぇ……」


ブツブツと、仕事の話に没頭して

ひとりの世界に入り込んだリリィを他所に

ボクは、ひたすら機械の組み立てを行う。


調味料の仕分けは、いつの間にやら終わっていて

今は、先程言っていた水質調査用の

検査機械の調整を行っている最中だ。


「いやー楽しくなってきたっすねー

血の力使ってトンネル作る時は、ジェイミーさん

私一人じゃちょーっと厳しいんで、お手伝い!


何卒お願いできねーっすかね?

もちろん!見返りはあるっすよぉ〜?」


「転移術式の設置についての最終段階

あれの調整の手伝いを、してもらおうかな」


「うわ、予想外の要求っすねえ

私はてっきり資源の何パーセントかを

譲渡する契約を交わすつもりだったんすけど」


「確かに、あそこの鉱石は希少だし

アクセサリー用に加工する価値はあるが

いまは、あの家具倉庫との行き来の短縮

不必要な工程の省略の方がたいせつでね」


「趣味優先っすねーほんとそういう所

2億年経ってもさーっぱり変わらないっすね」


「極めて普遍的な生き物だからね、吸血種は」


「……の割に、以前と比べると大分、相当

雰囲気か柔らかくなった気がするっすよ?」


「以前は戦いに明け暮れていたからね

人間が生きていた頃は、毎日が策略、計略

戦略、謀略と、常に休まず戦っていた物だ


別に苦痛でも何でも無かったけどね

戦うことは好きだ、退屈が何よりの敵なんだが

決して自由では無かった、それだけは確かだった


こうして大自然の中で暮らしてみて

怪物に絡まれたり、不便があったりと

質自体はあの頃とは比ぶべくもないが


戦いだけでは無い、あらゆること

一括りにして`趣味`にのみ没頭出来る

……うん、今の生活は悪くないよ?」


途中からリリィの質問を忘れ

好きな事を語ってしまったいたが

彼女相手なら、きっと問題はあるまいよ。


「楽しんでるのは伝わったっす

だから、質問に対するあんたの答えは

イエスって事で、勝手に納得しておくっすよ」


ほら、やっぱり。


それからしばらくの間

そうして近況報告をし合ったり

お互いの仕事を別々にこなしたりと


静かな時間が過ぎたのち


「……あー、そういえばなんすけどぉ」


やや言いにくそうに、頬をカリカリと掻きながら

切り出しにくそうな態度で、リリィが口を開いた。


ボクはそんな彼女の態度から

なにを言い渋っているのかを瞬時に予測

最近の様子や、話した内容から読み解いて

向こうが話す決心をつける前に、自分から


その話題について、こう触れた。


「黒狼族の件だろう?奴らがどうした」


「いやー、それがなんすけどねー……

ジェイミーさんに宣戦布告をしたっす」


一瞬、とんでもない話題の飛び方に

ボクの頭はフル回転し、次の瞬間には

その話に対する解決策を導き出していた。


バッと立ち上がり、機械をその場に放置し

リリィの真正面に回り込むようにして立ち

悩ましそうな彼女の目を見て、こう言った。


「よし、ならば迷うことは無いだろう

今すぐに出向いて即刻、連中を始末する」


目を見て数秒後、リリィは諦めたように

どデカいため息を1度、思いっきり着いて

半ばヤケになったように語り始めた。


「……はぁーやっぱりそうなるっすかぁ

いや、良いんすけどねーアイツら聞き分け無いし

取引だーつっても、契約全然守んないですし……


そのくせ自分達の要求は通そうとして

情報屋は無賃で働かねーっすよーって

そうしたらお前の所のボスがどうのーって言って

挙句に、ジェイミーさんに宣戦布告って……はぁ


頭ん中どーなってんすか、あの過激派ども

一族の長はすっごく良い方なんすけどねー

どうも跡取りの若大将がねぇ……仕方ないっすね


これでも我慢した方ですし、私ら

長のグルルコさんには伝えておくっす

ジェイミーさんはいつも通り好き放題

ええ、木っ端微塵に消し飛ばして下さいよ


ああ、奴らの素材、爪とか毛皮とか

全部お譲りするんで好きに使って下さいっす」


彼女の話を聞き終わる頃には、ボクは既に

準備を整え、洞穴の出口から身を乗り出していた。


そして、顔だけで後ろを振り返って

リリィに対してこう言うのだった。


「——じゃあ、行ってくるよ」


「やーほんと助かるっす……」


そしてボクは、血の力で作った翼を展開し

西に向かって一直線に飛び去るのだった。


✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱


この世界は極めて過酷な環境で

`適応できない奴は死ね`とでも言わんばかりの

生物に対して容赦のない構造をしている訳だが


その中でも取り分け厳しい環境

生き物にとっては地獄そのものな区画の事を

我々吸血種は`五大脅威`と言い定めている。


その五大脅威のひとつ、そこに

ボクがこれから始末しに行く過激派の一派

種族名、黒狼族、その名の通り黒い狼の種族で

人型をしており、非常に卓越した筋肉量を誇り


腕力だけで言えば吸血種以上という

亜人種の中でも屈指の武闘派種族なのだが

彼らが根城にする、通称`限界重力地帯`が

5つの脅威のうちひとつに認定されている。


限界重力地帯、もいう名前の通り

その地域では常に重力場が荒れ狂っており

ある時は通常の260倍にまで膨れ上がり

ある時は短期間に連続して重力場が巻き起こり


またある時は、に向かって

重力の向きが変わることもある、この世の地獄

黒狼族はそんな場所に、根を下ろしている。


彼らは強靭な肉体と恐るべき身体能力を保有し

常に変化し続ける自らの体重と、重力の向きを

その身一つでねじ伏せ、克服しているのだ。


そんな馬鹿なと思うかもしれない

しかし、ここはそういう世界なのだ

常識など通用しない魔境であるが故に


星の力とも呼べる重力を

ただ肉体の性能だけで抗いきった上に

問題なく動き回れるような連中もごまんといる。


そう、まさにボクのような


あるいは射す光の様な速度で

雷すらも追い越そうかというほどの

強烈な超速飛行により、現在ボクは

目的の場所に着いていた。


昼下がりの暗がり初め、日が沈みだし

世界が闇に覆われる前の、準備段階の時間

そしてこの領域は既に限界重力地帯である。


現在の倍率は斜め上から下に向かって

通常のおよそ648倍の負荷が掛かっている

もっとも、ボクには一切関係がないのだが。


上から見下ろし、標的の所在を突き止める

いた、あそこに群れを形成し戦闘訓練をしている

宣戦布告をしたのだ、当然の備えだと言えようか。


何せ相手はあの吸血種、それも

奴らのボスであるジェイミーなのだから

昼夜問わずに訓練をしても、やり過ぎではない。


ボクは上空にて、血の槍を展開

時間差で射出されるようにロジックを組み

他にも幾つか、効率化を図る為の仕込みを済ませ


その場から、一瞬にして姿を消した

重力に身を委ねたと言ってもいいだろう

その実、ボクが取った行動と言うのは

単に落下であり、墜落なのだから。


まるで天から落ちてくる裁きの光

ボクの体は真っ逆さまに、奴らの元へ

翼で全身を包みながらの落下なので、ギリギリまで

奴らにボクの接近を悟らせはしないだろう。


墜落開始から


滞空時間を経て


ボクの攻撃の射程圏内に

奴らを補足するまでの間は、実に3秒!


吸血種ジェイミーの肉体は、まるで

宇宙から降り注ぐ隕石のようなエネルギーを持ち

彼らの、はるか頭上を、微塵も殺意を込めず飛来し



「オイ!何者か来るぞ——」



その瞬間、異変を察知した群れのリーダーと

落下してきたボクとの目が合い……周りがゆっくり

互いを認識し、極限まで引き伸ばされた時間感覚は


それぞれの動作を色濃く鮮明に

そしてハッキリと、両者に認識させた。


接敵と同時、すなわち交差した一瞬前

ボクが血の力で作った翼を解除しており

翼の形を取っていた血が、無数の刃となって

四方から飛来する死の嵐となって吹き荒れ初めて


奴らの中の、一部の強者は

に気付き、対処した

すなわち、はるか後方への退避である。


ここの両者の判断は、いいや

強者の黒狼族が下した決断は


——大いなる間違いであるのだった。


地面に激突する寸前、ボクは分散させた

血の刃の雨を、再び背中へと集結させた

瞬間的に形成される機械仕掛けの翼は、容易に

使用者を物理法則の外へと誘い、有り得ざる挙動


例コンマ数秒など更に生ぬるい

もっともっと、もはや認識すら出来ない

極小しか存在しない、数値化は不可能な

それほどに小さな小さな間で方向転換を行い


地面に顔面が激突する直前!

ボクの進路は、突然前方へと変貌し

直線上にいた、逃げる姿勢を取った黒狼達を


1人残らず


研ぎ澄まされた吸血種の一撃

全てを切り裂く爪の斬撃によって


胴体から真っ二つに切り裂いて!

木々をなぎ倒して通り抜けたッ!


——ザッッッッッ!!!!!!


あまりに異質な音が鳴り、直後

爆発的な勢いで巻き起こる極大の衝撃波


ボクはすぐさま空中にて方向転換をし

未だに生き残っている、黒狼族の残党たち

たった今撃破した者より数段劣る一般兵に


真っ向から突貫を仕掛けた。


「ウォォォォォォアアアアアアーーーーーッ!」


咆哮!それは獣の雄叫び!

総勢24名の黒狼族達は、ボクに対して

むき出しの殺意を向けて踊り掛かった


そして、いざ肉薄するかと思われた


その瞬間。


空から降り注いだ無数の血の槍が!

彼らを、1人残らず地上に縫とめた


「——ガ……ァッ……」


頭、心臓を同時に貫かれた彼らは

その大した生命力により即死を免れるものの

間もなく繰り出される事となる、このボクの


都合24発の無慈悲な抜爪が

全く無抵抗と読んでも差し支えない彼らの首を

完膚なきまでに切り飛ばされる事になるのだが。


この時点で


勝負は決していた——。


──────────────────


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