第21話
「なあハルキ」
「なんすか?」
「お前、あの時どこまで考えてたの?」
「どの時でなにを?」
「いや、ペイドル遺体消失の時!」
「ああ、そんなもんなんも考えてるわけないじゃないすか。あの段階では俺はまだ遺体消失はガセだと思ってたんすから」
「え? だってお前、うちの町内会なんか遺体の次は生きてる人間も連れ去られるぞ、くらいの勢いだったよ?」
「あんた誰? 仕事何?」
「え? 私はツノダで仕事はイレイサーのプロデューサーをやっております?」
「なんで疑問形なんだよ。だいたいそんな大きな事件だったら国家情報保安局からここに連絡が入るだろうが!」
「え? あ、はい。まあそうっすね」
「なんなんだよ、ほんと時々あんたの下で働いてるのが不安になるよ」
「まあそう言うなよ。でもお前、そっちはニッタに任せてファンドリール追っかけてたんだろ?」
「まあね、あの段階で事件が繋がってるとは思わなかったんすけどね、キョーカの野郎にやられっぱなしは悔しいじゃないすか」
「お前ほんとに負けず嫌いだよなあ」
「んなこたあないすけどね。たまたまですよ、たまたま」
「あ、そうだ思い出した。こないだの出張でサカオカさんに地酒もらったんだよ、飲むか?」
「お、飲むのむ! 他のやつらが帰ってくる前に飲んじまおうぜ」
「あ、ダメだ」
「ん?」
「これ、ダメだ」
「どうしたんすか?」
「これはあの幻の地酒だ。これ、見ろ、ラベル! これはあれだぞ、すっごいやつだぞ! ダメだ、もったいなくて今開けらんない」
「なに言ってんすか、ツノダさん」
「ダメ、ダメダメ。これはここぞって時に取っておくべき酒だ」
「あれ? もう飲み始めるんすか?」
「なんだ、戻ってたのかって、お前何持ってんの?」
「ああ、これ、さっき行った酒屋で売ってたんすよ。あれ? ツノダさんが持ってるのと同じ酒っすね」
「ん? あ、ほんとだ」
「ああ、これ。この酒、来年からブランド一新するらしくて安売りしてたんすよ。いやあいい買物したっす。なんだか買物って安いって言われるとねえ、つい買っちゃうんすよねえ。ああ、ツノダさんも買ったんすか?」
「だとさ、ツノッチ」
「なんだよツノッチ、言われたことないよ。そうか、安売りか。そうか…… もう、飲んじゃうか? もう飲んじゃうか!」
「いいっすねえ! 飲みましょう飲みましょう!」
「しっかしあれだなあ、なんでこうなのかなあ、俺」
ツノダの苦悩は続く。
※イレイサー:File05~07_帝都の聖蹟:指令があれば「憑きモノ」を「ないモノ」に消します。
https://kakuyomu.jp/works/16817330651284346461
次回更新
2023/02/27 02:00
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