第11話
「なに書いてんの? ツノダさん。もう報告書は終わったんじゃなかったの?」
「何、って、お前、ほんといつも俺がどれだけ仕事してるかわかってないだろ? これはな、今後、イレイサーへの苦情を本にするために書いてるんだよ」
「やっぱり仕事してねえじゃねえか。んで?」
「んで? って別にこれはいいんだよ、誰にも見せるようなもんじゃないし、ま、メモだな、メモ」
「ふーん、まあいいけど。あ、そうだ。こないだのアキの報告書、あれ、どうなったの?」
「どうもこうもないんだよ。ハルキ、お前からも言ってくんない? 書き直してくれないんだよ、もうどうしたらいいかわからんよ」
「知らねえよ。ツノダさん、面白がってたじゃねえか、アキの報告書」
「いや、ダメだろ? 報告書に面白さ」
「あんたこないだヨシダさんにP.Sって書いてたじゃねえか、よくそんなこと言えるな」
「あれも怒られたんだよなあ、公私混同って」
「当り前だろ。んでもまあアキはもう書かねえだろうから、ユウジに書かせりゃいいじゃねえか」
「そうなんだけどなあ。アキがさあ」
「ん?」
「あの事件以来ユウジになんかしてもらおうと思うと必ずアキが殺し屋の目をしてこっちを見てくるんだよ。うかうか用事頼めないんだよ、ほーんと困ったなあ」
「けっ! 過保護も大概にしねえとなあ、やだやだ」
「お前が言うか? お前もそーとーだと思うけどなあ」
「なんだと?! 俺が過保護なわけねえじゃねえか」
「まあなあ、イレイスの時にニッタ投げ飛ばしたり口に放り込んだりしてるみたいだけどな」
「うるせえよ。あ、そう言えばツノダさん、朝から局長に呼ばれてなかった?」
「ああ! そうだ、それ、はい、それです。良かったあ、局長の奥さんからな、もらっちゃったんだよお! これ」
「なんすか、それ」
「ばっか、お前。今日は何の日だよ。お前もね、イレイスばっかりしてないでたまには街に出て流行の物でも見て回ったらいいんだよ」
「あんたが指令出してんだろうが! んで、なんなの、それ」
「ああ、きっとすっごいチョコとか入ってんぞ! フーッ!」
「何のテンションだよ、それ。なんだチョコって?」
「ほら、知らないだろ、最近発売されてな、これを一年に一回送るんだってさ。まあ俺もよく知らないんだけどな、甘くてな、とろけてな、それはもうチョコーって感じらしいよ」
そう言って紙袋を開け始めるツノダ。
「どんな感じだよ、それ」
ツノダが朝、局長から受け取った袋の中身を開く。
「これが? チョコ? なんか酸っぱいにおいがすっぞ? ま、まあいいか」
「ツノダさん。これ、ネバーッてしてるよ? 事前情報と違わないか?」
「そ、そりゃあ俺たちがチョコってのを知らないからだな。ま、食ってみりゃあわかる!」
そう言って一口食べたツノダが酸っぱい顔をして言う。
「これは、あれだな。海藻だな。チョコって海藻から作られるんだな。これは……チョコ?」
「ツノダ、おい、ツノダ。呼び捨てる。これは……チョコ? じゃねえよ。箱にモズクって書いてあんぞ、なんだこれ? こんなもん食えねえよ、なんだこりゃあ!?」
「なあハルキ。モズクってチョコなの?」
プロデューサーツノダの苦悩は続く。
※イレイサー:File00_イハインの動くミイラ:遺物に憑りつく「ある」者を「ない」物に。憑きものを払います。遺物ごと「ない」物にしちゃったときはごめんなさい。
https://kakuyomu.jp/works/16817330649310746393
次回更新
2023/02/16 02:00
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