おわり。

楠ノ木彩姫は可愛いと言わせたい。

 今日は朝から体調がよくない。

 保健室で少しだけ休んでから教室へ戻ろう。

 正直ここの匂いは好きじゃないけどこの際仕方がない。

 冷たく硬いベッドへ滑り込むと、カーテンで仕切られた隣からはすうすうと寝息のような音が聞こえる。

 その反対の窓側、グラウンドの方からかすかに聞こえる喧騒けんそうを耳にしながら、僕は目を閉じて呼吸を整える。

 するとすぐにと浮かんできた。


 澄ました顔。

 悲しそうな顔。

 ムッとした顔。

 笑った顔。

 そして、その視線の先。


「楠ノ木さんは今日も可愛いかったな」


「あら、つい偶然うっかり聞いてしまいました」


「楠ノ木さん、いつからここに!?」


「それでは、最終問題です。岡部君はこのあと何と言うのでしょうか」


「え……」


「今回、制限時間はありません」


「……」


「岡部君、頑張って」


「楠ノ木さんの事が好きです。だから、僕と付き合ってもらえませんか」


「……」


「せ、正解は……?」


「……」


「お断り……」


「え……?」


「しませんっ!」


「うわ、急に抱きついて……!」


「それでは正解のご褒美を差し上げます」


「あ……!」


「あら、リップがついてしまいましたね」


「ふ、不意打ちすぎるよ楠ノ木さん」


「これは私達だけの秘密ですよ、岡部君?」

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楠ノ木彩姫は可愛いと言わせたい。 ひなみ @hinami_yut

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