あとがき
*
一人、暗い夜道を歩いていた。
周囲に人影は存在せず、民家や街頭の明かりも無い。
そして時折聞こえてくるカラスの鳴き声がこの狭い道に木霊し私の思考を乱してくる。
私はカラスの声から逃げるように、この暗い道を足早に歩き続けた。
「━━━━」
そうして辿り着いたのは寂れた宿屋。
看板はすでにその役割を終えたかのように地面に倒れ、木で作られた外壁は長らく放置された影響でところどころが剥げ落ちている。
扉を開き中へ入るが、外と同様にこの宿屋の中も薄暗く、目を凝らそうとしても周囲の景色を上手く見ることができない。
私は目的の場所に向かうために壁を伝って宿屋の中を進んでいく。
こつり、こつりと、ブーツの足音を響かせながら進んでいくと、壁の感触が変わる。どうやらここが目的の場所のようだ。
「"幻影よ、虚ろの
彼女に教えてもらった詠唱を唱えると、壁に仕掛けられた幻影魔法が解除され、地下への階段が姿を現した。
階段を進んで行くと、その先には『食料保管庫』と書かれているルームプレートが掛けられた扉。
「………………っ」
食料保管庫の扉に触れると、禍々しい魔力の感触が肌に伝わる。
同時に深い悲しみと苦しみが頭の中を駆け巡ってきた。それも過去の勇者の冒険を描いた小説に出てくる魔王と同等と思えるほどの。
いくら私でもこれほどの魔力を感知したことがない。しかし今更引き返すことも私にはできなかった。
意を決して扉を開き中へ入る。
「…………シオン、戻ってきたんだね」
「ええ、取って来たわよ…………ケーア」
その部屋はまるで混沌ともいうべき場所だった。
何もない暗い部屋。そこに佇む緑髪で褐色肌の少女の姿。
彼女の足元には真っ赤な血で描かれた六芒星の魔法陣と囲うように置かれた六枚の銀貨。
そして、魔法陣の中心には一糸纏わぬ姿の真っ白な肌をした男性…………
ケーアはゆっくりと私に向かってその手を差し出した。
「…………それじゃあ持ってきた物をちょうだい」
「ケーア…………本当にやるの?」
「…………今更どうしたの? やるよ」
「考え直して。こんなの到底許されることじゃないの。それに成功するかもわからないのにこんな危険な…………」
「黙って!!」
甲高い声が部屋に響く。
普段物静かな彼女に似つかわしくないほどの大声。
その瞳には、暗い影が落とされている。まるで何かに魅入られたかのように。
「…………もうわかってるでしょ? ライングを救うにはこれしか方法が無いの」
「だけどそれは魂の冒涜に…………!」
「…………いいからやるの!」
そう言って彼女は私の手にあった『砕けた盾のかけら』を奪い取り魔法陣の上に置いた。
「…………ははは、これで準備は整ったね」
「ケーア…………」
もう私の言葉は彼女には届かない。
諦めた私は逃げるように赤い魔法陣から目を背けた。
「…………"魂よ、全ての循環を司る魂よ━━」
ケーアが魔法…………いや、儀式の詠唱を開始した。
「ひとひらの命を持つ我が願い給う。悠久に囚われし者の解放を我は望む━━」
この儀式はすでに滅んだ彼女の村に伝わっていた禁断の儀式。本来ならもうこの世界に残ってはいない禁忌中の禁忌。
━━━━即ち、死者を蘇らせる儀式。
「此方に置くは月の象徴、救われぬ魂を納める器なり。彼方に置くは
この世界において『死』とは、魂が肉体から離れ天へ召されることを意味する。
その離れた魂を無理矢理身体へ戻すのがこの儀式だ。
「名付けられし月の名は"ライング"、栄光の足跡を踏みし者。名付けられし縁の名は"サミー"、魂と共に歩まぬ者━━」
この儀式に必要な物は三つ。
生ある存在の血に、儀式の詠唱、そして魂を引き寄せるための供物だ。
特に供物に関しては特殊で、『蘇らせる者と強い繋がりを持った者の品』が必要だ。
蘇らせる者の品では魂が強く結びついてしまい、逆に魂が反発して離れてしまう危険があるからだ。
「この場において我が願い給う。囚われし魂をこの器に納め給え━━」
瞬間、魔法陣が赤い輝きが発せられた。
光は徐々に強くなり暗い部屋を埋め尽くすように広がっていく。
「━━
詠唱が終わり赤い光は閃光のように瞬き、私たちを包み込んだ。
光が治まり、目を覚ました私は暗い部屋を見渡した。
そこには、地面に倒れたケーアと変わらず白い肌をしたライングの死体だけがあった。
「…………当たり前よね。死んだ人間は決して生き返らないのだから」
あの赤い光はどうやら目の錯覚なんだろう。
そう私は自分の心を納得させて、倒れているケーアを抱き起こした。
「…………ん」
かなりの疲労があったのだろう。一仕事を終えた彼女はぐっすりと眠りに着いていた。
私は彼女を抱えて、部屋の扉を開いて出ようとした。
━━ガタッ
その時。私の背後から物音が聞こえて来たのだ。
そんなはずは無い。この部屋にあるのは儀式に必要な道具と彼の死体のみなのだから。
だが、それでも。私の心には一抹の不安と希望が入り混じっていた。もしかしたらと。
「━━━━」
恐る恐る、慎重に。恋愛小説に出てくるキスシーンのようなゆっくりとした動作で音のした方向へ顔を向けた。
「……………………」
「━━━━うそ」
信じられなかった。本当に嘘だと言って欲しかった。
その白い肌、正しく死を象徴していた白い肌の彼が起き上がっていたのだ。
彼の濁った水色の瞳は虚空を見つめ、蘇ったことに喜ぶでもなく、一糸纏わぬ姿に混乱するでもなく、ただ一言。
「あぁ、そういうこと」
━━━━こうなるの…………か。
と、まるで誰かに話しかけるかのようにその掠れた声を響かせるのだった。
――――――――――――――――
『ブルーコリーハート〜異世界転生した僕の青い物語〜』の作者、ジョン・ヤマトです。
まずは本作品を読んでいただき誠にありがとうございました!
ここまで執筆できたのも読んでくださる皆様のおかげです。
私自身、作品を最後まで書き切れるとは思っていなかったので、しっかりと終わりを迎えることができて本当に嬉しいです!
そして、次回作に関してはまだ未定ですが、書いていきたいとも思っております。
キャラについての疑問や、その他気になったことがあればお気軽に質問してください!
そして、感想やレビュー、コメントを残していただけると今後の活動の励みになります!
改めて、本作品を最後まで見ていただき本当にありがとうございました!
またあなた様と、私の作品を通してお会いできるのを楽しみにしております!
ブルーコリーハート〜異世界転生した僕の青い物語〜 ジョン・ヤマト @faru-ku
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