【phase5】やっと会えた
――その晩は、まったく眠れなかった。
「……朝一番に出向いたら、迷惑かしら」
でも、居ても立っても居られなくて……ユーリさまのお部屋に行くことにした。
ユーリさま、お怪我はだいじょうぶかな。
『毒』を探してたって、どういうこと?
その『毒』を何に使うの?
分からないことだらけ。不安で、勝手に足が早まってしまう。
ユーリさまの部屋のドアを、ノックしてみた。
――返事はない。
嫌な予感がした。
「ユーリさま? 朝早くにごめんなさい……ミーリャです」
失礼だと分かっていながら、ノックを重ねる。
「ユーリさま。いらっしゃいますか? お体は、だいじょぶですか? あの……すみません、ユーリさ――」
かちゃり。と、静かにドアが開いた。
「おはよう、ミーリャ。こんな早くに、どうしたの?」
疲れを残した表情で、彼は部屋から出てきた。
「眠れなかったのかい?」
目をそっと細めてわたしを見つめ、わたしの頭をなでようとしたのか、手を伸ばしてきた。
でも――
「なにしてらっしゃるんですか? アポロ殿下」
わたしが答えた瞬間に、彼の手は、ぴくりと止まった。
「どうして、ユーリさまの真似なんかするんです?」
彼――アポロ殿下は、気まずそうに美貌をゆがめた。
「そもそも……どうしてユーリさまの部屋から、アポロ殿下が出てくるんですか? ユーリさまも中にいるんですか?」
返事に詰まるアポロ殿下を見て、嫌な予感がした。
「なかに入れてください! ……失礼します!」
「おい、君、やめろ」
アポロ殿下がわたしを押し戻そうとするのも聞かず、私は無理やり部屋に入った。そこで見たのは――
「ユーリさま!?」
死んだような血色になったユーリさまが、ベッドに倒れ伏していた。
サイドテーブルには、昨日の『毒の小瓶』が置かれている――小瓶を満たしていた赤い液体は、ほとんど空っぽになっていた。
「……なんで、」
なんでユーリさまが、毒を飲んだの?
なんでユーリさまの部屋に、アポロさまがいるの?
なんで。なんで……なんでなんで……………
「落ち着け、ミーリャ。これは――」
わたしの肩に触れてきたアポロ殿下の手を払い、わたしは彼に掴みかかった。
「どういうことですか!! まさか、あなたがユーリさまに毒を飲ませたの!?」
アポロ殿下は答えない。気まずそうに、口をつぐんでいる。
わたしはアポロ殿下を突き飛ばし、ユーリさまのベッドに縋りついた。ユーリさまは、とても血色が悪いけど――生きていた。呼吸に合わせて胸がかすかに上下している。
「生きてる!! お医者様を呼ばなきゃ!」
「ダメだ。余計なことをするな、ミーリャ」
「なにが『余計なこと』よ! 弟を殺すつもりなの!? あなたはやっぱり人殺し――」
わたしの声は、阻まれた。
ベッドから身を起こしたユーリさまが、後ろから抱きしめてきたから。
「――違うよ……ミーリャ。兄上は、僕を……見守っていただけだ」
絶え絶えの息で、弱々しい腕で、ユーリさまはわたしを抱きしめていた。
「どういうことですか!? どうして毒をユーリさまが……!?」
ふり返ったわたしに、ユーリさまはいきなり唇を重ねてきた。
――――?
体が熱い。
血が、骨が熱い。何が起きているの?
…………ユーリさまとアポロ殿下が、そろって私を見つめている。
驚いた顔のアポロ殿下と。とても嬉しそうなユーリさま。
「ほらね。やっぱり君が、僕のミーリャだったんだ」
―――どういうこと?
アポロ殿下が、机から手鏡を取ってきてくれた。鏡でそっと、私を写す。
「え? 私……?」
私の姿は、18歳くらいの大人になっていた。
「……どういうこと?」
「君の呪いを解いたんだ。君に憑依していた悪魔を選択的に殺す『毒』を、口移しで君に与えた。この毒は、こういう投与法でなければ効かないそうだ」
今の姿が、君の本当の姿だよ。と、疲れ切った笑顔でユーリさまが言った。
「やっと会えた。白葉月の森の魔女――ミーリャ。僕の愛しい人」
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