勘違い

 ここを抜けると静岡まであとちょっと。僕は、今、祖父母の住んでいる静岡に向かっている。


女性の声のようだが、機械の声が静岡の1つ前の駅である新富士に着くアナウンスを入れた。それから、5分ほど経つと新幹線は減速し始めた。そして、完全に止まつろたのを窓から見ると、ドアの開いた音とともに大人が重そうなキャリーバックを引きながら忙しそうに早足でエスカレーターに向かっていくのが見えた。


 すると、中に子連れの夫婦が乗って来た。子供の年齢は0歳〜3歳ほどくらいで3人いた。1人は母親に抱えられていた。他の2人は父親と手を繋いでいたが、何かを強請っている感じがした。沢山の荷物を持った家族はチケットを確認しながら、通路を行き来していた。新幹線が出発した。僕は、しばらくしたら、静岡に着くと思ったため、出していた勉強道具をまとめて、カバンにしまい始めた。


トントン


誰かに肩を叩かれたので、後ろに振り向いた。すると、そこには例の父親がいた。


母親や他の子供はどうなったのだろう?


と思い、周囲を見渡すと僕の後ろの座席に座っていた。僕は、自分が席を少し倒していたため、直して欲しいと言われるのだと思った。


「あ、すいません。直ぐに直しますね。」



と言った。すると、


「いや、君の座ってる席、私の席なんだけどさ。」

「えっ。そうですか。ちょっと確認させてください。」


そう言い、僕は財布の中にある封筒からチケットを出した。そして、座席番号と見比べた。


○○A

○○A


チケットにある座席番号と自分の座っていた座席番号を見たが、何も違わなかった。


「いや。。。ちょっと見て欲しいんですけど。。。」


そう言い、父親に見せると父親は最初は不思議そうな顔をしたが、自分のチケットを取り出して、僕に見せてきた。


○○A


確かに一緒だった。相手の顔を見ると、思い荷物を持っているからか少しイライラしている表情になってきていた。そこに、タイミング良く駅員さんが通りかかった。


『すいません。』


僕と父親は同時に声を掛けた。


「どう致しましたか?」


駅員さんは柔らかい声で答えた。


「あの、ちょっと見てほしいんですけど。」


と言い、2人のチケットを見せた。


「はい。」

「座席番号が一緒なんですが、これってコピーミスですかね?」

「。。。」


駅員さんは2枚のチケットと座席表を見比べた。


「番号は一緒ですね。。。」


駅員さんはこの難問を解くのに苦戦していたが、その後、チケットのある部分を指差した。


「こちらは、静岡からとなっておりますので。」


最初、僕と父親どちらも意味がわからなかった。しかし、よく見るとわかった。


僕のチケットは「東京~静岡行き」で、父親のチケットは「静岡~名古屋行き」だったのだ。つまり、父親は僕が降りてきた後に僕の席に座る筈だったということだ。駅員は直ぐに巡回に戻った。父親はその後、恥ずかしそうに妻たちの席に座った。他の乗客はこのトラブルを面白そうに見ていたため、最初は一方的だった父親は自分が間違っていたことに気が付くと、恥ずかしそうにしたのだ。

 

 その後、静岡に着いた際に、僕はチラッと後ろを見た。3席を陣取っていた家族は父親、母親、赤ん坊が上の席に座り、他2人は床に座らされていた。僕は、祖母の待つ改札に向かった。向こうで、手を振っている老人がいたので、僕は、はにかみながら歩いて改札を出た。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

わだかまり 三十六計逃げるに如かず @sannjiyuurotukei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ