わだかまり

三十六計逃げるに如かず

思い違い


「井上、それ凄いね!どうやって作ったの?」

「あ、栗林じゃん。これ?映画のキャラクターだよ。」

「ヘ〜。どれくらいかかったの?」

「えっ、まぁ。3学期中ずっとこれやってたからな〜。」


キーンコーンカーンコーン


昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴った。


「あっ、俺次家庭科だ。」

「あぁ、俺は道徳だったな。」

「じゃあ、井上。」

「うん。」


ガシャ


あっ。。。


「あっ。」


2人とも声を出してしまった。


「お〜い、チャイムの前に着席しろよ〜!」


先生が読んでいた。


「ごめん。俺行かないと。。。」

「。。。」


井上は教室に向かって走って行った。あいつは俺の方を一度も見ずに、今までよりも速く走って行ってしまった。


「井上くん、授業始まっちゃうよ。」

「先生、僕が作ってたの、壊れちゃいました。。。」

「えっ!でも、授業始まっちゃうよ。」

「はい。。。とりあえず、片付けだけします。。。」


僕は心の中で泣きながら、箒で崩れたピースを集め、残っていた部分と一緒に置いて図工室を去った。僕は、階段を駆け上り3階まで来た。途中で本鈴が鳴ったため、さらに急いだ。教室では既に授業が始まっていて、皆んなは道徳の教科書を開き、先生は黒板に何かを書いていた。僕は、気まずかったが勇気を出して扉を開いた。その瞬間、クラス全体の視線が僕に向けられた。僕は顔を下に向けながら、席に向かった。


「井上くん、何で遅れたの?」

「あの。。。図工で作っていた作品が壊れて、破片を集めてました。。。」


僕がふと、黒板に目を向けた。


『すんまへんでいい。』


とあった。


「でも、授業に遅れたらダメでしょう。」

「すんまへん。」


俺は、黒板に書いてあったことが自分に対しての言葉だと思った。


「えっ?」

「いや、すんまへん。」


僕は何で「えっ?」と聞かれたのかわからなかった。


「いや、あなたはまだ授業に入っていないでしょう。」

「えっ、でも書いてあるじゃないですか。」


僕は黒板の文字を指差しながら言った。先生は後ろを振り返って言った。


「井上くんは、『すいません』って言わないといけないでしょう。」

「。。。すいません。」

「はい、じゃあ授業の続きです。」


先生は授業の続きを始めた。どうやら、音読の途中だったらしい。


「ねぇ、ページどこ?」


僕は隣の席の子に教科書のページを聞いた。


「ここ。」


その子は素気なく数字を見せてくれた。


「ありがとう。」


そう言いながら、ページを開いた。


「じゃあ、佐藤くん、題名を言って、1文読んで。皆んな1文ずつ読んでいってね。」


先生は佐藤から音読を始めさせた。


「えっと。。。『すんまへんでいい。』。〜」


僕はその時心の中で


「あっ!」


と言った。




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