ニートは初恋の人を知る。

夕日ゆうや

駄目人間な俺が変わる10分前

 朝露の残る明け方。

 俺は犬を連れて歩き出す。

 散歩を毎日の日課にし、ご近所さんに挨拶をする。

 近未来になってもこの日課は変わらないのだろう。

 こんな日課があるから俺はひきこまらずにいる。

 ニート一歩手前。

 社会不適合者。

 駄目人間。

 そう言われても仕方ない生活を送っている。

 実際、俺は三十代にもなって実家で毎日をゴロゴロと過ごしている。

 頑張っていた学生時代をふと思い出すと同じ人間とは思えないほど、疲れている。

 勉強してきた意味とはなんだったのだろう。

 頑張ったのに社会に出るとなんの役にも立たなかった。

 それなら社会での生き方を教えて欲しかった。

 こんなバカな俺でもできる生き方を教えて欲しかった。

 川沿いの原っぱにくるとリードを長めにしてポチを自由にさせる。

河合かわいさんの娘さん、離婚したんだって?」

 おばさまがたの井戸端会議が聞こえてくる。

 河合さんの娘。

 河合夏美なつみさん。旧姓、岡崎おかさき

 俺の同級生で学校一の美少女だった。性格も良く優しく大人しい印象があった。喧嘩しているところを一度も見たことがない。

 その河合が離婚とは世知辛い世の中だ。

 そんな話を聞くと心の中がざわつく。

 俺はポチを引き寄せると、散歩を再開する。

 河合には娘さんもいると聞く。

 もう俺の知っている河合ではないのかもしれない。

「ワンちゃんだ!」

 駆け寄ってくる小さい女の子。どこかで見たような顔をしている。

 しゃがんで視線を合わせる俺。

「なんて言う名前なの?」

 女の子は聞いてくる。

「あー。ポチだよ。優しく撫でてあげて」

「待ちなさい。芽依めい!」

 聞いたことのある声。

 俺は立ち上がり声のする方を向く。

「あ。達郎たつろうくん……?」

「かわ、岡崎……」

 こうして俺と彼女は再び出会った。

 初恋の相手。

 彼女にはもう娘がいた。

 でも、俺は変われる気がした。

 もう一人ではいられない。

 そんな気がした。

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