どっちでもいいよ
@Non_23
どっちでもいいよ
「今日さ、焼肉としゃぶしゃぶどっちがいい?」
「タピオカ、ミルクティーと抹茶どっちにする?」
「Beef or Chicken?」
「どっちでもいいよ」
私の悪い癖。わかってる。
何でも選択を誰かに任せちゃう。そんなこと言っても相手を困らせるだけだし、大体の人が本当の親切心で聞いてくれているから遠慮してるって思われてしまう。
だけど、
「どっちでもいい」
これほど便利な言葉はない。
毎日毎日考えることは山ほどあって、それこそ今日何するとかこれからどうするとか常に何かを選択しているのに、その上わざわざ2つの選択肢を出されたらそれだけで思考がパンクしてしまう。
だから
「どっちでもいい」
この言葉に頼ってしまう。これで全て解決。結果は最善。選択肢は無理に増やさなくていいんだ。
_______
「ねぇ、カルナってさ、いつもどっちでもいい、だよね。自分の意見言えてる?」
ラテアートを待っている間視線をスマホに落としていた私の頭上から声がする。今日は週一で会う高校からの友達リサとラテアートが有名なカフェに来ている。
内心、あ、ばれたと思ったが
「そうかな、、?」
としらばっくれてスマホを置き、視線を合わせる。
「そうだよー!さっきだって私が新作のタルト食べたいからってケーキセットにしちゃってさ、ペア割だから2人で頼んだ方が安いってカルナもケーキセットにしてもらったし。」
「全然大丈夫だよ!気にしないで。私も新作の洋梨とレモンクリームのタルト食べたかったし!」
「なら良いんだけど。」
少し眉を下げてまだ何か言いたそうなリサの顔はラテアートが到着するとたちまち目が輝きだしてスマホを構え始める。
そんな表情豊かな友達を目前にこの子は優しいなぁと改めて思う。こんな適当人間にまで気を遣ってくれるなんて。
実際、逆に私は決断してもらった方が楽で助かる。本当にどっちでもいいからどっちでもいいと言っているわけで、そこが優柔不断とは違うところだ。これまでどっちでもいいと言って決まったことに後悔したことはないし、やっぱりあっちって言っとけば良かったなんて思ったこともない。だから、今目の前に置かれたラテアートをやっぱりカフェラテじゃなくてカプチーノにすれば良かったとか、うさぎよりもリサのクマのデザインの方が可愛いとか、ラテアートだけで良かったんじゃないかなんていう考えが頭をよぎるなんて全くない。むしろ、そんな選択肢があったんだって気づくだけだ。
「そうだ、カルナ、サークルはどうなの?」
ラテアートとタルトの鑑賞会を一通りした後、顔をにやつかせてタルトを一口食べたリサが幸せオーラ全開で話しかけてきた。
「ん?んーふつー。」
一口飲んだおかげで崩れたうさぎがぼやけてつまんなそうな顔になる。
激しい部活は高校までで十分。大学はゆっるいのに入ろう!と決めていた私は週一で活動の文藝サークルに入った。といっても、この決断も文藝サークルとミステリー研究サークルとで迷い、友達にどっちでもいいよーと言って決めたものだ。集まって本を読んだり、小説書いたりのほほんとしている。別にふらっとやってきてスマホをしばらくいじってまたふらっと出て行く人もいる。とにかくゆるくて自由。そんなつまんないサークルにリサが話を振るのはちゃんと訳がある。
「あ、西田くんのこと??」
わかってるくせにあえて聞いてみる。西田くんとは、高校2年の時、リサのクラスにいた長身で大人しめの男子だ。たまたま一緒になった図書委員で一緒に仕事をする中で気になりだしたという。高3のときは私が同じクラスで、偶然同じ大学になったのでリサはよく西田くんの様子を聞いてくる。リサは何気にポーカーフェイスだからこういう時にわかりやすく動揺したりしない。
「いや別に」と何気なく言う様子は3年間付き合ってきた私でも本当か本当じゃないか本心がわからないくらいだ。
しかし、リサは嘘をつく時ある癖が出る。前髪を触るのだ。今回もゆるく巻いた前髪に手で切れ目を入れるように触れた。
「気になってるくせに〜」
茶化すように言ってタルトを一口口に入れる。タルトの美味しさにリサを茶化すにやけ顔で上がった口角がさらに引き上がる。
「じゃあ教えてくれなくていいですー。ってかカルナの顔すごいキモいよ」
相変わらず前髪を撫でるリサの手が私の顔について言った途端 前髪から離れたのでなんとなく凹む。
「ほんとにリサは可愛いなぁー、安心しなって。西田くんは今んところフリーだし、そもそもそんな喋らないから女子もあまり近づいてないよ。」
おろしたストレートヘアを耳にかけながらそう報告してあげるとリサはポーカーフェイスを保ちながらも口の端でちょっと笑ったように見えた。ほっと胸をなでおろしカフェラテを口に運ぶ。うさぎはちょっとだけ悲しそうな表情になった。
その後は私の話になったが、誰もいい人はいないし、男子との交流も全然ないし、と何もいいネタはないまま終わった。
ウケたネタといえばサークル関係で打ち上げに行った時、そこそこ陽キャな男の先輩が絡んできてちょっと期待してたら、調子に乗って飲みすぎて酔った挙句、ペラペラと饒舌にサークル新入生の1番可愛い子の魅力を語り出し、本性がサークル中にバレた話だ。私を通じて仲良くなろうとしてたみたい。下心丸出しでサークル全体から引かれた先輩は、酔いが覚めた後に友達からその恥ずかしい一部始終を笑われ、新入生の子に謝ったらしい。変なふうに利用されて可哀想な私と、いろんなものを失った先輩の話をするとリサは特徴的な変な笑い声で笑った。あれからその陽キャな先輩はサークルに来ていない。
「その先輩ほんとおバカだね。西田くんに変な影響与えないでほしいわー」
リサはタルトで緩んだ頰をいっそう緩ませてついにその名前を出した。その時のリサがあまりにも可愛くてちょっと切なくなった。
「やっぱ西田くんのこと気になってんじゃーん!」
タルトの最後の一口を口に入れてからかい気味に笑い、落ちてきた髪をかきあげた。
「リサは可愛いからもっと押せば絶対いけると思うんだけどな。」
リサは少し笑って、辛うじて鼻だけが原型をとどめていたクマのラテラートにトドメをさすと、
「そういうお世辞はいらないです。」
とわざとすましたような顔になって、お気に入りだという有名ブランドのショルダーバッグから(これまたブランド物の)ワインレッドの長財布を取り出した。リサは私と違ってはっきりとしたこだわりがあり、自分が決めたことはぶらさない。私なんてリサにおすすめされたデザインの普通のトートバッグからおばさんが中学生のときに買ってくれたボロい財布を取り出しているくらいだから、いかに自分が適当人間なのかがリサといるとより一層際立たせられる。決してオシャレだと胸を張って言えるほどでないお財布の中を小銭を求めて漁っていると、
「ちょっとお手洗い行ってくる」と頭上から声が聞こえた。
「いってらー」と軽く抑揚なく言って顔を上げると既にリサはカフェを出たところにいた。
そんなに緊急事態だったんだな、と思いつつ伝票に目をやる。2人で2116円、1人1058円。小銭はちょうど百円玉と十円玉と五円玉と一円玉が一枚ずつ入っていた。サークルはお金かかってないし、昨日ちょうど給料日だったので今のうちにリサの分も払って驚かせようとレジに向かった。
お会計を済ませてカフェの前で待ってるとスマホが振動した。バイト先からだ。電話の向こうからのんきな店長の声がする。
「カルナちゃーん突然ごめんよ〜今、新作の名前考えてて〜スペシャルホワイトベーグルとワンダフルホワイトベーグルどっちがいいと思う〜?」
先週完成した!と店長が歓喜していたのはこの新作のことかと納得したのと同時にあまりちゃんと聞き取れず違いがわからなかったので、つい「あー、どっちでもいいと思います。」と適当に返してしまった。「えーカルナちゃんそれは困るよぉ〜。僕的にはね、かなりホワイトチョコを入れたから〜、、、」と店長の終わりが見えないトークが始まってしまったので「あ、すみません!電車乗るので!」と言って電話を切る。
ひと段落して息を吐くと、またスマホが振動した。今度はラインだった。
サークルのトークルームの通知が立て続けにスマホのロック画面に表示された。
今度の夏の合宿の行き先について多数決がとられるようだ。軽井沢か熱海、正直どっちでもいい。
どっちも行ったことないからわからないし、リサが帰ってきたら聞いてみようと思ってトーク画面を閉じた。
そこに西田くんからメッセージが入った。
「今から大学来れない?」
何というタイムリーなラインかと、リサに話してみるネタが1つ増えた。
もし予定がなければリサが西田くんに会えるチャンスだと思ったのだ。
大学はここから一駅行ったところにあるし、徒歩圏内なので、「食後の運動にちょうどいいかもね」と前髪をいじるリサが想像できた。
カフェを出て左の突き当たりにあるRestroomの文字に目をやっていると、スマホがまたもや振動した。
「ごめ、さきかえる」
リサからだった。
よほど慌てて打ったのか、リサにしては珍しい脱字だったが、そんなことよりどこか悪いのかと心配になった。
「大丈夫?」と打ち返して電話をかけようとした時、着信があり、急いで出た。
「もしもしリサ!?大丈夫!?」
「わ、びっくりした。ちげーよ、オレ。」
「あ、西田くん?」
慌てすぎて、画面の名前を見てなかった。
「ごめん、びっくりしたよね、」
「全然大丈夫だけど、なんか取り込み中?ライン見た?」
あ、リサに聞こうと思ってたんだった。
「大学来れない?ってやつ?なんかあったの?」
「そうそう、今さー次の月刊のテーマ決めてんだけど、2択で行き詰まってんのよ」
「えー、それ多数決とかで決まらないの?」
「今いるメンツだとちょうど半々なんだよ、お願い!一瞬来てくれない?」
「えーでも、」
リサの顔がちらつく。
「夜奢るから!」
すごく断りにくくなってきた。
通話中のまま、リサのトーク画面を開くと未読のままだ。ま、いっか。
「わかった、行くよ」
「助かる!まじありがと、そういえばすぎるけど、最初慌ててたやつは大丈夫なの?」
「ん、大丈夫大丈夫、じゃあ後でね!」
電話を切り、髪を耳に掛け直す。
そのままRestroomの文字に背を向けて歩き出した。
大学に着いたのは16:30を過ぎた頃だった。
ゆるーくサークルに参加している私からしたら月刊誌のテーマなんて関係ないわけだし、2択なんてどっちでもいいわけだが、西田くんのかきたいテーマの側について投票した。結局多数決で勝ち、締切日などを決めて大学を出たのは18:00過ぎだった。
「まじでありがとう!俺絶対こっちじゃなきゃ書けなかったから。なんか好きな物食べに行こ」
他のメンバーと別れ、最寄駅の方へ2人で歩き出す。
あーリサも来られればなぁ。
いまだに返信が来ないリサとのトーク画面を眺めながら
「うん、何食べよっか〜」
と軽く返す。
「カルナ食べたいもんないの?俺はラーメンか寿司かな」
「うん、私そのどっちでもいいな」
「まじで?じゃあ駅前に新しくできたっぽいラーメン屋行かね?」
「最初からそこ行きたかったんでしょ笑」
西田くんも自分の意見が1つに固まるタイプだ。一緒にいると楽だし、決まらない時に決めてくれるのはありがたい。
西田くんは大学の寮で生活している。私はリサと行ったカフェの最寄駅の、次の次の駅で一人暮らしをしているので、20:00過ぎにラーメン屋を出てすぐの駅の前でバイバイした。
電車に乗ってふとラインを見返すと、夏の合宿の行き先についての投票がスタートしていた。さっきまで一緒にいたのに、共通のバンドの話で盛り上がりすぎて西田くんに聞きそびれたのを後悔した。リサに聞いてみようと再びトーク画面を開く。
最後に送った「大丈夫?」にはまだ既読すらついていない。
心配だったが、冷静に考えると、勝手に帰ってその後連絡もしないって結構失礼じゃない?って思えてきた。
ため息をついて、ラインから離れ、ワイヤレスイヤホンを耳に装着する。
シャッフルで曲を流し、真っ暗な窓に映る自分を視界の隅にとらえた。空は曇っていて、星は見えなかった。
2曲目が終わらないくらいで最寄駅に到着した。早歩きで5分の道のりも、アップテンポの曲を聴いてればすぐだった。
一人暮らしで住んでいる割と新めのマンション。今日はちょうどいい時間だったのか、エントランスに3.4人の人がいた。前の人に続いて自動ドアを通りぬけ、ポストを確認し、エレベーターで4階へ向かう。他の住民の皆さんはもっと上の階だったみたい。
今朝ぶりの部屋の空気に触れると急に疲れが押し寄せてきた。すぐさまベッドに倒れ込みたいのを何とか抑えて、そのままお風呂場へ向かう。眠気と戦いながらドライヤーで髪を乾かしていると、スマホに通知がきた。
画面に表示されたメールの差出人には、好きなバンドの事務所の名前があった。
急いでメールを開くと、ライブのチケット当選と書かれていた。
「ええ!やったぁ!」
ドライヤーを持っているのも忘れて立ち上がり、思い切りドライヤーに頭をぶつけた。
「いたっ!」
少し冷静さを取り戻し、メールをスクロールしていくと、初日のライブ限定でリストバンドのプレゼントがあることがお知らせされていた。黄色か紫で選んで今週中に返信しないといけないらしい。
うわー、、どっちでもいいなぁ
とりあえずファン仲間の西田くんにメールのスクショを送ることにした。当選した報告とリストバンドのスクショをトークに貼り付けてそのままスマホを切り、ドライヤーを再開した。
今日はよく選択を迫られるなぁと思って、やっとこさベッドに倒れこむ。いつもの倍くらい使ったんじゃないかと思われる脳をいたわってしばらく目を閉じているうちに意識が吸い込まれるように飛びそうになった。
(ピンポーン)
意識を取り戻させたのは来客の知らせだった。
?こんな時間に?リサ?
急に帰ったこと謝りに来たのかな
「はーい」
ドアを開いて私は固まった。
体に信号が走って急いでドアを閉めようとした頃にはもう遅かった。
私は部屋に押し込まれ、急に押し入ってきたそれの後ろでドアは静かに閉じた。
押された衝撃で冷たい床に倒れ込んだ私を
玄関で見下ろす不敵な笑みはサークルの打ち上げで見たあの顔だった。
_______
カルナは嘘つきだ。
親友のカルナは私にずっと隠していることがある。ずっと一緒にいるのに。1番近くにいるのに。話してくれない、それどころか嘘をついている。なんでそんなことがわかるかっていうと彼女は嘘をつくときに必ずとる行動があるから。
今日一緒にカフェに行った時もその動作をした。そしてそれは決まって西田くんの話をしたとき。もしかして、と思ったけど信じたくなかった。信じないようにしていた、でも、カルナが私が選んであげたトートから出したお財布、あのお財布についてたキーホルダーは…
私が西田くんにあげたものだった。西田くんの好きなバンドのキーホルダー。あんなに嬉しそうに貰ってくれたのに。
その代わり、私にも秘密がある。カルナのパパのことだ。カルナのパパは上場企業に勤めていて、一家はとても裕福だ。
カルナには兄弟がいないし、カルナがファザコンなわけでもない。
寂しくなったパパは…うん。そういうこと。
私はカルナには内緒でカルナのパパと会うようになった。いわゆるパパ活はびっくりするくらい上手くいった。うちのパパとママがやってる小さい飲食店なんかより、豪華で高いレストランに行ったり、自分じゃ絶対買えないブランドのバッグや財布が手に入ったり…高校2年生で恋をした私は、もっともっと自分に自信をつけようと、パパ活にのめり込んだ。大人に近づいてる、西田くんに好きになってもらえる!って。
そんなこんなでパパ活は大学に入っても続いた。
なのに…あの日。
カルナは私に隠していた。西田くんと付き合っていること。カルナに大学に入ってから彼氏ができたというのはパパを通して知っていた。まさかと思っていたけど、同じサークルに入り、好きでもなかったバンドの曲を聞き始め、極めつけにあのキーホルダーを持っていたカルナ。しかも、私がもっとアタックすればいいのにとあの仕草をした。髪を耳にかけたのだ。自分が付き合ってて私がアタックしても意味がないってわかってるからって、嘘をついた。
そして、追い打ちをかけるように、カルナのパパから電話がかかってきた。財布の中身を確認するカルナにトイレに行くと誤魔化して急いで電話に出た。
「妻に、バレた。」
もうその後はよく覚えていない。
ただ、とてつもなくカルナが憎かった。
西田くんもパパも独占しようとしているの…?
許さない。
カルナの家に走った。
_______
全て、俺のせいだ。
一瞬の隙をついて、リサは妻に包丁を突き立て俺に向かって脅迫を始めた。
「私と奥さん、どっちの方が大事ですか?答えによっては私、殺人犯になっちゃうかも。」
「え、?」
鋭く光る刃の先には恐怖に震える妻の顔があった。
「どういうことなの?」
リサに電話で妻にバレたことを伝えた後、「今から行く」と返ってきた声は震えていて、今から1時間前に家に来たとき、リサは俯いたまま身を固くしていた。リビングで妻と向き合ったリサは、椅子の上で沈黙を守り、俺の声にも妻の詰問にも俯いたままだった。痺れを切らし、警察に連絡すると立ち上がった妻を必死に俺が説得している隙に、リサはキッチンに滑り込み、手に包丁を握って戻ってきた。
さっきまで怒りを全面的に表していた妻は、リサの目を見て動揺を隠せなかった。先ほどとは打って変わってリサの目は爛々と光り、口元には歪んだ笑みがこぼれている。リサが冗談でやっているのではないことは、さっき初めて会ったばかりの妻でもわかるようだった。
「ねぇ、早く答えて?」
リサがじりじりと距離を詰めていく。
「あなた何なのこれは!とめてよ!」
妻の叫びに涙声が混じる。
急な出来事に頭が回らない。どうすればいいんだこんな…
「と、とりあえず、包丁をおろせリサ!本当に悪かった。ちゃんと話そう。」
精一杯絞り出せたのはこんなことだった。
しかし、意外にもリサは妻ににじり寄るのをやめた。
包丁は構えたままだったが、ゆっくりと妻から離れ、俺に向き直った。
すぐ後ろが壁だった妻は、そのまま力なく座り込み、リサの持つ包丁を震えながら見つめている。
「決められないんだったら、」
静かに発したリサの口からは、耳を疑う名が出された。
「カルナに聞いてみます?」
_______
ごめんね、カルナ。
でも悪いのはあなただから。
言い忘れてたけど、サークルの打ち上げで非難されてた先輩って私の兄なの。
あの後、サークルどころか学校にも行きづらくなって大学3年の前期はほぼ単位ゼロ。一部の生徒はわざわざお店にまで来てイタズラをしたし、直接は言わないけど、ネットで兄だとわかるような書き込みをしているようなやつらがたくさんいるらしい。
兄はもともとカルナ狙いだったから、住所を教えてやったの。私に協力してって。そしたら喜んで家を飛び出して行った。2ヶ月くらい部屋からも出てこなかったのに。
「カルナに何かしたのか?」
震える声には少しだけ怒りの色が滲んでいた。まさか自分の大事な1人娘と繋がってるなんて思わないよね。でも残念。今はきっと私の方がカルナのことよく知ってる。
「さぁね、でも奥さんか私、どっちかなんてを選べないんでしょ?カルナならきっとこういうよ。」
奥さんを選んでも、私を選んでも結局奥さんは邪魔なんだよ。そりゃ選べないよね。
しゅっと音を立てて踵を返す。フローリングを蹴りそのまま壁に突っ込んだ。柔らかい肉を割く感覚と温かい液体が手を伝っていく。
何が起こったかわからないという顔で固まっていた奥さんは自分の腹に深々と刺さった包丁の柄を見たとたん顔を歪めて叫んだ。花柄のエプロンはみるみる赤く染まっていく。鮮やかな薔薇が散りばめられていくようだった。妻の叫びに、弾かれたようにパパが飛びかかってきた。スローモーションのように奥さんが倒れ、パパが覆い被さる。涙を浮かべた憎しみの目に優しく微笑みかけ、部屋中に響く断末魔の叫び声の間で語りかけた。
「どっちでもいいってね」
_______
「おい西田ー、お前も悪い男だな」
「え、なんすか?」
「お前これ次の月刊に載せる気か?これのためにテーマ『嘘つき』にしたんだろ?」
「まぁまぁいーじゃないですか、フィクションなんですし。」
「どーだか」
「それより先輩は?今回は書かないんですか?」
「うーん俺はもう一個のテーマ派だったからなぁ、」
「あー、なるほどですね」
「でもさ、さすがにペンネームで出すんだろ?」
「それはもちろん。『夜なら魚』にしますよ。」
「は?そこはどっちでもよくないんだ?」
「俺魚好きなんす。もう作品から離れてくださいよー笑」
「はは、じゃあ夜は寿司か海鮮丼でも食いに行くか」
「おー、魚ならどっちでもいいっす」
どっちでもいいよ @Non_23
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