予感

「寒いな、利夫」


「マスター、もう一杯くれ。」


「大丈夫か?」

「飲み過ぎじゃないか?」


「いや、飲みたい気分なんだ。」


「そうか。」

「わかった。」

「ところで、何があったんだ、利夫。」


「まあ、いいじゃないか。」


「そうだな。」


「でも、疲れたな。」


「そうだろう、そう顔に書いてあるぞ。」


「そうか。」


「辛いのか?」


「そっとしてくれ。」


「わかった。」






「お母さん。」


「どうしたの?」


「夢にでてきます。」


「どんな夢なの?」


「はっきりわからないけど、何かが襲ってくるの。」


「大丈夫よ。」


「お母さん、辛い。」


「大丈夫よ。」


「今日は窓に鳥がとまっていません。」


「そうね。」


「明日、検査だから、今日は早く寝なさい。」


「お母さん、私は・・・」


「大丈夫よ。」


「そうじゃないの、体はどうでもいいの。」

「辛い。」

「辛いの。」


「先生、検査の結果はどうでしたか。」


「ああ、お母さん。」

「体の方はどうもないよ。」


「ただ、あの子は辛いだろうな。」


「礼子・・・」


病室にて


「お母さん、検査の結果はどうでした。」


「大丈夫よ、体に異常はないそうよ。」


「そうでしょ。」

「もう・・・」


「どうしたの?」


「生きていくことが辛い・・・」


「礼子、きっと気持ちが楽になる日が来るから。」

「諦めたら駄目よ。」


「お母さん、一人にさせて。」






「利夫さん、私達はどこへいけばいいの。」


「そうだな。」


「利夫さん、私の事をどう想っていますか?」


「それは言うまでもないだろう。」

「そばにいるよ。」

「それで、十分じゃないか。」


「でも・・・」

「このままでいいのかな」


「時が解決するよ。」


「本当ですか?」

「利夫さん。」


「ああ。」


「私は時々、思う事があるのです。」


「何をかな?」


「利夫さんが、いつの日か私の元から離れて行ってしまいそうな気がして。」


「そんなことはないよ。」






「礼子、あの人が今日も来たわよ。」


「帰るように言って。」


「どうして、礼子。」

「最近は毎日のように来てるでしょ。」


「いいから、お母さん。」



「礼子さんは・・・」


「申し訳ありません。」

「今日もお会いしたくないみたいで・・・」


「そうですか・・・」


「それじゃ、この手紙を渡してください。」


「わかりました。」



「礼子、あの人があなたに手紙をくださったの」


「見せて。」


「ほら。」



・・・・礼子さんへ・・・・


今日も会えなかった。

昨日も会えなかった。

多分、今日も会えないと思って手紙を書いてきたよ。

僕からのメッセージだよ。


病気に負けないで。

必ず、よくなるから。

そして、僕に以前のような笑顔を見せてよ


僕も苦しいけどね

礼子さんの苦しみからすれば大したことはないよ。

僕の事は心配しないで

なんとか乗り越えるから


愛しているよ


「お母さん、この手紙をあのバックにしまって。」


「わかった。」


「あの人もいるから病気に負けないで。」


「そうね、お母さん。」

「でも、今はあの人に会える自信がないの。」


「いつか、笑顔で会える日がくるわよ。」

「礼子。」


「そうだといいのだけど・・・」




テーマ


「利夫さん、もう、だいぶ浜辺を歩いてきたけど、まだまだ光まで遠いです。」


「大丈夫だよ、もう少しだよ。」


「礼子さんは辛いのかな?」

「僕も辛いけど、光が見えるよ。」


「利夫さん、やっぱり・・・」


「どうして、立ち止まるの。」


「生きていく自信がありません。」


「さっき、僕の手が温かいといったよね。」

「それでも、そう思うのかな?」


「やはり、自信がないのです。」

「利夫さんも、岸壁に向かっていったのでしょう。」

「利夫さんは、自信はあるのですか?」


「さっきも言ったように、僕には灯りが見えるんだ。」

「大丈夫、二人で灯りのところまでたどり着けるよ。」


「利夫さん、遠くに見える灯りとは何でしょうか?」


「僕は気づいたよ。」


「それは何ですか?」


「歩いていこう、必ずたどり着けるから」

「その時に教えてあげるよ。」

「僕を信じて。」


「はい。」


舞落ちていた微かな雪がやんだ。

それは何を意味するのであろうか。

寄せてきた波も帰っていった。

月明かりが礼子の瞳を写し出していた。

何かの予感の音が静かにしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ガラスの少女 虹のゆきに咲く @kakukamisamaniinori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ