第5話

――これはいったい、どういうことだ?

激しく叩いた手に痛みを感じながら、北川は戸惑っていた。

まさかこんなところに閉じ込められるなんて。

思ってもみなかった。

これから俺は、いったいどうなるんだ。

どうすればここから出られるんだ。

北川はとりあえず周りを見わたした。

入り口付近に一つだけあるか細い明かり。

それほど離れてはいないであろう奥の壁もよく見えない。

ここは一体なんだと考えながら見ていると、少し目が慣れてきた。

壁は全て鉄製で、床には真っ赤なじゅうたんが敷き詰められている。

広さは三十畳ほどだろうか。

見える範囲では何も見えないし、何も聞こえてこない。

名物と言うものがあるというのなら、それはいったいどこにあると言うのか。

――うん、あれは?

川北がいる入り口の反対側、

一番奥の床の上になにかが見えてきた。

よく目を凝らしてみると、それは外国の映画で見たことがあるものだった。

――棺桶!

それは西洋式の棺桶だった。

この建物の中に唯一あるものが、棺桶なのだ。

――なんで棺桶なんかがここにあるんだ?

北川が棺桶をじっと見ていると、突然上から強烈な視線を感じた。

今までに経験したことがない、文字通り刺すような鋭い視線だ。

――なんだあ?

北川は上を見上げた。

高い天井には光がほとんど届いておらず、よくは見えなかったが、天井に黒い人影が張り付いているのはわかった。

――ええっ?

するとその人影がゆっくりと、ふわりと降りてきた。

そして北川の前に立った。

古風なタキシードを着て黒いマントを羽織ったやけに背の高い男。

その顔は西洋人のもので、顔色が不自然なほどに白く、生気と言うものがまるでなかった。

それなのにその眼は燃えているかのように真っ赤だ。

――なんなんだ、こいつは。

天井からゆっくり降りてきた奇妙な男。

その男が大きく口を開けた。

その口には、上に二本の長い牙が生えていた。

――!!

北川は気づいた。

この男は信じられないことだが、吸血鬼なのだ。

聞こえてきた村で飼っているペットと言う言葉の意味。

それはこの村では吸血鬼を飼っていると言うことなのだ。

そして今、北川はそのペットの餌にされたのだ。


       終

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

村の愛玩動物 ツヨシ @kunkunkonkon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ