仮面
鈴音
素顔を見せて
私の隣の席、今年から仲良くなった友人は、日替わりで違う仮面を付けている。
過去の怪我の影響で素顔を見られたくないという彼は、多種多様なお面でその日の気分や心情を表す。
例えば、具合が悪い日であれば真っ青になって線の入った
彼がお面を外した姿を、誰も見たことがない。過去にはそのお面のせいで虐められかけたこともあったらしいが、逆に煽り散らかした挙句片腕で相手を放り投げ、そのあまりの強さに毎日廊下で彼に頭を下げる人間の道が出来るほど。
食事の時も謎で、どうやら怪我は鼻より上らしく、いつも付けている顔全体を覆うお面の下からやけに豪華なヴェネチアンマスクが現れることがある。
そんな彼に、私は惹かれた。同じクラスになり、席が近かったので、彼に話しかけた。その日は彼お手製のお面の日で、手芸が趣味の私はその完成度に驚き、つい褒めちぎってしまったのだ。
それに彼は面食らい…?ながらも喜び、私にお面の作り方やおすすめの改造の仕方を教えてくれた。
今では放課後に、2人でお面のデザインを考え、一緒に作る程の仲になった。
だが、事件は起こった。急な尿意に襲われ、トイレに駆け込んだ私。教室に戻ると、そこには仮面を手に、蹲る彼がいた。急いで駆け寄る私、僅かに震える彼の背を叩き、手を貸そうとした。その時!!
ばっと振り返った彼の顔には、身の毛もよだつような化け物が張り付いていた!!だらりと垂れ下がる腕!ふらふらと私に近寄る彼!私は、私はどうなっちゃうの!!??
―がたん!!と、何かにぶつかる音で目が覚めた。体と起こすと、教室は優しいオレンジの色で包まれていた。
私が枕にしていたのは、悪ふざけでデザインしたフェイスハガー風マスクのイラスト、よだれでびしゃびしゃの紙は、とっとと捨てないといけないだろう。
体を起こして、ぐっと伸びをする。そこで、窓際に佇む彼を見つけ、声をかけた。
そこには、お面を外し、痛々しい傷を見せながらも、優しい笑みを浮かべる彼がいた。私はその綺麗な顔を見て、しばらくフリーズした。
しばらく間を置いて、私は本音をぽろりとこぼしてしまった。
彼はきょとんとしながら、お面をしていないことに気づき、ながらも嬉しそうに破顔して、私を抱きしめた。
冗談めかして、何か言ってやろうと思ったけど、そのハグがとても強くて、優しくて、そのお面の無い顔に、私は何も言えなくなった。
…そうして、私は彼の顔を知る唯一の人間になった。せっかくだから、私もお面をつけて、周りの人間に匂わせでもしてみようかな?なんて、考えて、今日も学校に向かった。髪飾りの代わりに、彼のお面を頭に乗っけて、弾むようにスキップしながら。
仮面 鈴音 @mesolem
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます