あなたを、永遠になりたい
きょうじゅ
本文
ロス市警で四半世紀も殺人課の刑事なんかやっているアタシにとっちゃ、恋人に殺された男とか、その逆とか、そんなものは珍しくもなんともないんですけどね、それにしてもあのガイシャの有様は異状と言うより他は無かったね。
その男はユダヤ人で、本名クリス・ベッツィ。だがその名前よりも、『長髪のサムソン』という名うての結婚詐欺師としての通称の方が遥かに有名だった。
サムソンのホトケが見つかったときゃ、そりゃみんな思ったよ。殺人課のアタシたちだって知ってるくらい、ロスの裏社会じゃ有名な男だったからね。いや、つまり、長髪のサムソンもついに仕事でドジを踏んで、自分を恨んだ女に刺されるか何かしたんだろう、って。
でも、そうじゃなかった。犯人はすぐに分かった。だって、遺体に、刻んであったんだよ。名前がさ。いや、ダイイングメッセージとかじゃない。それは犯人が自分で刻んだものだった。曰く、「Delilah LOVED I」。おかしな文章だろ? ダイイングメッセージなら、Delilah killed meとするべきだし、何か特殊な意図があってサムソンの情婦だったデリラの名前を刻む必要があったにしてもだ、Delilah killed himでもいいし、Delilah loved meでもいいでしょ。それが、「Delilah LOVED I」。
もちろん、何はともあれ最重要参考人だからさ、アタシはすぐサムソンのヤサを訪れて、デリラに事情を聞こうとしたわけよ。そうしたら、ドアを開けてチェーンも開けて、デリラは手帳を見せたアタシに対して開口一番こう言った。
「Delilah killed he.(わたしを、犯人です)」。
アタシはその場でデリラにワッパを嵌めて署に連れて帰って、署長に、デリラには精神鑑定が必要だと進言した。どうも、アタシの出る幕じゃなさそうだったからね、この事件は。
でも精神鑑定の結果はシロだったし、アタシは別に傍聴も何もしちゃいないけど、裁判でもごく普通に受け答えをして、自分の犯行を認め、そして情状酌量の余地のあるような主張はまったくせず、結果として、死刑判決を受けた。今のカリフォルニアには死刑制度はもう事実上ないけど当時はまだあったからね、デリラの刑は執行された。もう二十年にもなるかな。
いやぁ、それにしても、初めてだったんだよ。
文字として読めるほど大量の結婚指輪を皮膚の上から押し込まれて死んだ人間のホトケさん、なんてのはさ。
あなたを、永遠になりたい きょうじゅ @Fake_Proffesor
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