第139話 復讐者と久しぶりの会話。
「———あんた」
復讐者、アン・ビバレントが足を止めて瞳を上げる。
俺の姿に初めて気が付いたかのように虚ろ気な様子で、先ほどまでの足取りも力ないものだった。
「アン、元気にしていた……か?」
「…………」
何だこの問いかけは……まるで親戚のおじさんだ。
気にかけているが会う機会がなくて、久しぶりに会うと何を話したらいいかわからないというそんな感じの自らの言葉に嫌気がさす。
嫌気がさしているのも彼女は同様なのか、視線を逸らしてギュッと腕を抱いた。
「あんたはあんたで、元気そうね」
「あ、あぁ……」
彼女とは距離感が掴みかねる。
何しろ俺は、シリウス・オセロットはアンの父親を殺し、母親を犯している極悪非道の悪役貴族なのだ。
彼女に殺されるに足る理由は存分にある相手なのだ。
そんな人間とはどう話せばいいのかわからない。
気を使って当然だ。
「お前の方は、大変だっただろう?」
「ん?」
「『
彼女は俺に復讐を果たすためにマフィア『
俺を殺すためにいろいろな知恵と人脈を得るべく、そこを頼り、暗殺術のようなものも身に着けた。
そして、俺を殺すために虎視眈々と気を伺っていたところに、先日の誘拐未遂事件だ。
俺を暗殺する前に、拠り所であった組織が崩壊してなくなってしまったのだ。
てっきりそのあおりを受けて、彼女はもう二度とこの学園に来なくなる。これなくなると思っていた。
「はっきり言う。
「別に、なんでもないよ……『
「何————⁉」
驚きの言葉だった。
復讐のために頼っていたマフィア組織を、アンは抜けていた?
そんな展開———俺が原作ゲームをやっていた時にはなかった。
彼女はずっと『
それが勝手に組織から抜けている。
また———俺の知らないところで何かしらのルートの変更が行われているようだ。
「そんなのは初耳だが」
「言う必要あるの?」
嘲笑気味の表情を浮かべるアン。
「確かに……
「……私の使命を遂げるため、あそこにいるわけにはいかなくなった」
「使命?」
それは———、
「〝復讐〟———か?」
それしか考えられないが、言葉にして問うてみる。
だが———彼女は首を振った。
「違う———私の使命は、」
アンは俺を指さして言う。
「あんたを、殺すこと」
それが……復讐とどう違うんだ?
「…………そうか」
まぁ、初志貫徹しているから深くは言及しないでおこう。
「だが———それが『
「あそこには……もう居続けることはできない。何故なら私は〝裏切り者〟だから」
「〝裏切り〟? 何か、『
「……そうじゃない。だけど、私はもう、あの組織に居続けることはできない。それは自分の使命に気が付いたから。気が付いてしまったから……あんたを殺さないといけないという使命を———『ビバレントの役目』を知ってしまったから……」
「———?」
イマイチ、要領を得ないがアンは瞳を伏せた状態で歩き始め、俺の脇を通り過ぎる。
「明日……城に向かうんだって?」
どこから聞きつけたかわからないが、俺の予定を確認してくる。
「あ、あぁ……」
「そう、なら気を付けた方いいわよ。じゃないと取り込まれるから」
「取り込まれる? 王の城にか?」
何の話をしているんだ?
「———ええ、慎ましく生きなさい。じゃないと……私が殺す
そう言うアンはこちらを一瞥もせずに……いや、俺の視線を避けるように顔を伏せ、歩み去ってしまった。
俺は、彼女の意味深な言葉を受け止め、その背中を見つめ続けることしかできなかった。
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