第140話 城へ。
翌日———。
大量の荷物を乗せた馬車を走らせ、俺達は王城へと向かった。
「これが……ガルデニア王城……」
大きく、綺麗な真っ白な城。おとぎ話のお姫様が住んでいるような、誰もが憧れる城と言ったらコレだろうというわかりやすいフォルム———白い大きな屋敷の上に円錐型の塔が伸びている形だ。
俺は原作ゲーム『紺碧のロザリオ』をプレイしている。
その中で背景絵として描かれたガルデニア王城は見て知っているが、こうして生の目で見るのは初めてで、そうなると感動が生まれる。
「そうだ、シリウス……王の前でくれぐれも粗相がないようにな」
馬車の隣に座る父、ギガルト・オセロットがしかめ面をして言う。
心なしか、緊張しているようにも見える。
「わかっております、父上……」
よく見ると父の足はガタガタと小刻みに揺れていた。
貧乏ゆすりをしている……このもうすぐ初老に入ろうかという、皺だらけでいかめしい顔つきをしたおっさんも、不安で震えることがあるのか。
まぁ、それはそうだろう。
「これが成功すれば……私は……この世界を……」
そんなことをブツブツ呟いている。
さて———俺はどうしたものか。
このギガルト・オセロットはこのゲーム世界『紺碧のロザリオ』の悪人の一人———ラスボスと呼ばれるキャラクターの一人だ。
「大丈夫か? ルーナ?」
「…………」
ふとルーナに気を向ける。
彼女もまた、暗く沈んだ面持ちで顔を伏せていた。
憂鬱なのだろう。
俺は彼女の背中に手を触れて落ち着かせるようにさすった。
「お兄様……?」
少しだけ元気が出たのか、顔があがる。
「そう気負うことはない。貴様は
こんな言葉、悪役貴族シリウス・オセロットだったら絶対にかけない言葉だ。
だが、この転生生活を経て、すっかり俺はルーナに情が移ってしまっていた。
何を言われても健気に尽くそうとする妹に対して、鬼畜外道にもう振舞うことができなくなってしまった。それだけルーナはいい子で、可愛い子だった。
「お兄様……そうではないのです。え、ええ……ありがとうございます。お兄様……」
●
城につくと、何人もの侍女に出迎えられる。
「「「ようこそおいでくださいました。オセロット様」」」
ずらりと横並びで一斉に一礼するメイド服の女性たちにギガルトは手を上げて「うむ」と一言言って応える。
そして、偉そうな足取りで馬車を降りると、その後に俺が続き、ルーナが降りる。
「これはこれは———遠方からよくいらっしゃいました、ギガルト・オセロット殿」
青い服を着た、背の高い青年がギガルトに近づいてくる。
流石に侍女だけで貴族を出迎えるわけがない。
同じように高貴な身分の人間が待っている。それが彼だというわけだ。
「アッシュ王子‼ あなた様にわざわざ出迎えられるとは……!」
ギガルトは深々と首を垂れた。
アッシュ……王子……?
俺の知らない人間だった。だけど、どこか聞き覚えがある……。
原作ゲーム『紺碧のロザリオ』をプレイしたときには少なくとも見たことがないキャラクター……。
清潔で整った七三分けの金髪に、すらりとスタイルのいい体が現れる貴族服を着た、アイドルのようなイケメン。
こんなテンプレ的なイケメン……一度見たら忘れない……いや、『紺碧のロザリオ』はギャルゲーだ。
女の子が目当てのギャルゲーに出てくる男性キャラ注目しないから割と忘れる……か。
こいつもそんな忘れてもいいような、どうでもいいキャラかと思っていたが、次のギガルトの言葉で俺は考えを改めさせられることになる。
「このガルデニア王国の第一王子であるアッシュ・フォン・ガルデニア。あなた様に出迎えられるなんて!」
第一王子———⁉
ということは、アリシアの兄にあたる男で……次期国王というわけか⁉
「いえいえ、それだけガルデニア王国はギガルト様が進めている
そんな俺の目が変わったことなど、彼は察することなく爽やかに謙遜している。
だが、彼の目がやがてギガルトから俺に向けられ———、
「おや、君は?」
「申し遅れました、私はギガルト・オセロットの息子。シリウス・オセロットと申します」
粗相がないように、そう言われたとおりに挨拶をする。
すると彼は、アッシュ王子はなぜか首をひねった。
「う~ん……君がシリウス・オセロットかい?」
「ええ……そうですが?」
「う~ん……なんか違うなぁ」
更に深く首を捻られる。
いや違うと言われても、俺はシリウス・オセロットでしかありえないわけで……。
まさか、人格が転生した別世界の人間だと気づかれるわけもあるまいし……。
そんなことを考えていると———、
「う~ん……礼儀正しいなぁ……
「しっっっっしょ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~‼」
———横から抱き着かれ、俺の首が大きく「グギリッ」と右に曲がった。
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