第206話 どうして私が⁉
「あの……! あの、あの、あの、あの⁉」
するりと手から滑り落ちた大うちわがはらりはらりと床に向かって落ちる。
「それはどういうことなのでしょうか⁉」
ルーナが声を張り上げる。
今日は珍しい日だ。
妾の子という立場
「どういうこと……って言われてもウチのクラス、1年2組の総意でそうなったとしか……」
「どうしてその総意で私が『ジーク・ルード』の妻のクリンヒルデ姫を演じなければならないのですか⁉」
「ぴったりだったから」
「ぴった……⁉」
絶句してルーナがフラフラと体を揺らす。
「……その『ジーク・ルード』とはどのような話なのだ?」
「知らないのか? ししょー。本当に?」
「ああ……」
もしかしたらその話は現実世界の日本でいうところの『かぐや姫』や『桃太郎』レベルの認知度がこの世界にあるのかもしれない。が、俺の意識が覚醒したのはここ三か月前。だからシリウス・オセロットとしての記憶はない。
「悲劇だよ。絶世の美女であり雪の王国の王女であるクリンヒルデ姫が、夫である英雄ジーク・ルードを失うお話。彼女には姉がいるんだけど、その姉もまた絶世の美女でジークは元々その姉の方が好きだったんだ。クリンヒルデは最初、ジークと姉の恋路を応援していんだけど、クリンヒルデ自身もジークのことを愛していた。だから彼女はジークと姉を騙してお互いのことを死んだと思わせる謀略を巡らせてしまったんだ。そうして愛する人が死んだと思い込んだジークは心を痛め。そこにつけこんでクリンヒルでは自分の恋路を遂げさせる。だけどほんの些細なことがきっかけで雪の王国にいる姉にジークが生きてることがバレて……そのあといろいろ誤解が積み重なって結果としてジークが嫉妬に狂った姉に殺されてしまうんだ。そうして家族を全て失ったクリンヒルデは一人雪の山へと向かう。その後の行方は誰も知らない。そういうお話さ」
「……メチャクチャ暗いな」
昼ドラやん。
「ああ。だけど自分の恋心を諦めなければいけないのに、どうしてもそうできないクリンヒルデ姫の葛藤にどうしてもボクたち女の子の心は惹かれてしまうんだよな……」
またうっとりと胸の前で両手を握りしめて悦にひたるアリシア。
ボクっ娘で王女でありながら騎士の学園に入学するという、かなりな男勝りなキャラクターをしていながら実は中身はしっかりと女らしかった。
「その、寝取り姫がルーナにぴったりとは……悪口ではないか?」
「
ジトっと睨まれ、目線をアリシアからルーナとロザリオに移す。
「無理です! そんな私に劇の主役なんて……演技だってしたことないのに!」
「でもみんなルーナさんのクリンヒルデが見たいって言ってるし。ルーナさんがウチのクラスで一番美人だから」
「びじ……⁉」
また絶句するルーナ。
「ルーナとロザリオは同じクラスだったのか?」
「知らなかったのか? ししょー」
知ってたような、知らなかったような……。
なんかそういう
それに俺自身が最近魔法と剣術に行き詰りを感じており、最近学園の授業をサボりがちだ。教室に顔を出す回数も少ない。
だからクラスといったものに対して非常に意識が希薄になっているのだ。
……よくないことではあるが、今はどうでもいいことだ。
「そ、それに相手は誰なのですか⁉ 夫役のジーク・ルードは⁉ ちゃんとお兄様なのですか⁉」
ルーナが視線をばっちりこっちに向けて言及する。
ちゃんとお兄様なのですか、という言い方はおかしいだろう……。
「それはロザリオ。勿論貴様だろう?」
俺が口を挟むとロザリオは困ったような笑みを浮かべ、
「いいえ。僕はあくまで裏方に徹します」
「は? ならば誰が———」
お前がこの世界の主役だろうが。
「ぼぼぼぼぼぼ僕です‼」
バターンと扉が音を立てて開かれ、背の低い男子生徒が入室してきた。
「はははは初めまして! 僕の名前はスネータ・ノビータと言います!」
大きな丸眼鏡をかけたいかにもガリ勉といった少年だった。
「何だその名前は? ふざけているのか?」
「ふざけていません!
そしてスネータ・ノビータは頭を大きく前に倒して、思いっきり俺に後頭部を見せつけて、
「
「……は?」
交、際……?
ルーナ相手に?
「ヒ、ヒィィィィィィィィィィィ~~~~…………‼」
申し込まれた相手、ドン引いてますけど……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます