第204話 人の社会に潜む魔族
「〝魔族〟を滅ぼす……だと?」
俺はアッシュに対して眉を顰めた。
「ああ、この世界にはまだまだ魔族の生き残りが存在する。それが徒党を組んで人間たちに牙を向けるかもしれない。そうなる前に君が、殺して欲しい」
殺す……とは随分と穏やかではない、が。
「それは本来貴様らの。国家機関の役目ではないか?」
「だけど君以上に適任はいないだろう? グレイヴを倒せるほどの実力はあるし、国家機関に所属する人間と違ってフットワークが軽い。なにより聖ブライトナイツ学園の生徒だ」
「……?」
生徒だ、と言ったな……生徒会長だ、ではなく。
「それが何か……魔族を狩ることと関係があるのか?」
「あぁ、〝魔族〟は基本的に不老不死だ。摂取した魔力が尽きない限り死ぬことはない」
「そうなのか?」
そんな超常の存在だったとは……。
「まぁ、勿論肉体を激しく損傷すれば死ぬ。そして現代に生き残っている魔族は千年前からずっと細々と生き残っている者もいれば、その魔族と人間の間に生まれた〝半魔族〟と呼べるような個体も存在する。その半魔族には当然寿命があるが、それでも見かけは歳をとらない。ほとんどが見かけが若いままで一生を過ごす。それが意味するところがわかるかい?」
「……若くても怪しまれない場所に居続ける」
「そう、つまり若い学生が入れ替わり常に同じ顔がい続けるわけではない学園は魔族の潜伏先としてはうってつけと言うことさ」
人間の社会に居続けると考えた場合、確かに学園というのは最適だ。
特に聖ブライトナイツ学園は、学生どころか教師だってずっとこの学園に所属し続けているわけではない。そのほとんどがガルデニア軍属の軍人か、魔法研究機関に所属する研究員で、その道のエキスパートだから学生に教えているだけの、いわゆる本職教師と言う存在が少ない。いないことはないのだが、そういう人間はこの学園の運営管理をしていて生徒一人一人と顔を合わせることはない。
名前でもなんなり偽造すれば、ずっとこの学園に居続けられる。
「シリウス。実は僕はアン・ビバレントの父親。ダン・ビバレントとは交流があってね。彼が動きやすいように僕は手を貸していたんだ。だから君にも僕に手を差し伸べさせてほしい。現代に生きる〝魔族〟……この世界を滅ぼそうとする〝魔族〟を駆逐して欲しい」
そう言ってアッシュは俺に手を差し伸べてきた。
俺はその手を見つめ———、
「知った事か」
と、言った。
「———シリウス?」
「〝魔族〟だ———復活だ———と、それは貴様ら王族の都合だ。一学生の、それも貴様らの都合で生み出された魔導生命体の
「…………ッ!」
そもそもがシリウスはグランド・フォン・ガルデニアが、ギガルト・オセロットが自らの野望で生み出した存在。
道具として生み出し、その後も道具として使い潰そうという魂胆が、アッシュにあるのかどうかは知らないが、結果としてそうなるのは御免だ。
「
「………そうか」
アッシュの提案を突っぱね、彼はがっくりと肩を落とす。
そして彼は身をくるりと捻り、扉へと向かって歩き出す。
「それじゃあ……世話をかけたね。とにかく、グレイヴ・タルラントの、叔父上のことは助かった。ありがとう」
「気にするな。奴が
「そう……」
トボトボと扉へ向かうアッシュの背中。
それを見ていたら何だか可哀そうに思えてきた。
だから———、
「だからまた、〝魔族〟がでてきて似たようなことをしてきたら、
「……シリウス?」
アッシュがピタリと足を止めて、こちらを振り返る。
そのしょんぼりとした子犬のような顔に向かって———、
「
「……シリウスッ!」
〝魔族〟が生徒に、人間に害をなす場合は許さない。
要約するとそのような意味の言葉を駆けるとアッシュは顔をパアッと明るくした。
こういうところは妹のアリシアとそっくりだ。
「ありがとう! その言葉を聞けただけでもうれしいよ! もしも〝魔族〟が出たら教えてくれ! 僕は何でも協力する。君のためならどんなことでもするつもりだから!」
「言い方が気持ち悪いが……その心意気は受け取った」
最後の言葉が何だかあまりに好意的すぎるので逆に気味悪いものに感じてしまい、雑に手を振ると、アッシュは変わらずキラキラとした笑顔で生徒会室を出て行った。
バタンと扉が閉じられて、部屋に静寂が戻る。
「ふぅ……それにしても……」
俺は立ち上がり、先ほどアッシュが見つめていた窓の外を見上げた。
青い空を———、
「
グレイヴ・タルラントは倒した。
魔王も俺の、シリウス・オセロットの中から姿を消した。
だが、この世界にはまだ、〝ラスボス〟と呼ばれる存在はまだ残っている。
この空の向こうにも———。
●
聖ブライトナイツ学園———生徒会室前廊下。
第一王子アッシュ・フォン・ガルデニアは、生徒会室の扉を背もたれに、口角を歪めて笑っていた。
「頼んだよ……シリウス・オセロット。地上に生きる魔族は……少なくていいんだよ」
そう言った瞬間、彼の足元から伸びる影の形が
ただのその背中から、二対の翼が生えたような形になり、バッと左右に伸びる。
窓から差し込む陽の光によってつくられた影が———そのような異形の姿を形作っていることを知る者は誰もいない。
「~~~~♪」
鼻歌を歌うアッシュ以外は———。
彼は長くどこまでも続く廊下を、異形の影を引き連れて上機嫌に歩いていった。
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