第199話 ギガルトと対峙する
オセロット邸の扉をバーンと大きな音を立ててあけ放つと、白髪の執事長が慌てた様子で歩み寄って来る。
「これはお坊ちゃん、おかえりなさいませ……どちらに行っておられたので?」
「父は? ギガルト・オセロットは戻っているか?」
「はぁ……先ほどお帰りになられました。ですが一時的に戻られているだけで、これからまた城へと出向くご予定が……」
「朝早くだというのに、気の毒なことだ」
まだ日の出からそう時間も経っていないと言うのに、ギガルトはほぼ寝ずに働いているらしい。
俺はギガルトがいるとわかると、階段を駆け上がり、父の部屋へと向かった。
「お、お待ちくださいシリウス坊ちゃん! お父上様は今大変期限が悪く、たとえ坊ちゃんと言えどお会いになるのは……」
「この国の今後に関わる急ぎの用事だ! 時を選んでいる場合ではない!」
そう言って執事長の制止を振り切り、ギガルトの部屋の扉の前に立ちノックをする。
「……誰だ?」
苛立ちのこもった低い声が扉越しに響く。
「シリウスです。お話があります。少しよろしいでしょうか?」
俺は扉に話しかけながら執事長のじいさんにアイコンタクトをする。
———これ以上、ここに居たら巻き込まれるぞ、と。
執事長は顎を引いて顔をこわばらせて頷くと、いそいそと廊下の奥へと引っ込んでいった。
「後にしろ! 私は忙しいんだ!」
怒鳴るギガルト
「いいえ、後にするわけにはいきません。父上———私は今、グレイヴ・タルラントを倒してきました」
「…………」
スッと、扉の奥の怒気が収まった。
「前王、グランド・フォン・ガルデニアと呼んだ方がよろしいでしょうか? 魔王の複製体を使って、このガルデニアを、ハルスベルクの街を滅ぼそうとした男の野望を食い止めてきました。その件でお話が」
「…………」
「———父上。もしもあなたが黙っているのなら、この扉をカチ割って入ることになりますが?」
拳を握り、ギリリとギガルトに聞こえるようにわざとらしく音を立てる。
「……入れ」
渋々と言った様子で許可を出し、それに従い部屋に入る。
「グレイヴ・タルラント……グランド様を倒してきたと言ったな? 貴様……」
ろうそくの明かりが照らす暗い部屋。
閉じきったカーテンの隙間から入る朝日でぼんやりと何があるかわかる程度の暗さだが、それでも光が足りない。
「ええ、大魔法陣カナンとかいうのを起動しようとしていたので……それを食い止めさせていただきました———」
部屋の壁には本がびっしりと敷き詰められ、その棚の上には竜の頭の剝製だったり、白い狼の毛皮が貼り付けられていたり、いかにも魔物や魔族の研究者だと言いたげな趣味の悪い部屋だった。
だが、机の上に小さなガーゴイルの手作り感あふれる木彫り人形が置いてあり、それだけは可愛らしく少し吹きだしそうになってしまう。
そんなことよりも———。
「———父上、グレイヴ・タルラントに協力していましたね?」
———本題の方が大事だ。
「…………」
いきなり切り出すと、ギガルトは黙り込む。
ろうそくの明かりに照らされた皺の深い顔が赤々と照らされ、その光る眼光を刺すような鋭さを持たせて俺に向ける。
「あの方から聞いたのか?」
「ええ、私が……
「…………」
ギガルトは机を撫でながら、ぐるりとその周囲を歩き始める。その動作に意味があるのかはわからないが、恐らく考え込んでいるのだろう。
これからどういう言葉を紡ぐべきなのか、何を言うべきなのか、言葉を選んでいるのだろう。
「シリウス………貴様は誰の味方だ?」
「味方?」
「私か? それとも、今の国王か……?」
ギガルトは机の引き出しを開ける。木が擦れる、年季を感じさせる音を立て後、その引き出しの中から青く輝くクリスタルを取り出した。
魔法石だ。
通常の魔力が結晶化した、青いエネルギー鉱石。
それを自らの顔の前に掲げて、うっとりとギガルトは見つめる。
「……シリウス。お前はこの腐った国に仕える役人ではないだろう?」
青いクリスタル越しに、ギガルトは俺を睨みつけていた。
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