第198話 ビバレント家の悲劇の真実
———あの日、モンスターハント大会の
あんたが生まれた時に宿っていた〝魔王の魂〟に……。
3年前の夜まで、私の父親ダン・ビバレントはあんたの父親ギガルト・オセロットと
ダンは古代魔術史の研究者で、古代の魔道具を現代に復活させようとしているギガルト・オセロットは何かとダンに教えを乞いていた。
あんたはその助手として参加していたって聞いた。
その頃私は友達と遊ぶことに夢中で、あんまり家に帰っていなかった。
勉強しろって口うるさい父親と母親に対して反抗する気持ちもあったと思う……だから、寂しかったんだ……私の母親、ヘカテ・ビバレントは。
そこにあんたが———つけこんだ。
私からは、そうとしか見えなかった。
ビバレント家の屋敷に出入りし、父から古代魔術史について教えを受けてギガルトの王立魔導機関に貢献しようとしていたあんたは、私の母と知り合った。
そして、あんたはウチの母親の寂しい心に付け込んで抱こうとして、私の父親ダンに咎められ、逆切れしたあんたがウチの父親を逆に殺した。
最初はそう思っていた。
だけど……実際は違った。
私の父親……ダン・ビバレントには、ビバレント家には使命があった。
先祖代々から伝わる———〝魔族の撲滅〟という役割が。
それは今のガルデニア王家ですら知らない、この国の裏の顔。この国を、人間の世界を平和に保つために人知れず〝魔族〟を処刑していた裏の顔。
その役目は始祖のガルデニア国王、ルキウスから承った物であり、そのために魔剣・バルムンクの使用を代々許され、強力な力を持つ魔族に対抗していた。
その裏の歴史を、ギガルト・オセロットは知らなかった。
いや、知っていて無視をしていたのかもしれない。
オヤジに……先代国王グランド・フォン・ガルデニアが、ビバレント家の〝魔族狩り〟の役目を知らないとは考えづらいから、国力増強のためにあえて伝えなかったんだと思う。
もしかしたら、〝魔族狩り〟をもうやめるように、オヤジから言われていたのかもしれない。プロテスルカとの戦争に勝つために、今は魔族の力をも利用しなければいけないのだとかなんとか言われて。
それでしばらく、魔族の力を現代に蘇らせる研究に手を貸していたダン・ビバレントだったんだけど……渋々だったのは間違いなかったと思う。
ある日———それが爆発したから。
あんたを——魔剣で殺そうとしたから。
『貴様はこの世界に生きていてはいけない存在だ!』
そう言って殺そうとした。
あんたの生まれの真実を知ったんだと思う。
魔族である魔王の細胞を使って、人工的に生み出された魔導生命体。
その時に魔剣の切っ先が接触し、あんたの体に眠っていた〝魔王の魂〟が目覚めた。
だから、あいつは知っていた。
あんたの体の中にいる〝魔王の魂〟は、私の父親、ダン・ビバレントにシリウス・オセロットが殺されかけたことで、最初の覚醒を果たした。
そして———あんたはその時に自分の真実を知った。
自分が母親どころか父親とも血の繋がっていない、オセロット家の血がどこにも入っていないただの道具だっていうことに。
それに相当ショックを受けて、茫然自失になっていたらしいわ……。
そこに父が殺そうと斬りかかって……悲劇が起きた。
『逃げて! シリウスさん!』
私の母親が、父の背中を押した。
場所が悪かった。
争っていた場所は階段の手前……ビバレント家の屋敷の大広間の大階段。
父、ダン・ビバレントはそこから転がり落ちて、頭の打ちどころが悪くて……命を落とした。
私の母、ヘカテ・ビバレントは夫を自らの手で殺したことで心を壊し……あんたは自分の出自を知ったショックで逃げるようにビバレント邸を後にした。
そして、無知で強欲なギガルト・オセロットは息子がやらかしたのだと勝手に思い込み、事件をもみ消した。ダン・ビバレントは勝手に階段から転げ落ちて死に、貴重な古代魔法史の資料を差し押さえたいがために、いろいろなコネを使ってビバレント家の財産を差し押さえさせた。
それが———真実、らしい。
最初は信じられなくて……それでもあんたに復讐するという使命を、ビバレント家の使命を全うさせようと思ったけど……時間が経つにつれて段々と腑に落ちてきた。
あんたの中にいるもう一人の人格の言葉を、そのまま素直に信じるのはどうかと思うけど、あんたが誰かを守ろうとずっと行動してきたのは見てきた。『モンスターハント大会』でのことだって、ロザリオ・ゴードンのことだって、今回のことだって……。
だから、あの魔王の言葉を信じようと……思ったんだ。
●
「着いた……ここが私の家……今の、家」
赤レンガでできた倉庫のような集合住宅施設。
真ん中に小さな人一人分通れるぐらいの入り口があり、そこから階段が続き、左右に分かれたそれぞれの部屋に繋がる通路がある。
現代日本で言うアパートのような建物。
とても、元貴族が住んでいるとは思えない。
「私の母さんに……会っていく?」
「いや……いい」
「そう」
シリウス・オセロットがアンの父親を殺した人間でも、母親を犯した人間でもないとわかったが、会うのはよしておこう。
俺は、その時の記憶を、人格を持っていないのだから。
「今まで仇だと思って、刃を振るってごめんなさい……あんたを、ずっと誤解していた」
「いや……そんなことは……」
アンは頭を下げずに謝罪の言葉を述べる。
彼女の中でもまだどう整理をつけていいのかわかっていないのだろう。
「私は何も知らなかった。だからあんたを一方的に恨んで……でも、あんたはそんな私に何も言わずに刃を受け止めてくれた。そんな私を受け止めてくれた……だから、」
アンは顔を赤くして、俺に対して背を向けた。
「アン?」
「できれば、あんたとは違う形で出会いたかった……」
スッと顔を上に向けて、ズズと鼻をすする音が聞こえたと思ったら振り返り、パッと笑顔を向けてきた。
「じゃあ! また後で!」
「……あ、ああ」
アンが、復讐者……アン・ビバレントがシリウス・オセロットに向ける初めての笑顔だった。
そして、コツコツと音を立てて、彼女は自分の部屋へと向かっていった。
「……あぁ、どうすっかな。これから」
アンからは復讐されることはなくなった。
だが、これからの俺の、シリウス・オセロットとしての身の振り方はどうするべきか……。
なんだかんだうやむやになってしまったが、彼女は俺に対して告白までしている。
「まぁ、とりあえず家に帰ってから考えるか……」
俺はアンのいるアパートを背に、オセロット邸へと歩を進めた。
「まだ、今回の件でやり残したことはあるからな……」
一旦、アンのことは心の隅に追いやり、今、考えるべきことに頭を使う。
今回の、グレイヴの件に手を貸していた、ギガルト・オセロットについてのことを……。
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