第197話 朝焼けの中、帰宅する
下水路を出て地上に出ると、丁度朝日が昇っているところだった。
「ふぅ……」
どさりとロザリオとナミを下ろして一息つくと、その衝撃で目が醒めたのか二人とも目を
「……んぅ? ここは?」
ナミがぼんやりとした声を出す。
「地上だ。グレイヴ・タルラントは倒した」
「……もう朝ですか?」
「ああ」
そしてナミが立ち上がり、伸びをする。
特に何があったのかこちらに聞くこともなく、あくびを一つして、
「じゃあ、全部終わったんですね……今日はもうこれで解散……で、いいんですよね?」
「ああ」
ナミは再び朝焼けに目をやる。
「じゃあ、今日は特別学園外活動をやったってことで……学園は……いいですね……ふわぁ……」
なにが「いいですね」なのかわからんが。
「ちゃんと学園に来いよ。今から3時間後には最初の授業が始まるからな」
「え、えぇ~……! 私たちほぼ徹夜で活動したんですよぉ~……! それも生徒会長に無理やり連れられて……」
今日は平日。
普通に授業がある日だ。
だが、グレイヴ討伐にナミは駆り出され、睡眠時間を削られた。それを理由に学園をサボろうという魂胆なのだろうが、そうはいかない。というかできない。何しろ今回の件は俺の独断で聖ブライトナイツ学園側は何も知らないのだから。
「黙れ。それとこれとは話が別だ。お前は今年でもう卒業だろう? ならば進路のことを考え、少しは学園側の心象を良くしておくべきではないのか?」
「そうですけど……私はプロテスルカに戻って……軍人になるぐらいしか選択肢がないし、それは学園の心象関係ないし……できれば誰もいないところで静かに暮らしたいけど……山の中で一人は嫌だし……」
ブツブツと悩みのるつぼに勝手に入っていくナミ。
「ええい! もう鬱陶しい! いいから帰れ! 帰って着替えて、直ぐに学園に登校しろ! いいな!」
そう言ってナミの背中を押すと彼女は「は~い……」と渋々返事をして歩き出し、ロザリオは無言で一礼をして、ナミとは別の方向へ歩き出し、消えていく。
彼は目が醒めた後も沈んだ様子で一言も俺に声をかけようともしなければ、目も合わせようともしなかった。
心配だが……。
今の俺が声をかけても逆効果な気もする。
「また、闇落ちなどしなければいいが……」
遠くなっていく彼の背中を見送り、視線を自らの手元に落とす。
「……だが、魔剣は
「ねぇ……そのことなんだけど」
アンに声をかけられ、顔を上げる。
「ん? どうした?」
「そのことについて話があるんだけど……」
「話?」
「うん。私のビバレント家と魔剣と、ウチの父親についてのこと……そして、あんたのこと……」
「あ、あぁ……」
そういえば、アンとは話をしなければいけないと思っていた。
彼女の心変わりについて。どうしてシリウス・オセロットを仇だと思わなくなったのか。その情報をどうやって手に入れたのか。
原作ゲーム『紺碧のロザリオ』では、一貫してシリウスに対して怒りの感情をぶつけていた彼女が———だ。
「……では、私は先に戻らせていただきます。ご主人様」
俺達を二人きりにした方がいいと察したのか、リタは一礼しアンに向かって手を振る。
そしてタッタッタッと駆け足でオセロット邸へと続く道を駆けていき、
「……行こうか」
「ええ……」
俺はその方向とは逆方向を示し、アンを連れ立って歩く。
アンを送っていくために。
とはいっても俺はアンの家が何処にあるのかなんて知らない。
流されるままにアンを送っていった方がいいと思い、何も言わずに歩き始めたが、アンも自分の家がどこなのか言いだすタイミングがないのか、互いに当てもなく歩いている。
朝焼けが差し込む、ハルスベルクの街並みの中。
「……お前は、全てを知っているのか? アン」
「え?」
互いの関係性が関係性なだけに、中々話を切り出すのが難しく、しばらく歩いたところで俺の方から話しかけた。
「ビバレント家に何があったのか。お前の父親はどうして
「ええ……」
「そうか……それをどうやって知った?」
まったく俺が原作ゲームをプレイしている時は明かされることのなかった情報だったが———。
そう尋ねるとアンは俺の胸を指さし、
「あんたの中にいる。魔王ベルゼブブに———」
「あいつに……?」
もう、ここにはいないのだが……複製体に奴の魂は盗られてしまっている。
そういえば、グレイヴから黒い泥が溢れ出た騒ぎのせいで、気に留める余裕がなかったが———あの複製体はどうしたのだろうか。
放っておいて地上に出てしまったが……もしかしたらあの泥に巻き込まれて死んでしまったのかもしれない。
そうであるなら———あいつにろくな言葉もかけてやれなかった現状、非常に悔いが残る……。
だが、だがもしかしたら、俺達と同じようにあの古代都市から抜け出しているのかもしれない。そうであることを願おう。
ト……ッ。
近くの民家の屋根の上で何か足音と言うか……着地音が聞こえて見上げる。
「何?」
「いや、何でもない……」
俺の視線の先には何もいない。
視線を感じた。
魔王の複製体がそこに立ち、俺を見下ろしていたような気がしたのだが……気のせいだったのかもしれない。
「……それで、アンよ。貴様はあいつから……
俺は、いったん魔王の複製体の行方は置いておいて、ビバレント家に起きた悲劇について———その真実をアンに尋ねた。
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