第185話 vsグレイヴ、開始。

 この騒動には、グレイヴ・タルラントには、協力者がいる。

 それはここまでの経緯を考えるとギガルト・オセロットしか考えられない。

 そう指摘すると、グレイヴは顔に手を当て、


「クックック……ア~~~~~ハッハッハッッッ‼」


 と笑い始めた。 

 嘲笑するように、やけになったように、諦めたように。 

 彼の高笑いが古代都市ゼブルニアに響く。


「そうだろう? グレイヴ・タルラント。オレの父が貴様に手を貸している。そこから今の王立魔導機関の情報を得た。そこから魔族の情報を得た。この古代都市を始めとした古代魔族の遺跡を発掘し、古代兵器ゴーレムのように戦争利用を目論んでいた父は、貴様が王の座を失った後も繋がっていた。それは元からの忠義か、それとも立場が入れ替わり今度は貴様を使役しているのかもわからんが、貴様が魔族の歴史に関する正確な情報を得たのは、街に下ってからのはずだ。『スコルポス』を作った後のはずだ。そう考えると全ての辻褄が合う」


 シリウス・オセロットが作られた理由も。

 グレイヴがずっと『イタチの寄り合い所』で仲間を作りくすぶっていた理由も。

 俺たちが、オセロット家が城を訪問するタイミングで国王暗殺未遂事件が、それに見せ掛けた魔王の複製体の強奪事件があった理由も。


 全て———ギガルト・オセロットが手を貸していたからだ。


「そうだろう? グレイヴ・タルラント。お前は父の口から全ての情報を知った。歴史の真実を知った。そして絶望したのだ。それで元部下のオレの父と結託し、この騒動を起こしている———違うか⁉」


 父は王立魔導機関の主任で、古代の魔導技術の復活を目論みている。

 その機関からシリウス・オセロットは十七年前に生み出された。

 となると、十七年前から父は王立魔導機関に主要人物として務めていた可能性は高い。

 必然的に、当時国王だったグレイヴとも面識があるはずだ。

 そして、ハルスベルクの街の土地の領主であるギガルトが、その街で一番の商会のオーナーであるグレイヴと全く顔を合わせていないとは考え辛い。

 グレイヴは、『スコルポス』として活動していた間も、父と何度も会い、情報を交換していたはずだ。


 俺は今持っている情報をかき集めて、理論を組み立て、グレイヴに突き出す。

 グレイヴはずっと笑っていた。


 可笑しそうに———。


「クックック……大した奴だな……シリウス・オセロット。そこまで言い当てられるとは……だがそれを言い当てたところでどうなる? 貴様の父が我が同志だとしたら? お前は今からここで———死ぬんだぞ?」


 と、キラリと両手に持つ刀を光らせた。


「ハ———ッ! 別にどうもしないさ。オレは〝この後〟するべきことについて確認したかっただけよ。オレはこの後地上に戻り、父を問い詰める。貴様を倒し、捕らえた後に———な」


 挑発するように腕を組んでふんぞり返る。


「できると思っているのか? たかが学生の分際で———」

オレを誰だと思っている? 生徒会長、シリウス・オセロットだぞ?」


 にらみ合う———。

 そして————、


「シ————ッ!」


 と、グレイヴは歯をむき出しにし、その歯と歯の間から息を吐くと、俺に向かって突進してきた。

 二刀を構えて距離を詰めるグレイヴに対して、俺は、


「バルムンク!」


 と右手から魔剣を召喚し、構え、迎え撃とうとした。

 が————、


「行け! ベルゼブブ!」


 俺と刃を交える寸前———グレイヴは急ブレーキをかけて立ち止まり、指示を飛ばした。

 すると———、


「ガアアアアアアアアアアアア‼」


 グレイヴの背中から魔王の複製体が飛び出してきた。

 爪を尖らせて、

 距離が近い———!

 複製体はグレイヴの姿を陰に、俺から見えないように隠れて接近してきていたのだ。


「ク————ッ!」


 魔剣を上へと構え直す。

 上方から弧を描くように飛び掛かって来る魔王の複製体の攻撃を受けるべく。

 だが、その隙を付いて———がら空きになった横腹に向けてグレイヴが刀を振りかぶる。


 二方向からの同時攻撃————!


 しまった————完全に不意を突かれた上に防御ガードのタイミングをずらされた。

 複製体の爪の攻撃はガードできるが、グレイヴの攻撃にまで対応が———、


 キィィィィン……! 


 剣戟の音が鳴り響く……。


「お……?」


 グレイヴの疑問の声。 

 魔王の複製体の爪とグレイヴの二刀の横薙ぎに振るわれた刀は———全て受け止められた。


「貴様〝ら〟……!」


 俺の魔剣と———アンのナイフと、リタの手に握られた剣によって。


「ふ……ぅうぅぅ!」

「……………!」


 アンとリタは全身に力を籠め、必死にグレイヴの攻撃を受け止めている。


「お~、お~、まさかお前までいるとは思わなかったぞ。アン」


 そしてバチッとグレイヴは刀で二人を弾いて、距離を取る。

 魔王の複製体もグレイヴと同時に、俺の腕を足で蹴り上げて飛び、遠くの地面に着地する。


「ボス……」


 アンは苦虫を嚙み潰したような顔でグレイヴを見据え、


「……いや、親父オヤジ! こんなことはもうやめよう! 復讐は……何も生まない!」


 そう、言った。

 彼女の言葉を聞いたグレイヴは目を丸くし、


「———クッ、アッハッハ! 何を馬鹿なことを言っている? お前は本当にアンか? あのアン・ビバレントか? お前こそ誰よりも復讐をしたがっていただろうに。そこのシリウス・オセロットに対して、強い憎しみの炎を抱いていただろうに……クックック……そんな貴様が誰でも思いつくような綺麗ごとをのたまうとは……」


 笑われて、アンは一瞬ムッとしたが、それでもその場に踏みとどまり、


「だけど、結局は———〝そう〟なんだよ。復讐をしたって、失われたものは返ってこない。それどころか———また失ってしまうかもしれない。失ってからじゃ遅いんだよ! それを私はこいつから……いいえ……〝魔王ベルゼブブ〟から教えてもらった」


 アンは俺へと視線を移し、


「盲目的に命を奪う事の———愚かさを」


「……………」


 グレイヴの眉がピクリと動いた。


「だからやめよう! やめてまた……『スコルポス』を立てな直す!」

「立て直す?」

「なんだかんだで、楽しかったじゃん! 馬鹿な奴らを集めて、馬鹿なことやって、何もわかってない偉そうな奴らに馬鹿にされて……それでも楽しかったじゃん……」

「…………」


 グレイヴは———天を仰いだ。


「そうだな……ゲハル、リタ、フィスト……どいつもこいつも、儂の周りに集まってきたのはただの馬鹿ばっかりだった……」


 懐かしむように———言う。

 彼は明らかにアンの言葉に感化されていた。

 確かに、『スコルポス』が楽しい居心地のいい場所であったのは、部外者の俺でもわかる。でなければあんなにノリノリで『モンスターハント大会』に協力してくれないし、そんな気のいい奴らがグレイヴを慕い続けたりもしない。

 だが————、


「悪いな。アン……それでも儂は止まるわけにはいかんのだ」


 刀の切っ先をアンに向け、瞳に殺気を込める。


親父オヤジ……」

「憂うなアンよ。貴様のところの頑固おやじはこのオレが止めてやる」


 俺はアンを庇うように前に出ると、手首を回しながら、グレイヴ・タルラントを睨みつける。


「———フ、来い! シリウス・オセロットォ‼」


 老齢ろうれいの武人が吠える。

 空気がビリビリと震え、その声に応えるように俺は不敵に笑った。


 だが————本当に勝てるだろうか?


 彼は元々、『紺碧のロザリオ』シナリオ通りだとラスボスの一人———。


 最強の魔剣使い———グレイヴ・タルラントだぞ……。

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