第165話 マフィアボスハントクエスト、開始!
———『マフィアボスハントクエスト』とは、我ながらセンスのないネーミングだと思う……。
そう自嘲しながら暗い洞窟の中を進む。
「あの~、ちょぉっとよろしいでしょうかぁ……?」
最後尾を歩くナミ・オフィリアが不安げに問うてくる。
「……何だ?」
先頭を歩く俺の間にはアン、リタ、ロザリオと続いていてたのだが、彼女らが誰もナミの言葉に返事をしようとしないものだから。仕方がなく一番距離のある俺が返事をする。
「どうしてこんなことに……あと何でこんなメンバーなん……でしょうか……?」
ナミは前を歩く四人を交互に見比べ、全員が馴染みがない人間であることを確かめ、怯えたかのように肩をすくませる。
「繋がりが……見えません……」
「ふむ。確かに貴様には気になるだろうな。だがこのメンバーは非常に合理的なメンバーなのだ。これから捕まえようとしている『
「へ、何て言いました?」
……一番後ろを歩き、間に三人も人がいるせいか普通の音量で言ってもナミには聞こえづらいようだ。
手を耳に当てて聞き返していた。
「……ここにいる奴らは、お前以外皆『
「へ? 何関係の人ですって?」
ちゃんと声を張ったのに、ナミの耳にはうまく届いていなかったようだ。
だから———、
「お前の! 前の三人は皆元『
ドゴッとアンの肘が刺さる。
「大声でなんてことを言ってんのよ……!」
俺のすぐ後ろを歩いていたアン・ビバレントが恨みがましい目で見上げてくる。
「誰かに聞かれたどうするの? 一応、私たちだって今不法侵入罪を犯しているんでしょう……!」
首元で固定された全身を包むローブを引っ張る。
「無論だ。お前は正しい。
「だから、ここで追ってきた兵士にでも見つかったらご破算でしょう?」
「そうだな。だから先ほどの大声は軽率だったと謝罪しよう」
ナミが遠くから呑気な質問をしたからだ、と言い訳したかったが、そんな態度は男らしくないし、シリウス・オセロットとして取りたくなかったので素直に謝った。
「……でしょう……そうでしょう……あんたの本位じゃないでしょう……ここで捕まったら」
ブツブツとアンが何か繰り返し始める。
「なんだ? どうした、アン?」
小さな声ではあるが、その言葉の一つ一つはしっかりと俺の耳に届いている。
全部、同じことを言っている。
ここで捕まるわけにはいかないでしょう? と言ったことを延々と。
「————ッ! 何でもない! 私たちが早く捕まえないと滅びの大魔法・カナンが発動してみんなが死んじゃうかもしれない。オヤジがそんなことをするなんて考えづらいけれど……私はオヤジのことを思えば何もわかっていなかった……だから、止めたい」
これまで何度見たかわからない、暗く落ち込んでいるような表情を浮かべるアン。
そんな顔を見ているとつられてしまう。
「ですが、そんなもの本当にあるんですか?」
ロザリオが聞く。
「アッシュ王子からの情報は曖昧でした。具体的にはどのような滅びがもたらされるのかもわからない。ウチの……ボスもやはりちょっともうろくしているというか……妄想に取りつかれている可能性はないですか?」
世話になっただろうに……随分と辛らつなことを言う。
そう思っていると、その前を歩くリタが———、
「ある」
と、断言した。
「大魔法陣カナンはこの奥に確かにある。だからもしもボスを止めるのをご所望なら急がないといけない。ボスは何処にあるのかそのめどはついている」
「何? アッシュは位置がわからないと言っていたが?」
「伝承通りなら、古代都市ゼブルの大神殿にあるはず。ただ、単純に魔族がそこに辿り着いたらならすぐに起動できるというわけじゃない。都市ゼブルの六方にある小神殿の魔法陣に魔力を送り込み起動しないと、カナンを発動させることはできない」
リタが喋っている途中で、ロザリオの目がドンドン丸くなっていく。
「随分詳しいんですね……リタさん」
「基礎教養」
「いや全然基礎じゃあないですよ。王族でも一部の人間しか知らない情報をどうしてそんなに知ってるんです?」
「それは———、」
「親から聞いたそうだっ!」
俺はわざと大声を出す。
アンとナミがキョトンとした顔で見つめている。
らしくない行動だろう。発言を途中で慌てて遮るなんて行動。
だが、ここであいつの口を封じておかなければ言ってしまいそうだったからだ。
リタが、魔族だということを。
それは、今明かすのは得策じゃないと思った。
俺に言葉を遮られてリタも目線を上に、少しだけ考え込んで、
「ご主人様がそう望むのであれば」
と、言葉を飲み込むことにした。
「よし、では先を———、」
「「〝ご主人様〟⁉⁉⁉」」
今、大声を上げたのはアンとロザリオの二人だ。
彼らの言葉が「ご主人様……ご主人様……さま……さ……」と狭い洞窟内を反響しながら遠くへ飛んでいく。
「何を驚いているんだ?」
騒ぐな、と言ったのはお前だろうと抗議の意思を込めた目線を送る。
「だってリタさんと……! ウチの組織の主要幹部のリタさんがどうしてあんたのこと……! 人とつるむことを嫌う、無口で孤高のリタさんが……⁉」
「会長、これはどういうことなんです⁉ リタさんはクールな僕の戦闘技術の師匠なんですよ! そんな人が何で会長のことを〝ご主人様〟だなんて……! 一体何をしたんです? まさかいかがわしい事でも……!」
アンとロザリオが何やらパニックに陥っている。
そういえば、こいつらは俺の知らないところで『
そんな二人からすれば全くの他人であるはずの俺のことをいきなり〝ご主人様〟と呼び出したので戸惑いを隠せないのだろう。
「リタが俺のことをご主人様と呼んでいるのはメイドとして雇っているからだ。『
魔族や魔王についてのことは説明するわけにはいかないので、端的な事実だけを述べる。
「嘘だ! リタさんはボス以外に気を許す人間じゃない。ましてや人の下に仕えるなんて……あんた何かしたんでしょう⁉」
「そうです。リタさんは気まぐれだけど誰にもなつかない猫のような人なのに。いかがわしいことを……いかがわしいことをしたんですか会長⁉」
「どうしてそういう発想になるのだ?」
「ご主人様、と呼ばせているってことは、そういうことでしょう⁉」
ロザリオはそのワードに対してどんな偏見を持っているんだ……。
結局、俺達はギャーギャーと騒ぎながら洞窟の中を進み、その緊張感のなさは古代魔法都市に辿り着くまで、ずっと続いた。
「———で、結局何で私は
ナミが腰に下げた刀をちゃらちゃら鳴らしながら不満を言う。
「お前は純粋な戦闘要員だ」
「え、えぇ~………」
最高戦力であるナミを最後尾に、奥へ奥へと進んで行く……。
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