第160話 アンと遭遇するが、、、気まずい。
城での一騒動から三日の時が過ぎた。
俺はあの時のことを気にしつつも、今は打てる手がないと日常を謳歌した。
普通に生徒会長として学校行事のスケジュール調整や
アッシュの言葉によるとガルデニア王政府でグレイヴ・タルラントの問題は解決するらしいが、その言葉通りにいくとは思えない。だからと言って俺が干渉する理由がない。
傲岸不遜、天下御免の外道生徒会長と触れ回ってはいるが、所詮は一つの学校の生徒会長に過ぎない。
国家の問題においそれと関わることなどできはしないのだ。
それが———どうにももどかしい。
「ふぅ……あれから魔王は夢の中にも出てこない」
俺は聖ブライトナイツ学園の廊下を歩きながら息を吐く。
手には図書室から借りた魔導書を抱えて。
グレイヴの問題が俺の手の届かない場所で進んでいるとはいえ、どうにも落ち着かない俺は魔法の勉強をすることにした。攻撃魔法や防御魔法。体内の魔力操作方法など、ありとあらゆる知識を入れようと思っていた。
そうは思うものの、この世界の魔法学問というのは知識ゼロから始めるには少々難解で、基礎は何とかできたものの、ちゃんとした魔法を飛ばすのには魔法術式への理解と、ある程度の慣れが必要で、一夜漬けで習得できるものではなかった。
「夢の中でもしも魔王にまた出会おう事ができたのなら、このシリウス・オセロットの身体の使い方やあの魔剣の使い方でも聞くことができたものを……」
魔王はまだ、夢の中で現れてはいない。
あの魔王の複製体に呼応し、魔剣も出現させたのだからあの後すぐに夢に出てくるものだと思っていたがそんなことはなかった。最もあいつが夢の中に出てくるのはあいつの気まぐれ以上の何物でもない可能性があるので期待するだけ無駄だと言うところだろうが。
「あ……」
そんなことを思っていると、雀色……赤茶色の髪を持つ小柄な少女と出くわす。
「アン・ビバレント……」
今、俺が最も会いたくて、会いたくない少女だった。
「…………」
彼女は体をギュッと抱きしめ、思いつめた表情で俺から視線を逸らす。その腕の上に豊満な胸が乗っていて、思わず視線が向いてしまうが、彼女に気が付かれないうちにツイと横を向く。
「ちょうどいい、お前には聞きたいことが……」
「…………」
「……いや、やはりいいか」
グレイヴ・タルラントのことについて彼女には尋ねたかった。
元『
だが、
モンスターハント大会ではいろいろと無遠慮に話しかけてしまったが、あの大会を経ると途端に遭遇率が下がり、こうして顔を会わせるのも久しぶりだ。
というか、多分彼女からは避けられていた。
もう———父親の仇の顔など見たくもない、とそういう気持ちになっていると言う事なのだろう。
これからもやはり彼女には関わらないようにしようとその横を通り過ぎようとした。
が———。
「私も、あんたに聞きたいことがある」
アンが声をかけてきた。
「何?」
「少し話したい。あんたと二人きりで。誰にも———邪魔されない場所で」
アンは胸の真ん中に手を当て、その手をギュッと握りしめる。
「あ、ああ———!」
何を喜んでいるんだ俺は!
弾んだ声を隠しきれない自分を恥じる。
アンもどことなく表情が緩んだように見え———、
「そう、それじゃあ放課後に、」
「「「キャアア~~~~‼ アッシュ様よぉ~~~‼」」」
突然、廊下中に甘い歓声が響き渡った。
———アッシュ?
どうしてその名前がこの聖ブライトナイツ学園で出てくるのかと思い、声の下方向へ視線をやると———、
「あ、アッシュ⁉」
遠くから速足で俺の元へと向かってくる第一王子アッシュの姿があった。
「やあ、シリウス・オセロット。悪いが時間がないんだ。戸惑うのもわかるが、要件を言うよ」
彼は見惚れる女性徒の視線を完全に無視して俺の目の前に辿り着くと、手をがしりと握りしめた。
「君の手を貸してくれ! いや、君たちの手を! 生徒会長シリウス・オセロットとしての君の手がどうしても必要になったんだ!」
強く手を握りしめるアッシュを、アンが目を丸くして見ていた。
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