第155話 進撃の復讐鬼
ドォンという轟音が起きた。
階下で起きた爆発は、ガルデニア王城最上階にある玉座の間を大きく震わせた。
「キャア! なんですのお兄様! 怖いですわ」
「早く、早くここから逃げた方が良いのではないですか⁉」
第一王女ガルティナと第二王女ヴァルナが身を寄せ合い、兄である第二王子のダストにすがろうと手を伸ばすが、ダストは一瞥もくれずに歯をギリリと鳴らし、
「……ッ! お父様、我々はどうすれば⁉」
と、父である国王ジグワールに意見を求める。
だがジグワールは何も言わずに眉間に皺を寄せて前を睨みつけるだけだった。
自らの周囲を取り囲む子供たちを気にも留めていない様子で。
「王を守れ! 陣形を固めろ!」
「何が起きたとしても絶対に王族の方々に傷一つ付けるんじゃないぞ!」
衛兵たちが王の一族たちを囲んで入り口に向かって槍を構えて、兵士同士互いにガッチリと肩を寄せ合い隙間ないようにする。
「………お兄様は大丈夫でしょうか……アリシア殿下は」
そんな兵士たちが敷いた肉の防壁の内側で、王族たちの背後に隠れるようにルーナ・オセロットが身を縮めていた。
暗殺の矢が飛んできてから、緊迫した空気が流れっぱなしだった。
玉座の間は混乱を極め、王子と王女たちは恐怖で叫び出し、衛兵たちは王族たちを守らねばと必死……というか躍起になりジグワール国王の周囲に王子たちを集め、その周囲に防衛陣を敷いた。暗殺者の刃がどこから来ても迎撃できるようにと陣形を整えたのだが、爆発が起きたとなれば話は別だ。爆弾を投げ込まれでもしたら一網打尽である。
「おい、王たちを早く避難させた方がいいのではないか?」
「だけど、その道中で賊に遭遇でもして傷でもつけられてみろ……俺達の責任になる」
「おい! そこの衛兵たち! ぶつくさ言っていないでしっかりと周囲を見張っていろ次の矢が飛んできたらどうするつもりだ!」
「「は、はい!」」
こそこそと相談していた兵士たちをダストは目ざとく𠮟りつけ、来るかどうかもわからない敵に備えるように言いつける。
そうやって、玉座の間にいる全員が一か所で身を寄せ合っているうちに、下の階ではドォン、ドォンと爆発音が連続して発生し、その度に王の子供たちは「ヒィ!」と悲鳴を上げて体を震わせる。
やがて————その音は間近に迫り、遂には玉座の間の床が割れた。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああ‼」
びしりびしりと足元にまでヒビが走り第一王女ガルティナがヒステリックな声をあげる。
「衛兵! 衛兵!」
慌てるダストの視線の先———玉座の間の中央の床が盛り上がった。
そして———破砕。
下から何かがせり上がり、玉座の間の床を破壊し、姿を現す。
「ふむ。ここに来るのも、随分と久しぶりだ」
「……ガァ?」
二人組だ。
顔の右半分にやけどを負った老人と頭に角を生やした明らかに普通の人間ではない少女。
彼らは黒い魔力の光を全真に帯び、ふわふわと空中に浮かんでいた。
「な、何者だ⁉ 貴様ら‼ ここを何処だと心得ておるか!」
衛兵が槍の先を見て、威嚇のつもりか声を荒げる。
「ふぅむ……流石に十一年ぶりとなれば、儂の顔も忘れるか。歳は、とるものではないな……」
そのリアクションに老人は何処か寂しそうな表情を浮かべて顎を撫でた。
「おい、何をやっている早くあの侵入者を捕えろ! いや、殺せ! 今すぐにでも殺してしまえ!」
ダストが指示を飛ばすと、衛兵たちは互いに顔を見合せて頷き、
「「「刃よ、彼の者を貫け———
横一列に並んだ衛兵の持つ槍先に魔力の光が灯り、そこから矢のように鋭い斬撃魔法が飛ぶ。
老人と少女に向けて、一斉に————、
「ベルゼブブよ」
「ガゥ!」
老人の声に少女は答え、両手を前に掲げると黒い魔力の障壁が展開される。
「な———ッ⁉」
空中に作り出された円盤状の魔力の壁は斬撃魔法を受けるとその衝撃で波打ったものの、その奥の二人に攻撃は全く攻撃を通すことなく————、
「ガァァァ‼」
少女が———跳ねた。
空中を蹴り、衛兵たちへ向けて一直線に突撃し———、
「うわああああああああああああああああああああああああああ‼」
「ガ」
掌を横薙ぎに振るう。
指先に乗せた魔力の光を、衛兵たちに浴びせるかのように———。
すると、不思議なことが起こった。
「ゲコ……?」
少女から発せられた魔力の光を浴びた衛兵たちの姿形がたちまち変わりゆき、ぬめりけのある緑色の肌になり、どんどんと体は縮小し、指先は大きくなり、足は大きく曲がり、太腿にぴっちりと重なった。
「ゲコゲコ」
蛙だ。
槍を持つ衛兵たちは少女にカエルへと姿を変えさせられたのだ。
「
老人が空中を滑り、蛙となった衛兵たちが立っていた場所へ———王族たちの前へと着地する。
「貴様は……!」
ジグワール国王がようやくその重たい口を開く。
彼の横にいたガルティナとヴァルナがうるさく悲鳴を上げる中、老人は口元を歪めて笑い、
「ようやく会えたな……ジグワール」
「兄上……! グランド兄上……!」
ジグワールが敵意を込めた目で睨みつける。
そんな二人の老人がにらみ合う横では、王の一族が逃げ惑っていた。
「に、人間がカエルにさせられるなんてそんなのこと……‼ あっていいはずがない! 気持ち悪い! 気持ち悪い!」
「だ、誰かぁ! 誰か助けてぇ!」
「いやぁ! こんなのいやぁ! 怖いのはいやぁ!」
父のジグワールが玉座に座っているのに対し、それに背を向けてダスト、ガルティナ、ヴァルナの三人は一目散に逃げる。
「お~、お~、我が甥ともいうのが情けない。ジグワールよ。お主の子供たちは自分だけが助かろうと必死だぞ」
背後を見ようともせずに、ただ、恐怖から遠ざかりたい一心でかけていく子供たちの背中をグランドは寂し気に見つめ、
「あんな者たちはいなくてもよいな。ベルゼブブよ」
「ガ?」
「あいつらもカエルにしてしまえ」
優しい声色で非情な命令を下すグランドに、少女は嬉しそうに頷き、黒い魔力を手に宿し、ダストたちへ向かっていく———。
「ガア……ッ‼」
そして、その魔力を三人の王族に浴びせようと手をまた横薙ぎに振りまわした。
「うわあああああああああああああああ‼」
ダストたちへ向けて、飛び広がる液体のように黒い魔力が降り注いでいく———。
「———
だが、少女が放つ魔力は王子たちには届かなかった。
彼らの間に
「好き放題……やらせはしない!」
アリシア・フォン・ガルデニアだ。
魔族の少女が放つ謎の魔力を弾いた剣を、創王気纏う剣を振りまわし、若干こびりついた黒い魔力の残滓を払う。
彼女は負傷していた。額からは血を流し、ドレスは焼けて肩が露出し、スカートもチリチリに焼けて、火の粉すらまだ残っている。
「みんなは———ボクが守る!」
そんなボロボロの第三王女が、兄たちを背中に、魔族の少女へ果敢にも剣を向ける。
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