第148話 国王への説教
「し、し、し、師匠⁉ 一体何を⁉」
アリシアが慌てふためくが構うものか。
俺の視線の先では王が倒れた玉座からむくりと起き上がっているところだった。
「王よ。この国の王、ジグワール・フォン・ガルデニアよ。貴様は周りが見えているのか?」
「シリウス‼ 王に対して何だその口の利き方は!」
ギガルトが俺の肩を掴む。
この玉座の間で控えている他の衛兵たちも槍を前に構えて殺気立っている。いつでも指示があれば俺を突き刺そうという意気を感じる。だが、それは第一王子のアッシュが冷や汗を流しながらなんとか手で制している。
「黙れ父上。
「バカオヤ……! ジグワールを、国王様をどこまで愚弄すれば……!」
「おい、バカオヤジ!」
俺はギガルトが掴む手を振り払い、国王ジグワールに対して指を突き立てた。
「貴様は自分の子供たちが見えているのか?」
「……………」
「このような公の場で平気で自分たちの妹を馬鹿にし、あまつさえ服を脱げという下品な有様。そして客人である
ジグワールは黙って俺を睨みつけたまま床の上に尻をつけている。
何か言いたげだが、現時点では俺を値踏みしているような。そんな視線だった。
その視線をまっすぐに受け止めながら、俺は言う。
「そして国王であるお前はそんな娘たちの蛮行を諫めるどころか、自分の利益のことで頭が一杯だ!
言いたいことを、全て言い切った。
ギガルト、ルーナは恐々として顔を真っ青にし、王族の人間もかたずをのんで国王の出方を伺っている。
「し、師匠! いくら師匠とは言え、これはあんまりだ!」
唯一抗議の声をあげられたのは、俺をよく知り、国王の娘でもある第三王女、アリシア・フォン・ガルデニア。
「国王に向けて
自身のことだというのに。
アリシアに対する不当な扱いを是正しろと言っているのに、その当の本人は父親を庇う発言……。
「お前もお前だアリシア。何故言い返さない?」
「そ、それは……」
「無能王女だからか? 魔法が使えないからか? 第三王女だからか? だがお前は学園に来て変わっただろう! 強くなった。
「そ、それは……」
「ちゃんとものを言わんと、何も伝わらずに時間だけが過ぎるぞ。そしていつか取り返しがつかなくなる。そうなる前に言いたいことは言え」
「…………ッ! 師匠、ボクは、ボクは!」
言われて、ハッとしたようなリアクションをアリシアはしたがすぐに勇気がくじかれたように瞳を伏せて次の言葉を躊躇う。
もごもごと口を動かし、言葉を探しているようなアリシアを見つめながら待っているとずぞぞと衣擦れの音がする。
倒れた玉座から———。
「言いたいことはそれだけか?」
国王だ。
立ち上がり
「シリウス・オセロットとかいったな。貴様?」
「ああ、そうだ」
「面白い男だ。ふむ、気に入った」
何度か王が頷く。
これは、よくある無礼を働いたことで逆に国王に興味を持たれて罰を免れる。互いに何事もなかったかのように大笑いして終わるパターンかな、と思った。
が————、
「殺せ」
無慈悲に王は近くにいる衛兵に命令した。
「ち、父上!」
「何者がどういうつもりであろうと、国王に対して物を投げつけ、説教までするとは許し難し。そんな者を許せば他の者がつけあがる。しめしがつかん。だから殺せ。誰でもいい、そこにいるシリウス・オセロットとかいう者を処刑しろ」
国王の興味というものは一瞬で失われたようだ。
つまらなそうに手をぶんぶん振り、適当に誰かが指示を守ってくれるだろうとぞんざいな命令を飛ばしている。
アリシアは抗議をしているが……まぁ、こうなるよなというのはわかっていた。
さてどうするか……逃げるか、それともいったんは捕まるか……別にこのまま処刑されても俺的には一向に構わんのだが……体内に魔王がいるし。
どう動けばこれからのアリシアがい続ける世界のためになるのか考えていると、ふと、気が付いたことがある。
「む……? あれは……?」
矢———だ。
倒れた玉座のすぐ近くの床に矢が一本刺さっている。
あんな場所にあんなもの……当然あるはずがない。あっていいはずがない。
どうしてそこにそんなものがあるのかというと……!
「伏せろ‼ 国王!」
その可能性に気が付き、俺は国王に向かって駆け出した。
「え、衛兵! あの男を捕まえろ‼ 父上を殺そうとしている!」と、俺の動きに気が付いたダスト・ダン・ガルデニアが指示を飛ばす。
だが、驚異的な身体能力を保有するシリウス・オセロットの脚力は一つ飛びで国王の下に辿り着いた。誰も止めることができずに———。
「む?」と今、俺が迫っていることに気が付いたような間抜けな声を上げる国王に対して、
「狙われているぞ!」
俺は国王に抱き着くような形で飛び掛かり、床に再び押し倒した。
ズドッ!
「な、貴様何をするか⁉」
俺に襲われたと思った国王が声を荒げるが、
「あれをよく見ろ!」
床に刺さった矢を指さす。
「な……?」
「何者かが、貴様を狙っている!」
どこからか飛んできた、矢。
今、この瞬間にも狙撃手が王の命を狙っている証であった。
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